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第2話「異世界召喚(巻き込まれ!)」

 暗く湿った地下には、古風なローブを来た人がたくさんいた。

 他にも、なんか壁際にはファンタジーの兵士っぽい人もいるし……ええー、どこここぉ。


 洗車機を起動したら、いきなり地下って……?


「やったぞ! しかも、女性だ!」

「間違いない、伝説お聖女様だ!」


 はい?


 聖女って、私??


 戸惑う私をガン無視してなにか盛り上がっている人たち。

 さらには、その盛り上がりをかき分けるようにしてやってきた人影が一つ。


「おい、どけどけ! 召喚に成功したって聞いたが本当か!」

「おぉ、これはこれは、殿下──ご覧のとおりです」


(わ、イケメンだー)


 ちょっと彫りが深くてくどい(・・・)感じがする顔けど、日本人離れしたイケメンがツカツカと近づいてくる。

 その目はこっちをバッチリ見つめており、ちょっと怖い。

 だけど、そんなこっちの戸惑いなど気にもしないでグイグイやってきたイケメンは、突然スザッ! と目の前で膝をつく。


「ひぇ!」


 なになに?!


 その整った顔のまま、こちらに手を差し出して──……スカッ!


「って、あれ?」


 隣に手を?


「あ、えみり……」

「おぉ……なんと美しい女性か。あなたのお名前を窺っても?」


 なんだ。私じゃないのね?

 つーか……コイツ(・・・)いたのか。

 

 どうやら、手を差し伸べらたのは、我儘お嬢様こと典型的な田舎の金持ち女──九条院えみりであった。


「あ~ら、(わたくし)を知っているのかしら?」


 当然のようにその手を取ったエミリは、

 バックに花畑でも生やしながらキラキラオーラを纏ってしゃなりと立ち上がる。


「いえ、お初にお目にかかります聖女様。僕の名は、ヘルメール。この国の第二王子です」


 はー?

 だいにおーじ?

 

(あ、第二王子(・・・・)かー)


 ……え、第二ってなにそれ?

 成田空港じゃあるまいし。


「ふーん。名乗られたからには、仕方ありませんわ。私の名はえみり。某企業の会長職と県議会議員を兼ねる父をもつ、九条院えみりですわぁ」


 おー。

 さりげなく自分の家柄もアッピ~~ルしてらっしゃる。さすがお嬢様。

 そして、こんなわけのわからん状況でも物怖じしないのは、素直にスゲーとさえ言える。


 ……いや、ホントお嬢様すげーわ。

 ランボルギーニ乗ってるだけあるわー。


「えみり。えみり。……おぉ、エミリ。なんと美しい名前だ。そんな美しき君を、突然このような場に招いてしまって誠に申し訳ない」

「結構よ。──理由は説明してくださるのでしょう?」


 いや、

 私は全然「結構」じゃないんだけどなー。


「もちろんだとも。すでに承知だと思うが、この世界は魔族の攻撃によって滅亡の瀬戸際に立たされている。その危機を救うため、異世界より呼び寄せた聖なる乙女の力により『浄化』せよ──という伝説があるのです」


 うん。


 ……すでに承知じゃねーよ。

 前提すっ飛ばしすぎでしょ。


「なるほど。それが私だと?」

「はい。そうです」


 そうですじゃねーよ!

 そも、ここはどこだよ!


 そして、えみりマジすげーな。

 なるほど、って言っちゃったよ。私は全然納得してないのにねー!


「それならば仕方ありませんわ。協力して差し上げましょう」

「おぉ! それはありがたい! 我が国を代表して感謝もうしあげます」


 そう言って手の甲に軽く口づけをする第二王子様。


「ふふっ。……して、この者は(・・・・)? 私と一緒かしら?」

「ん? この者──……」


 え?

 あ、私か!?


「むむ。……いつのまに」

「いや、最初からいましたけど?」


 っていうか指さすな、えみり。


「な、なんだと?……聖女が二人?」

 眉間にしわを寄せて鋭く睨む第二王子様。

「いや、聖女じゃないんですけど……」


 あえて言うなら……店長だろうか?


「殿下、もしやこれはあれでは?……ゴニョゴニョ」


 そこにローブを着た責任者っぽい人が、スススと第二王子に耳寄せする。


「──ん、なに?…………『巻き込み召喚』だと?!」

 いや、声デカいな。

 耳打ちの意味なくね?

「はい。伝承にいくつか事例があります。……その、召喚の儀式を行った先に、周囲のものを巻き添え(・・・・)にしてしまうとか」


 なんですとー。(棒読み)


「いや、巻き込みっていうか、巻き添えって言ったよね?」

「へー。ってことは、この者は、私のついでに召喚されたということね」


 うん。

 状況説明ありがと、えみりちゃん。


 あと、ついで言うなし。

 そして、指さすなっつーの!


「ふーむ……。それがホントなら、済まないことをしたな。しかし、どうしたものか」

 うん、帰して。

「殿下。ここはまず『ステータス』を確かめられるのがよろしかと。片方はハズレです」


 ふたたびゴニョゴニョ。

 めっちゃ聞こえてるけどね。……つーか、ハズレ言うなし。


「なるほど、そうだな。ステータスは嘘をつかない。……よかろう。まぁ、結果は分かり切っているがな」


 うん。

 まー、自分でいうのもなんだけど、私も聖女って柄じゃないわ。


 まず見た目が全然聖女じゃないもんね。


 30歳近い歳はまぁあれとしても、見た目は野暮ったいし、恰好だって田舎のガソリンスタンドのツナギ姿のままだ。

 GSのロゴはださいし、ところどころオイルじみがついてて匂いも油臭い。


 ──大して、えみりは、まぁ~~~お嬢様だわ。


 しかも18才。肌がプルンプルン♪

 髪だって綺麗に染めて縦ロールにしてるし、目立ってキラッキラ!(私? 淀んだ眼をしてますが、なにかぁ?!)

 格好だってブランドでばっちし整えてるし、アクセも高級感あふれてる。なにより、コイツの背後にはツヤツヤのボディが眩しいランボルギーニが今も鎮座している。


 ……すっげー。異世界ランボルギーニだよ。


「よーし、鑑定水晶を持ってこい」

「は、こちらに」


 準備がいいのか、ローブの人がスッと大きな水晶を差し出した。

 どうやら、あれでステータス鑑定とやらをするらしい。


「どうすればいいのかしら?」


 そして、

 ランボルギーニに腰をあてて余裕の表情のえみり。


「こちらに手を──聖女様」


 ……いや、聖女ってもう言うてるやん。


(しかし、ステータスねぇ?)


 ──これ、あれだかな?

 異世界召喚ってやつだよね。


「こう、かしら?……あら、なにか、文字がでてるわね」


 えみりの呟きとともになにやら画面が……。



  ブゥゥン──。



 ◇ ◇ ◇


レベル:1

名 前:九条院えみり

ジョブ:【聖女】

スキル:【闘牛】


● えみりの能力値


体 力: 292

筋 力:  86

防御力:   4

魔 力:2100

敏 捷: 340

抵抗力:   2


残ステータスポイント「±0」


 ◇ ◇ ◇



「おぉー! やはり聖女様!」

「で、殿下、それどころか固有スキル持ちですぞ! おまけのこの魔力の高さ」


 なにやら、第二王子とローブの人が大興奮して歓喜の声を上げている。

 どうやら当たりらしい。


 そして、えみりもさも当然といった顔で満足そうだ。


「はえー」


 本当に聖女って書いてる。

 しかし、スキル『闘牛(ランボルギーニ)』って、あんた……。まんまやん。


「よし、もう決まったな──しかし、そうなるとコイツはどうすれば。正直いらんのだが、伝承になにかあるか?」

「さて? 詳しくは……。伝承にないところをみるに、巻き込まれ者は大して役に立たなかったのかと」

「ほう、ならば──」


「へ?」


 いや。ちょ、ちょ!

 な、なんかヤバい空気だしてない? 「ならば」なによ?! なんか怖いって! あと、剣の柄に手ぇ置かないで。


「ま、待ってよ。わ、私のも一応見てよ!」


 でないとなんかヤバい気がする。

 このままじゃ何されるか分かったもんじゃないもん!


 それにほら、こういうのはアレだ。

 転生・転移とか召喚とかのボーナスがついて、なんか凄いことになるはず。


「あーん?……ちっ、どうする?」

「一応みてもいいのでは?」


 面倒くさそうな王子に対し、念のためを強調するローブの人。

 なんでもいいから、貸せって。


 あと、舌打ちすんな。


「こ、こうですよね……? あ、ほらほら! なんか出てきたー」


 なんか出ろーって念じたら、じわーっと文字が浮かんでくる。

 えみりの時と同じだ。

 だから、きっとなんか凄いのが出てくるはず……。



  ブーンン……。



 ◇ ◇ ◇


レベル:1

名 前:長瀬あかり

ジョブ:【ガソリンスタンド】

スキル:【せんしゃ】


● あかりの能力値


体 力:  15

筋 力:  76

防御力: 124

魔 力:   6

敏 捷:   8

抵抗力:   2


残ステータスポイント「±0」


 ◇ ◇ ◇



 お、おー。

 ……って、なにこれ?


「ガ、ガソリンスタンド?」


 え?

 それってジョブか? 施設じゃなくて??


「んー。なんだこれは?」

「は、はて。初めて見ますな? そして、固有スキルに『せんしゃ』ですか。……ふーむ、聞いたことないですが、珍しいものかもしれませんぞ」


 おっふー。


「よ、よかった……」


 出てきたジョブは予想外だったけど、なんとか首の皮一枚で繋がった感じ。


 だけど、油断はできない。

 おーじ様はまだ胡散臭そうな目で私を見てるし、ローブの人だって、これはまだ「珍しい」で止まってるだけだ。


 しかし、ステータス低いなー。

 ジョブもスキルも、なにこれ?


「ぷっ。ガソリンスタンドって、そのまんまじゃありませんこと~。そして、せんしゃぁー? あぁ、そう言えば、アナタにここに来る前に洗車を頼んでいましたっけ」


 黙れ、えみり。

 闘牛のくせに。


「ふーむ。よくわかりませんが、ためしに見てみてもよろしいのでは? もしかしたら、なにか有用なものかもしれませんぞ」

「ふん。俺はこんなオバはんのスキルが使えるとは思えんがな」


 あん。

 いま、オバはんつったか?


 殺◯すぞ。


「……で。どーしろとー?」

 棒読みしつつ、

 ちょっと睨んどく。

「ふんっ。いいから、そのスキルを使ってみせろ。……ジョブは一定の条件がないと分からんが、スキルならすぐできるはずだ」

「そ、そうなの?」


 いやでも、

 そう言われてもなー。


「ほら、スキルを使ってみてください。『せんしゃ』とはなんです?」

「だから、そう言われてもー。うーん」


 いきなり言われても困る。

 しかし、注目されたので、渋々「せんしゃ」を見せる。


 ──と、いってもだ……。


「えーっと、『せんしゃ』っていうのは、こう……」


 ちょうどツナギのポケットに入っていた高吸収スポンジタオルを取り出すと、目の前にあるランボルギーニの汚れを落としていく。


 まぁ、新車のランボルギーニの洗車なんて、ものの数十秒で終わるんだけどね──ゴシゴシっと。


 おぉー。

 ピッカピカになった。さすが高級車、ええワックス使ってるわー。


「……うん? 何をしている?」

「スキルはどうしました?」


 いやだから。


「これが『洗車』ですけど?」


 ほかにどうしろと。

 でもすごくなーい、ピッカピカ──……。


「ぶふっ!」


 その時、たまらず吹き出す女。

 言わずと知れた、えみりだ。

 そしてようやく意味に気づいた第二王子とローブの人も、つられて吹き出す。


「ぶ、ぶははは! そ、そうか! 洗車(・・)か!」

「ああー。馬車とかを洗う、あの洗車(・・)ですか! なるほどなるほどー!」




 あ、あはははー。

 そうでーす。




「ど、どうっすか? 皆様のお車のお洗車(・・・)、いまならお安くしときますけど──」


 ニッコリ。




 とりあえず、

 大爆笑の第二王子たちに、三十路前のきれーな百万ドルの笑顔をたっぷりと見せてみた。

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