突然の転移は偶然なのか?
人生は期待通りに進まないことばかりだ。期待したほど面白いことは起こらないし、期待するような方向に進むこともない。この世界には、多くの小説・漫画・アニメ・ゲームがあり、その中ではわくわくするような出来事があるが、それらは現実ではなく、あくまで空想の世界だ。
僕は毎日平凡な日々を過ごしながら、まったく期待通りにならないものだと、いつも考えていた。そしてそれは、これからの人生の方向を考えなければならない今この瞬間に、より強く感じられるものとなっていた。
「そろそろ就職について考えないとな」
大学の帰り道、友人と共に歩きながら、僕はふとそんなことを言った。
「もう大学3年だもんね。少しは気にしだす頃かな。あたしはどうしよっかな~」
「おれは、飲食系がいいな。料理するのも好きだし、いっそ料理人とか目指すか」
「いいですね。トーリさんは、自炊もされているそうですし、サークルでの持ち寄りパーティーでも、美味しい料理を持ってきていましたもんね」
「えー、でも料理人とか専門学校とか行かないときついんじゃないの?トーリにできるのかなぁ」
「うるせぇ!そんなもんは気合で乗り切るんだよ!そういうアソビは、何か考えてるのかよ?」
「あたしはゲームが好きだからな~。なんかゲームしながら稼げる仕事とかないかなぁ」
「プログラマーとかでしょうか。あとはゲームに問題がないか確認するお仕事があると聞いたことがあります。すみずみまでプレイしないといけないそうですが」
「うぅ、あたし細かいの苦手だからなぁ。向いてなさそうな気もするなぁ。モアちゃんは何か考えているの?」
「私は植物が好きですから、その道に進みたいと思っています。専攻も農学系ですし、植物の研究とか、品種改良とか、そういったことができたらいいなって」
「さすが、モアはしっかり者だな。おれやアソビとは大違いだぜ」
「モアちゃんお嬢様だし、おうちも立派だもんね~。それなのに土いじりとか大好きなんて意外だよ~」
「別に私はお嬢様ってわけじゃ…。それに、最近は家を継げってうるさく言われてちょっと疎遠になってて…。そ、それでチアキさんは、どんなお仕事を考えているのですか?」
「僕?僕は…」
僕は、何をしたいのだろう。就職と言ったものの、何も思いついていないのが現状である。これといった趣味もないし、大学の専攻も入れそうなところに適当に入ってしまった。一体僕は何がしたいのだろう。全く想像もつかない。都合よく、色んな職業をお試し体験できないものだろうか。
そんなことを考えていた時、それは起こった。4人の足元に魔法陣のようなものが現れ、まばゆい光を発した。僕たち4人は、突然のことに驚くことしかできず、あまりの光の強さに目を覆った。
光が収まったのを感じ、恐る恐る目を開ける。するとそこは、まさに荘厳といった雰囲気の部屋だった。天井は高く、周りには女神像みたいなものがたくさん並んでいる。ファンタジーそのものといった様子だ。
「ここは。僕たちはいったい…」
「おれたち帰り道だったはずだよな。それで、いきなりまぶしくなって」
「間違いないよ!これは異世界転移だ!くぅーっ!ラノベやゲームで幾度となくあこがれたシチュエーションがついにあたしにも!」
「ア、アソビさん落ち着いて。い、異世界なんて、そんなまさか」
「いや、確かに信じがたいけど、さっき僕たちの足元に魔法陣のようなものがあった。状況的にありえなくはないと思う」
「お、おう。おれも魔法陣みたいなものは見たぜ。ほんとにこんなこと起こるんだな」
「へ~、トーリも、異世界ものとか知ってるんだ」
「おれだって、お前ほどじゃないにしても漫画やアニメとか見るぜ。特に、異世界で元の世界の料理作って驚愕させるっていうストーリーが好きだ」
「そ、そうなんですね。私はそういうのあまりよく分からなくって」
「いやモアさん、僕も少ししか知らないし、知っていたところで実際に起こるなんて思わないよ。それにしても…」
「チアキくん、どうしたの?」
「いや、アソビは、こういうの詳しいと思うけど、こういうシチュエーションの時って、大体転移先に多くの魔導士とかいるもんじゃない?勇者召喚とか、すごい魔法使って呼び出すみたいな」
「うん、そうだね!それで、おお、ついに召喚に成功した!どうかお助けください!みたいな。あとは、神様に会って、チート能力もらうとかだよね。くーっ!テンション上がる~!…って、あれ?」
どうやらアソビも気づいたようだ。そう、僕たちの周りは女神像のようなものはたくさんあるが、人の姿は見えなかった。僕たち4人以外誰もいないのだ。静まり返った部屋で、言いようもない不安が押し寄せる。まさか、魔法陣の暴走で誰もいない世界に飛ばされてしまったのではないだろうか。
そんなことを考えていると、大きな扉が勢いよく開かれた。
「なんだ!すごい魔力がこの部屋からあふれていたぞ!一体…何…が?」
そこには、身なりのよい男性が一人立っていた。身なりがよいと言っても宝石がたくさんというわけではなく、白を基調とした、なんとなく童話に出てくる王子様的な感じの装いをした人だった。
「その洋服…ま、まさか…日本から来た方々ですか?」
その男性は、僕たちを見てそう言った。王子様のような身なりの男性…足元にあった魔法陣…日本から来たというセリフ…どうやら僕たちは、本当に異世界に来てしまったようだ。
身なりのよい男性は、ユウトという名前で、どうやらその人も日本から転移してきた人らしい。立ち話もなんだからということで、応接間らしき部屋へ移動した。
「とりあえず、皆さん突然のことで驚かれていると思います。見ず知らずの人にこんなこと言われてもすぐには信じられないと思いますが、ここは皆さんがいた世界とは違う世界、つまり異世界です」
「やっぱりそうなんだ!あぁ、あたしの夢が叶っちゃったなぁ。ここはファンタジー世界なんですか?やっぱり、魔法もあって、魔王とかがいて、世界の危機とかですか!」
「え、ええと、説明しますね。おっしゃるとおり、日本から見るとここはファンタジー世界です。魔法もあります。人間以外の種族もいます」
すると、ユウトさんは、地図のようなものを机の上に広げた。どうやらこの世界の地図のようだ。大きな大陸が一つ描かれており、大陸の真ん中に一つ国があり、その周囲に放射状にほかの国が広がっているようだった。
「これは、この世界の地図です。この中心にあるのが我々がいる国、そして周囲には、人間の国のほか、エルフや妖精、魔族などの種族の国がそれぞれあります。種族で分かれていますが、別に仲が悪いわけではありません。それぞれ独自の文化があるので、別々の国として分かれている方が過ごしやすいというだけです。魔族の国のトップは魔王と呼ばれていますが、別に争っているわけではありません。世界の危機というわけでもありません。今は、平和そのものですね」
「え、じゃあ僕たちはどうして召喚されたのでしょうか。こういう場合って、魔王を倒すために召喚されるとかが定番だと思うのですが」
「え、皆さん4人で一緒に来られたようですし、トラックにはねられたとかではないんですか?」
「「「「え?」」」」
僕たちは全員顔を見合わせる。・・・なんか話がかみ合っていない。とりあえずユウトさんたちが召喚したのではなさそうだ。そういえば、慌てて召喚の間とかいう場所に来ていたもんな。この突然の転移は偶然なのか…。
そんなことを考えていると、応接間の扉がノックされ、一組の男女が入ってきた。二人ともユウトさんと同じような服で色違いのものを着ていた。女性の方は赤を基調としたもの、男性の方は黒を基調としたものだった。よく見ると、男性の方はオッドアイのようだ。
「アカリ、ヒロ、何か分かりましたか?」
「魔力の流れに何かしらの介入があった痕跡が見られたわ」
「ふむ、誰がやったかは…まぁヒロなら当然分かったんですよね?」
「ああ、神だな。神界からの介入があったようだ」
「神様、キターーー!」
「アソビ、落ち着いて」
僕は、両腕を上げてテンションマックスになっているアソビを落ち着かせる。
「あはは、元気ですね。しかし、いったい何のために…」
「ユウト、今はそれよりも皆さんの不安を和らげることを優先しましょうよ」
「アカリの言う通りですね。我々は皆さんに危害を加えるつもりはありません。分からないことがあれば何でも聞いてください」
何を聞いたらいいのだろうと僕は考えていると、ずっとうつむいていたモアさんが手を挙げた。
「あ、あの…私たちは、元の世界に帰ることができるのでしょうか」
確かにそれは気になるところだ。異世界ものの作品によっては一方通行の展開もたくさんある。そんな不安を感じていると、ユウトさんにヒロと呼ばれた人が答えた。
「ああ、もちろん帰れますよ。”絶対”に帰れるからそこは安心して大丈夫」
あ、帰れるんだ。なんか拍子抜けしたが、どうやら一方通行の世界線ではないようだ。ほかの3人も少し安心したようだった。
「しかし、すぐにとはいかないかもしれないですね。試しに魔法陣を起動しようとしたんですが、魔力を流しても元の世界につながらなかったんですよ」
「ヒロの力をもってしても無理だったのですか?」
「そうだな、俺たちの能力はこの世界で発動するものだから、異世界まで影響を与えられない。データ通信をするときに、いかに送信側を完璧にしても、受信側に問題があったらデータを安全に送ることはできない。こちらに問題はなさそうだから、恐らく向こう側の問題だ。まぁ、ちゃんと周期を合わせれば、転移先の場所や時間も調整できるだろうから、少し時間がかかっても向こうの世界で行方不明とかにはならないだろう」
「困ったわね。皆さんに異世界で暮らせと言うのも酷な話でしょうし…」
なんとなく深刻そうな空気になってきていたが、アソビが元気よく手を挙げた。
「はいはい!異世界で過ごしたいです!こんなファンタジー世界なかなか体験できないよ!ね、みんなもそうでしょ!」
「お、おう。そうだな。おれも異世界の食文化とか体験してみたいぜ。な、チアキもそうだろ?」
「え。ま、まぁ、安全に帰れるに越したことはないから、1年くらい過ごすのは仕方ないかなとは思うけど。モアさんは大丈夫そう?」
「不安ですけど、仕方ないんですよね…うう…」
トーリやアソビが残る気満々なので、場の雰囲気に流されている感じではあるが、モアさんも異世界に残ることに了承した。こうして、様々な不安が残るものの、帰れるようになるまでこの異世界で過ごすこととなった。
……で、結局どうして召喚されたんだろう…




