表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

あの日に限って・・

作者: アメメン

あの時、何故・・・という後悔の想いに、胸が重く塞がれて夜中に目が覚めた。

「あなた、今日は、少し具合が悪いの・・。だから、今夜は、早めに帰ってきてね・・お願い・・」

あの晩、携帯の留守電に吹き込まれていた妻の泣き出しそうな声が、今も私の耳に絡みつく。


メッセージを聞いたのは、最初の店を出た時だった。

「もう一軒行こう!」

上司に肩を叩かれ、断れる雰囲気じゃなかった・・というのは言い訳だ。

携帯をパチンと閉めた瞬間、次の店はあそこだ!と、頭の中で店のネオンが瞬いた。

皆を先導して歩き始めたのは、誰でもない・・私自身だった。

あと一軒、それで家に帰るから・・その時は、そう思っていた。でも、家に帰り着いたのは始発電車が走り始める少し前だった。

ソファーで眠り込んでいる妻を起こさぬように寝室へ行き、ネクタイと眼鏡を外して、ベルトをゆるめ、ベッドに潜り込むのがやっとだった。

 

翌朝、けたたましい目覚ましの音に起こされた。

いつもなら、妻が止めてくれる筈なのに・・・。

昨日の今日だから、ふて腐れているんだろう・・・ぐらいに思って、手を伸ばしてボタンを押した。

音は止まったが、自分の発したチェッという舌打ちの音が脳髄に響いた。

二日酔いなんかで、会社を休む訳にはいかない。

顔を洗おうと部屋を出ると、うたた寝をしているとばかり思っていた妻の身体は、ソファーの上で冷たくなっていた。


私は、お酒が好き・・という訳じゃなかった。

強くないし、人付き合いも苦手な方だったから、日頃は誘われても断っていたくらいだったのに・・。それが、何故かあの日に限って、断らずに誘いに乗ってしまったのだ。

酔った同僚に絡まれても苦にならず、むしろ楽しいとさえ感じていた。

そして、あの晩の酒は、不思議なくらい旨かった。


後で医者に言われた。

「奥さんは、何故、救急車を呼ばなかったんでしょうねぇ?あと少し処置が早ければ、助かったかもしれないのに・・」

付き合いが長かったから、妻は私の性格を熟知しているつもりだったのだろう。

私は必ず帰ってくる・・いや、すっ飛んで帰って来て、救急車でも何でも手配してくれるに違いない・・と、妻はそう思っていたのだろう。

私達は、大恋愛の末に結婚したという訳ではなかった。

断れない性格だった為に、野球部のキャプテン・・なんて柄でもない大役を押しつけられてしまった私。

妻は、それを陰で支えてくれた{しっかり者のマネージャー}だった。

私立の付属高校だったから、そのままエスカレーター式に同じ大学に進んで、学部もゼミも同じ。

一緒に居るのが当たり前になっていたから、卒業と同時に結婚したのだ。


私達の間には、男女の間に起こりがちな揉め事などは起こる訳も無かった。

当然、ときめくような出来事も無かった。

喧嘩もせずに、ただ平穏に、日々を積み重ねてきた。そろそろ子供でも・・と思い始めた矢先の妻の死だった。

悲しいという感情は湧いてこなかった。

妻の死を、自分でも驚くほど冷静に受け止めている。

ただ、私自身のこれからの人生について考えると不安になった。

一人残されてしまった私は、これからどうすれば良いのだろうか?

平日は、まだなんとかなる。会社に行って仕事をしていれば良いのだから。

だけど、日曜日は・・?

休みの日を、どう過ごしたら良いのか分からないのだ。

私は、どうしようもない戸惑いを覚えて布団をはね除けた。

 

暗い部屋の中で、そんな私の問い掛けに応えてくれるのは、携帯の中で私の帰りを待ち続けている妻の声だけだった。

おわり


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 初期の作品なのでしょうね。ストーリは追えるのですが、引っかかるところがないような……。出来れば、夫の年齢や風貌なんかがあると想像し易いかもしれませんね。 それと、なぜ、その日に限っての理由も…
2008/05/20 20:14 退会済み
管理
[一言] 前半のくだりがよかったので、妻への愛がまったく感じられない後半が残念でした。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ