二の姫の事情
「兄上、兄上」
第三皇子が、床に横になっている第一皇子に声をかける。声に力がない。
「はっ!私は……一体……?」
あ、起きた、第一皇子。
「兄上は倒れられたのです。覚えておられないのですか?」
第三皇子がたどたどしく告げる。やはり声に力がない。
「あ、いや、お、覚えている……私は負けて……初めて叩かれたな」
第一皇子が左頬に手を当てて俯いている。
えっ?何だか顔が赤い⁇
変なスイッチ入ってる⁈
ここは某アニメの有名なセリフ『父親にもぶたれたことないのに!』を期待していたのに。
まあアニメはおろかテレビのないこの世界で、エンタメは書物しかないからな。
私は東家二の姫、月。東領の中でも山奥にある龍泉の里の生まれで、前世は日本人でした。
思い出したのは7歳の時。修行中に岩に頭をぶつけて転倒しまして。その衝撃で急激に脳裏に映像が流れ込んできました。それがいわゆる前世の記憶を思い出した瞬間なのだと思います。
だけど、そこからはしんどかった。
例えるなら目の前は古代中国の農村なのに、突然高層ビル群の映像が重なっちゃうことがある。記憶がフラッシュバックするような感じなんだけど、現実との差がありすぎて認識が混乱しちゃう。平衡感覚が揺らいで立っていられなくなって倒れちゃう。
たぶん脳の処理能力がパンクしちゃうのだろう。誰かの生きてきた人生の情報を処理するのに、当時7歳の私の脳は負荷に耐えられなかった。異世界転生で第二の人生を謳歌するのは、私には難しいことらしい。
そういうことを繰り返した挙句、倒れた先が運悪く川辺で、私は気を失って溺れた。
溺死しかけて目を覚まさない私に対して、両親は手を尽くしてくれたけど、最後は神頼み。東領の守り神である龍神様に、私の命が助かるように祈った。
その願いを聞き遂げた龍神様が私の命を救ってくれて、無事に目を覚ましたというわけです。
龍神様は弱った身体を救ってくれただけではなく、前世の生きた記憶も消してくれた。私には重すぎて、今世を生きていく上で障害になりつつあったから。
でも一度受け入れた記憶を完全に消せたわけではなくて、前世の記憶は単なる知識になった。
つまり私は日本人だったことは覚えているけど、自分の名前や年齢、どうやって生きて死んだかは覚えていない。日本で見た物やあった事は覚えているけど、親や友達個人のことは覚えていないってわけ。
だから思わず某アニメキャラの有名なセリフが出てきちゃったんだけど、それだけではない。
これから向かう先にあるのは、リアル天下一武道会のリングさながらの武闘場!某有名アニメの天下一武道会の石造りみたいなリングを完全再現したような場所で、湖の中に浮いているように見える。
次の勝負はこの場所で行われる棒術。
武闘派第二皇子と対戦するのは、運動神経抜群女子、三の姫。小柄で細身ながら、潜在能力は東領一だもの。
これは特等席で見るしかないでしょ。
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