雨
だいぶ昔に、20年ぐらい前?にやったお題「雨」の小説。
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放課後、帰宅しようとしたら、雨が降っていて。
気になるあの娘は、傘を忘れたらしい
濡れたアスファルトの放つ、あの独特のにおいを感じたのは、階段をおりきり、下駄箱の前にたどり着いてからだった。
開け放たれたガラスドアの向こうは、いつもより色が濃い。
音のない雨だった。
霧雨より、少し強い。
空はとてもとても暗くて、間違っても上がったりはしなさそうだった。
走ればなんとかなりそうだ。
三階上がって、自分のロッカーに置き傘を取りに行くのがかったるい。
上履きを脱ぎ、学校が許可しているブラックのスニーカーに履き替え、俺はコートを頭にかぶろうとして。
同級生の砂川がいるのに気がついた。
長い髪をいじったりしながら、空を見たり、校門を見たり、そわそわしていた。どうやら傘がなくて困っているみたいだった。俺のうちは歩いて五分ほどだが、砂川の家は確か……線路の向こうで、十五分ぐらいはかかったはずだ。
俺はコートを被るのをやめて、黙々と階段に向かっていた。
置き傘がある。
いや、一緒に入る気はない。見られて冷やかされるの、イヤだ。でも、砂川は、クラスの中で一番可愛い女の子で、好きというかそんな感じだったから。
早足で階段を昇る。足音がついてきた。
なんだろうと振り返れば。
同じクラスの藤尾が、ぎょつとしたように立ち止まった。やましいことがあるのだ。
俺と同じことを考えているんだろう。
奴はあまつさえ、相合傘なんて妄想をしているに違いない。
許すまじ。
俺は急ぎ足だが、決して走らず、藤尾を牽制しながら距離を稼いだ。
長い廊下。一番端までいかねばならない。
教室の廊下にずらりと並んだロッカー。
中村と書かれたプレートの張ってあるのが俺ので、四桁のナンバー錠がついている。
二秒で開けて。
折り畳み傘を取り出す。
藤尾が横に並ぶが、俺はもう廊下に足音を響かせている。
勝者、中村っ。
俺は心の中で腕を上げる。
無論、一緒に入る気はない。
『砂川、傘ねえの? これかしてやるよ。俺は上にもう一本、あるからさ。いいよ。使えよ』
そして翌日に、やせ我慢して濡れて帰った俺に気がついて、俺を意識する砂川っ!
完璧なシナリオだ。
飛び跳ねるように階段を下り。
「だから朝いったでしょ、傘もっていけって」
「でも、置いてってもお姉ちゃんも今日は六限目まであるから平気と思ったんだもん」
猫の模様のピンクの傘に、砂川が、お姉ちゃんと二人で入って帰っていく。
砂川の姉ちゃん、そういえば三年にいたっけ?
……えーっと。
雨は予想通り、酷くなるだけで。
今では雨音がはっきりと聞こえた。
俺は諦めて真っ黒な傘を差した。
後れてきた藤尾がちっと恨みがましい目で見たが、俺の思惑がうまくいかなかったことを察してにんまりと笑った。
むかつく。
傘を持つ手に当たる雨粒はいつもより冷たかった。




