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「タイムスリップ・ジテンシャナイト」

作者: 高橋 隆

「タイムスリップ・ジテンシャナイト」


 僕は、唐突に自転車を買った。

 およそ数年ぶりのことだ。

 そのことに関して、特に何も感じたことは無かった。

 数年前に自転車が壊れてしまったので、それからは徒歩で歩き、徒歩で帰るようになった。

 だから、徒歩だろうと、自転車だろうと、何も変わることはないのだろうと思っていた。

 ただ不意に、自転車を買った。

 お店の前を通りがかり、そういえば前に乗っていたなあ、と、そのくらいの気持ちで。

 それだけだった。

 

 僕は、自転車に乗った。

 そして、走ってみた。

 少しして、感じたこと。

 それは、風を切って走ることの、不思議さ。

 風景が、歩くときよりもずっと早く流れては消えていく。

 ペダルをこぐごとに、肌に風が伝わる。

 最近はひどくもてあましぎみだった腕や、足を、「動かしている」という感触。

 それらすべてが、なんだか不思議で、そしてどこか懐かしかった。


 僕は夜の街中を自転車で走りながら、記憶をたどっていた。


 そういえば、むかし子供だったころは、自転車で走るということ、ただそれだけでも、何だかわくわくするものだった。自転車に乗る前に、これから何があるのだろうという期待感をふくらませて、ぼくはペダルに足をかけた。そしていろんなお店をまわり、いろんな風景を眺め、そしてとある場所でしばらくたたずんでいることも……。それが、自然と自分の生活のひとつとなっていた。

 

 いつからか、ぼくは、それをすることが無くなっていた。

 それはいったい、なぜなのだろう。


ーーーーーー

 

 ぼくは、「今」、自転車に乗って街を走っている。

 そして、目の前に現れては流れ、消えていく風景だけを、見つめていた。

 それだけでも、理由はわからなかったが、楽しかった。

 

 僕は、しばらく自転車で辺りを走って、やがて自分の家の前に戻り、自転車から降りた。

 そして、冷えたペットボトルの水を、ゴクゴクと飲んだ。

 結局のところ、僕は子供のころを思い出したものの、なぜ、どうして自転車で走ることが楽しいのか、全部を思い出すことはできなかった。漠然と、風景が色々あって、夜風が気持ちよかったというイメージだけが頭の中に残っていた。

 ただ、ひょっとしたらそれでいいのかもしれない、とも思った。

 なぜなら、過去の僕と、今の僕は違うから。

 思い出すことが出来ないのならば、今も僕は生きているのだから、時間をかけて探してみればいい。

 そんな風に思った。


 それから僕は、自転車で走るついでに安物のデジタルカメラで撮っていた写真を、部屋に戻ってから眺めた。

 眺めながら、

 

 ”小さい子供のころはさすがにデジタルカメラは持っていなかったぞ、成長してよかったものだ”


 と、ちょっといやしいことを考えてみたりもした。


 終

 


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