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第17話「遠征」

 キュロキュロキュロキュロ……!



 背後から夕陽を受ける形で爆走する戦車が一台。

 言わずと知れたチハたんであーる。


 乗り込むのはもちろん、

 異世界系女子こと、この長瀬あかりと愉快な仲間たち!


「いや、誰が愉快な仲間たちだよ」

「え? 何も言ってませんけど……」


 私、声に出してた?


「顔に出てるから」

「いやいや! どんな顔ですか、まったく」


 ほんと、失礼しちゃうなー。


「いやも、まったくも、失礼も、こっちのセリフなんだけどねー……まぁいいや。それより、ナガセはよかったのかい?」

「はい? 何がですか?」

「いやさ。最初、オーク退治って聞いて渋ってただろ?」

「あー」


 渋ってたというか、なんというか……。


「オークって、あれな魔物ですよね?」

「あれが何か知らないけど、オークはオークだね」


 ってことはやっぱりあれ(・・)だ。


「豚顔で、怪力。なんでも食べて……性欲の塊。あってます?」

「あってるね。……なんだ詳しいじゃないか」


 まー現代っ子なもんで。


「ってことはですよ?……ほら、私って女子じゃないですか?」

「ふむ、ふむ。……続けて」


 え?

 あ、うん。


「つまりほらー。万が一、捕まったりしたら、ね……」

「うん?……うんん? え、何が言いたいんだい?」


 またまたー。

 わかんないふりしちゃってー。


「あーれー♡ な、展開が待ってたりしたら、ほらぁ、さすがに貞操の危機を感じるじゃないですかぁ」

「貞操?」「危機?」


 はい、そこの双子ども黙れ。


「え、え~っと、もしかして、なにかぃ? つまり、万が一捕まるようなことになったら、オークにナニをされちゃうかもしれないってことかい?」

「んもー。みなまで言わせないでくださいよー……って、なんですか、皆して微妙な顔して。……ミルヒ君まで」


 私、変なこと言った?


「いやー。変といいますか……ナガセさんは多分大丈夫かと」


「ぶはははは! ナガセ、そりゃ考え過ぎだよ」

「そーそー、お前に需要は、あっいったぁあああああああああ?!」


 どっか-ん!


「い、いってー!」

「なにしやがる!」

「こ、殺す気ですかぁ!?」


 うん。

 死ね。


「だからって蹴り落とすなよ……って、あいだだだだだだー!」


 ぐりぐり!


「手ぇ、手ぇ踏んでるぞ、このクソアマ!」


 だれがクソアマじゃ。


「えっと、ドミトリさん。そこな男連中は何回まで殺していいんでしたっけ」

「一回で堪忍してやってくんな……まぁ、さすがにデリカシーがなさすぎだけどね」


 そーですよ、まったく。

 双子はともかく、ミルヒ君まで。


「す、すみません。そう言うつもりで言ったわけでは──」

いいおおせん(言い直さん)で結構。……ふん、どーせ私は魅力に欠けますよーっだ」


 特にドミトリさんみたいに色々デッカイ人がいると特に感じるね!


「い、いやそういう意味では……」


 はい、ダウト。

 今、ミルヒ君の視線がどこを向いたか、ちゃーんと見てましたよー。


「それに、その……オークが女性を襲うのは、その繁殖のためでして──」

「で?」

 で、なによ?

 私じゃ役不足ってか!!

「そ、そういうわけでは、あいだだだだ!!」

「ふん!」


 アイアンクローでミルヒ君は勘弁しといてやる。

 オッサンだけど、可愛いからね!

 みなみに、ホビットなんだって──この子。


 あと、ミルヒ君曰く、

 さすがに子供までオークは襲わないという……って、つまりそういうことじゃねーかよ!


「ま、まぁまぁ。じっさい、捕まったら危ないのは男でも同じことだしね。とくに、奴等は子供を好んで食うし」

「……物理的に?」


 性的な方向じゃなくて?


「そりゃそうさ。悪食なんだよ、オークは」

「ってことは。襲われたっていう商人さんたちは、もう……?」

「まー、十中八九そうだろうね。生きてるのが半分、死んでるのが──……というか、食われたのが半分。きっつい現場ではあるねー」


 げー。

 それは、あんまし見たくないなー。


「おかげでサンズベルトは日干し寸前だよ。知っての通り、あの街は魔物との最前線さね。農業なんかの生産力はほとんどないから、食料なんかは主に輸入に頼ってるのさ」


 そして、その輸入が途絶えそうになってると……。

 まぁ、道中オークに襲われるなら、誰も寄り付かないよねー。

 誰だって、物理的にも性的にも食われたくないだうし。


「ということは依頼料の金貨100枚も決して高いわけじゃないんですね」

「あぁ、むしろ安すぎるくらいさ」


 確かに命の値段にしては安い気がする。


 おまけの今回討伐対象となっているオークは、その辺の獣とはわけが違う。知恵があり、武器を携えた社会性のある魔物だ。

 そんなのが大挙して街道を占拠し、道行く隊商を襲っているのだ。


「なるほどねー。そりゃ帰還したばかりのドミトリさんを急遽派遣するわけだ」

「そういうことさ。……そんなわけで、儲け話なのは事実だけど、無理なら断ってくれてもいいんだよ?」

「んー。そうしたい気もしますが、」


 カニバルな現場はちょっと……。

 だけどねー。


「……ぶっちゃけ、困ってますよね?」

「う。ま、まぁね」


 やっぱり。


「いくらなんでも出会ったばかりのドミトリさんたちが話を持ってきたのって、美味すぎると思ったんですよね」

「はー……。参ったね。ナガセには全部お見通しかい」


 ガシガシと頭をかくドミトリさん。


 まー、善意100パーでないのはもともとわかってたし、怒る気もない。

 なにせ、こちとら社会人なもんで──。

 理不尽には慣れているのさ。


「ただ、言い訳くらいさせとくれ。儲け話なのは本当さ。クエストを受注した時にも話したと思うけど、アンタはあくまで現地までの移動支援。……作戦の主力はアタシたちだからね」

「そういえばそう言うクエストでしたっけ」


 オークが立て籠もる城塞を少数精鋭で強襲し、城門を突破。本隊の突入の先駆けとなる──みたいな感じだった。


 そして、その先駆けかつ精鋭というのがドミトリさんたちAランクパーティ『赤い旋風』というわけだ。


 昨日はろくに考えずホイホイ受けちゃったけど、

 私に求められたのは、『オーク討伐の補助』だ。つまり後方支援ってわけ。


 ちなみにドミトリさん達が帰還する前のギルドの計画では、すでに先発し城塞を包囲している大軍でごり押しする作戦だったらしい。

 そのため、衛兵隊を始め、近隣の冒険者ギルドで動ける人員を総動員していたんだとか。


 ……もちろん、城塞攻撃にかかる損害は無視だ。


 さすが異世界。命が(やす)ぅ~い。


「そんなわけで、とりあえずアンタは私たちを城塞付近にまで送ってくれりゃいい。あとは、アタシらがやるから。……ぶっちゃけ、送り届けてくれるだけでもめちゃくちゃ助かってるしね」


「そーそー」

「歩いて2~3日かかるところが、チハたんのおかげで半日だぜ」


「それだけでもギルドが大金を払う価値がありますよ」


 なるほど。


 たしかにチハたんの最高速度時速38Kmは相当に早い。それを燃料が続く限り維持できるのだから、普通に移動するよりも早く現場に到着できるだろう。

 そして、そのあとはドミトリさんの補助に加われば、それだけで金貨100枚……。


 確かに美味しいクエストだ。


「……でも、移動費だけでそれだけもらうのもちょっと気が引けますね」

「何言ってんだい。正当な報酬さ。アンタが送り届けなきゃ、無謀な攻城戦を仕掛けるところなんだよ?」


 そう言われるとそうなんだろうけど、うーん。


「…………決めた。私とチハたんでドミトリさんを援護するよ」


「は?」


「援護って、おま」「し、死ぬぞ?!」

「そうですよ。それにほら、ナガセさんだって一応女性ですし──」


 ……うん。

 ミルヒ君はあとでちょっと顔を貸してもらうとして。


「だーいじょうぶだって、こうみえて私強いし!」


 主にチハたんがね!


「それにほら移動の支援でしょ? 遠足は帰るまでが遠足っていうし、最後まで送り届けますよ。……それに、ちょっとくらいの援護なら、よゆーよゆー」


 なにせチハたん硬いし、盾くらいにはなれると思う。


 それに、聞けばオーク単体の脅威度はB程度。

 つまり、グレーターガルダやダイアーウルフの群れよりもはるかに格下だということだ。


 それを下したチハたんなら、まさに無敵だと思う。


「んー。本気かい? そりゃ、チハたんが加わってくれるなら助かるけどさ」

「でしょ?」


 ドミトリさん達だって、本音ではチハたんの援護が欲しいはずだ。

 それに攻城戦なんて、現代っ子の私に経験はないけど、ドミトリさん達が苦戦することくらいわかる。


「まっかせてよ! ここはチハたんの防御力を信じて」

「うーん……ホントにいいのかい?」

「いいからいいから! 私を信じてー」


 こうして援護を請け負った私!


 一見すると安請け合いにも見えるけど、これにはもちろん打算もある。


 報酬にあった戦利品の獲得はもちろんのこと、

 オークそのものを討伐することで得られる経験値は、きっとジョブ【ガソリンスタンド】をさらなる高みに導いてくれるだろう。

 これは、後ろで高見の見物をしているだけでら決して得られないものなのだー。


「……わかったよ。なら、援護を期待させてもらっていいかい?」

「もっちろん! この私が援護するからには大船にのっていなさーい!」


 いつぞやドミトリさんがやったみたいに、どーん! と胸を叩く。


 ……うん、揺れないよ。

 知ってるからそんな目で見るなし、男ども──!


 こうして微妙に惨めに感じながらもドミトリさんたちを乗せたチハたんは、一路オークが潜む城塞付近に向け爆走を続けるのであった。


 そして、


「おー。あれが城塞!」

「だな。そんであっちが攻略隊の本部だね」


 走り続けること、まる半日。

 途中で休憩と給油を挟みつつも、なんとか日暮れまでに目的地に到着することができたのであった。


 そこには、夕闇に不気味に浮かぶ山頂の城塞と、その麓にびっしりと並ぶ天幕の群れがあった。

 当然、城塞がオーク陣営で、

 多数並んでいる色とりどりの天幕が我が軍であーーーる。


「おー。すっごい数!」

「あぁ、近隣からも冒険者をかき集めたみたいだねー」


 チハたんはスゲー目立ってたけど、それ以上にドミトリさんたちの到着がここの人たちに与えた影響は大きかった。


 そりゃそうか。


 下手すりゃ、ここに集まった人たちで無謀なごり押しをするところだったんだもんねー。


「そして、あそこにオークが……」


 双眼鏡で見る先には、古めかしいボロボロのお城。

 なんか、夕日を背負ってるだけでも、もの凄く雰囲気があるんだけど、

 カラスがめちゃくちゃ飛んでるせいでなお不気味だった。

 おまけに、形が歪ですっごい悪そうなイメージがしてるぅ……。


「あぁ、よーく見ときな。……なんと、明日早朝から攻撃開始だってよ。間の悪いことに、数日前にも隊商が襲われたらしくてね……その捕虜の状態を鑑みてのことだそうだ」

「捕虜……」


 オークの?


「そ、それは急がないといけませんね」

「あぁ、できればいますぐにでも攻めたいところだけど、さすがに夜はマズイ。オークも夜目が聞く方じゃないけど、こっちはそれ以上だからねー」


 人間ですものねー。


 冒険者の中には獣人やら、夜目の利く種族もいるけど、少数だし、そもそも攻撃の主力がドミトリさんたち。


 なら、夜間攻撃の芽はないね。


「ま、そういうことだから、今日は休もうぜ──腹減ったよ」

「そーそー、攻撃前は鋭気を養うもんさ」「酒も解禁だ」


 いや、アンタら解禁もなにも、昨日も今日も飲んでたじゃん。

 ……いいけどさ。


「あ、そういうことなら、コンビニ開店しましょうか?」

「おぉ! 待ってましたー」


 ミルヒ君が調子のいいこと言うねー。

 っていうか、ドミトリさんたちを始め、絶対最初からそれを期待してたでしょ?


 遠征部隊の天幕地域にお邪魔させてもらったけど、冒険者たちの炊事場の様子を見るに、とても御馳走を食べてる感じがしないもんねー。


 メニューは、ほらあれ。


 まとめて焼いた固いパンに、干し肉と乾燥野菜のスープ。

 それに、エールが一杯付くって感じのメニューなんだって。


 まぁ、それでも町から比較的近いし、街道上ということもあってだいぶ恵まれてるっぽいけど……。


「あ、そうだ。せっかくだし、この地域にいる他の人にもふるまいましょうか」

「え? いいのかい? そりゃーみんな喜ぶだろうけど──」


 なら、決定だね!


「よし、そうと決まれば……」


 ニコリ。


「……あ、この目は」「もしかして、またかよ?」

「はぁ……しょうがないですね。その代わり、奢って下さいよ」


 もっちろん!


バイト(・・・)の暁には、みんなには揚げたてのホットスナックを無料でごちそうするよー」

「「「「おぉ! ならやるー!」」」」


 もはや見慣れた光景になりつつ感じで、ガソスタの帽子を受け取ったドミトリさん達が、コンビニのレジに立ち、手隙は客の呼び込みと列の整理にとりかかるのであった。




「さぁさ、いらっしゃーーーーーい! 異世界ガソスタ、コンビニ併設店、はっじまっるよーー♪」

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