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Épisode2-7(2)

――Part2――


神殿の奥、白く静かな回廊。

その先に広がる特別室に、私は足を踏み入れた。


「こちらです、ルリ様」


書記官の男性が示したのは、淡く輝く光の円。

魔法陣のように床に描かれたその中に立てば、“過去の記録”を視ることができるという。


「この記録は、百年以上前に“この地に現れた異邦の者”――つまり、あなたと同じく“異界から来た聖なる者”のものです」


「……私と、同じ?」


心が跳ねた。

ここに来る前にも、私のように“呼ばれた”人がいたの?


「どうか、怖がらずに。これは、あなたの力の由来に関わるもの。あなた自身の“存在の真実”を知るための第一歩です」


私は小さくうなずいて、光の輪の中にそっと足を踏み入れた。


 


――その瞬間、視界が白く染まった。


目の前に浮かぶのは、見知らぬ景色。

黒い霧に覆われた土地で、ひとりの女性が手をかざし、光を放っている。


その光が、霧を裂き、地を清めていく。


「――これが、“浄化”?」


だが同時に、彼女の体は揺れ、膝をついていた。

そして、静かにこう告げられる。


“この力は、癒しではない。裁きである”

“悪しきものを消し去る代わりに、使い手の存在をこの世界から薄くする”


(……私も、いずれ“この世界”にいられなくなる?)


怖かった。

けれど、それでも。


(それでも、私は――)


映像が消えた。視界が戻ると、書記官が静かにこちらを見ていた。


「見えたようですね。……それが“白の光”を持つ者の宿命です」


「宿命……」


「あなたの魂は、この世界と元の世界――どちらにも属せない。力を使えば使うほど、その境界は曖昧になっていくのです」


「……じゃあ、私は戻れなくなる?」


「可能性はあります。けれど――あなたの“意思”次第でもある」


私の心が揺れる。


すると、書記官がそっと、蒼い石の護符を差し出してきた。


「これは“魂の座標”を保つための護符。この国の古き神官が遺したものです。あなたが“この地に在る”と選ぶ限り、あなたの居場所をつなぎとめることができるでしょう」


私は、それを両手で受け取った。


「……ありがとう、ございます」


 


――――――


外で待っていたイーライさんが、駆け寄ってきた。


「遅かったな。……大丈夫か?」


私はうなずきながら、小さく微笑んだ。


「うん。ちょっとだけ……怖かった。でも、少しだけ、自分の力を受け入れられた気がします」


彼は目を細めて私を見つめると、こう言った。


「俺は、ルリの力に何もしてやれない。でも、戦う時は、絶対にお前を守る。……どんなことがあっても」


胸が熱くなった。


「ありがとう、イーライさん」


そう口にしたとき、私はようやく、自分がこの世界で“何かを選ぼうとしている”ことを自覚していた。


これは旅の始まりではない。

けれど、“私”という存在が、この世界で生きていくための――確かな第一歩だった。

kasumisou

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