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Épisode2-5


イーライは、その音に気が付くと同時に音がする方向に警戒しながら剣を抜いた。

「ミーテル!ルリを連れて逃げられるか?」

「出来ない事はないけれど、凄く遅くなるかもしれない…。」

「分かった、お前はルリのそばにいろ。」

「うん。」

そんな会話を終えたイーライ達の前に黒い霧が出てきた。

「これは………!」

イーライは近寄って来るものが人間ではないと悟り、剣を前に突き出すのではなく水平にかまえ姿勢を低くした。

イーライがかまえている間に黒い霧が段々と濃くなっていきソレが勢いよく近づいてきた。近づいてくる音に合わせて前に突き出すように姿勢を突き出して姿勢を更に低くしていく。

そんな状態を十数秒繰り返していると、黒いモヤを纏った岩石が飛び出してきた。それと同時に、イーライも飛び出し剣を振り向かってくるのを止めた。剣がソレにあたると金属同士が勢いよくぶつかり合う音がした。

イーライがソレを止めたことで瑠莉とミーテルはソレが岩ではないと理解した。

全長はおおよそ150前後のソレは4本脚で樹のようにしっかりと立っており体毛はなく岩と見間違うような硬い鱗に体全体がおおわれている。

黒光りしている長い牙が、ソレの名残を思わせていた。そう、ソレを分かりやすく説明するなら硬い鱗を持った巨大なイノシシが今、目の前の彼女らを踏み潰そうと立ちはだかっていた。

イーライが1人で瑠莉とミーテルを守ろうとしているが見た目から分かる馬力の差でなかなか抑えることが出来ないでいた。

 

すると、ミーテルがイノシシの側面に立って手のひらをイノシシに向けた。

「我が血に宿る猛き炎よ。我が敵を討ち草木を守る力となせ。」

ミーテルの言葉(詠唱)と共に彼女の周りに手のひらくらいの大きさの火の玉が、大量に現れた。

火の玉は、物凄い勢いでイノシシの側面に向かって行った。着弾と共に火の玉は爆発した。

イノシシは数秒煙に覆われていたが、突如、謎の咆哮が風を起こし煙を晴らした。

咆哮の正体は、無傷で立っているイノシシだった。

イノシシが姿を現したと同時に、イノシシの足に斬りかかったが思っていた以上に足が硬くて鱗は砕けたものの、肉を断てなかった。

体積の増加と硬く重い鱗による体重の増加した体を支えるために、足の筋肉が見た目以上に強靭になっていたのだ。

断ち切れないと即座に判断したイーライは、斬ろうとするのをやめてイノシシから距離を取って瑠莉の右斜め前の地点で剣を構えた。

 

「すまない。足が思ったよりも硬かった。」

 

「それは私のセリフよ。威力を低くしたとは言えあれだけの数を食らって怯みもしないなんて……」

 

「このままではこちらの体力が持たない。どうにか鎮める方法は……?」

 

戦えない訳ではないが、現状イーライには決定打になる攻撃力はないが、ミーテルならば装甲を貫いて倒せる。

しかし、周りが木だらけと言うこともあり最大火力を出すことが出来ないでいた。ここで最大火力を出してしまうと周りの木が燃えてしまうだけでなく、ミーテルの強い魔力に反応して他の魔物が来てしまう可能性がある。

もし来てしまった場合、周りの木が燃えて酸素不足でミーテル達は呼吸が困難になるだけでなく、更にそんな状況で魔物と闘わなくてはいけなくなってしまう。

イーライに関してもただの散歩の護衛で来たため本来の装備を持ってきていないのだ。本来のイーライならば斬り殺す事も容易かったが貴族の屋敷の近くで魔物に出会うなんて事態を予測できなかった。

 

「ルリさんは私から少し離れて下さい。」

 

瑠莉は魔物と少し距離があるだけでありいつ襲われてもおかしくない場所に彼女は立っている。

「は……はい。」

ようやく状況を理解した瑠莉は、恐怖で声が掠れていた。無理もない。彼女は元々喧嘩などと言った争いごととは無縁だったのだ。

そんな彼女が急に命の危険に晒され冷静でいられるはずがない。

そんな風に瑠莉が動揺している間に魔物は攻撃対象をイーライからミーテルに変更し、鱗に覆われた尾を地面に叩きつけ大量の土をミーテルに向かって飛ばした。

ミーテルはよけようとしたが全てをよけきることは出来ず、いくつかの土が体に命中した。

「うっ!」

ダメージはあまりなかったが、当たった衝撃でその場に座り込んでしまった。

「ミーテルさん!?」

魔物は、座り込んでいるミーテルにとどめを刺そうと走り出した。

「ミーテル!!」

「や、やめてー!」

瑠莉はミーテルが襲われそうになっているのを見て思わず目を閉じ大きな声を出してしまった。

すると湖が一瞬にして白い光りにおおわれた。魔物が周りにまとっていた黒いもやは白い光りに包まれると同時に辺り一面に散らばった。

「GHAAAAAAAAAA!!!!!」

魔物は光りに包まれた瞬間、声を荒げ態勢を崩すとミーテルの居た方向からそれながら倒れた。

そんな魔物の姿を見たミーテルとイーライは状況を理解できず、瑠莉の方を見つめた。

瑠莉は目を開けたが、閉じていた時に何が起こったか分からずにいた。

「えっ……え?なに……これ。」

瑠莉が呆然としていると、魔物は起き上がり体制を立て直し瑠莉に向かって突進を始めた。

反射的によけようとした瑠莉は、恐怖で足が思うように動かず回転しながら倒れた。

「きゃっ」

魔物の攻撃をギリギリ避けることが出来た。色々なことが目まぐるしく起こり混乱している状況に、次はまともな回避行動は出来ないだろう。そんな瑠莉に向かってまた魔物が突進をしてきた。

「ルリちゃん!」

ミーテルは叫ぶが瑠莉には届いていなかった。

今までこういったこととは無縁な生活を送ってきた瑠莉に冷静な行動をとることは当然無理なことだ。

「ひっ!」

今いる場所から離れようとしたが、頭が混乱していてまともに歩けずに転んでしまった。

何とか立ち上がろうとするが上手く立ち上がれないでいた。しかし、そんな事をしている間にも魔物は目と鼻の先にまで迫ってきていて避けることは不可能になってしまった。

目をつぶり、衝撃に耐えようとするとガキンという音が響いた。

いつまで待っても衝撃が来ないと不思議に思った瑠莉が、目を開けるとそこにはイーライがいた。

「グッ、グゥォォォ!!」

剣で魔物を受け止めてはいるが、魔物の方が力が強く押し負けている。

「グゥッ、ルリ……さん……早く……逃げて下さぃ。」

「そ、そんな……出来ません。」

「いぃから……早く!」

何とかしないと、イーライさんが……私、に出来る事……

「あ!あの時と……!」

「イーライさん!私が何とかします。押さえておいてください。」

「え!?」

瑠莉はそう言うとゆっくり立ち上がり、足を震わせながら魔物に近づいた。

「危ないから、ルリちゃんは下がって!」

離れた所にいるミーテルが瑠莉に止まるように声を掛けた。

「大丈夫!見てて。」

瑠莉はミーテルに向かってニコッと微笑んだが、恐怖を隠すことが出来ず手足が震えていた。

ミーテルもイーライもそれを指摘しようとしてきたが

「大丈夫、大丈夫だから。」

何を言われるか分かっていたように声を出した。ミーテルやイーライを説得する為ではなく、自分に言い聞かせているようだった。

そして呼吸を整え涙目になりながら魔物に近づき手を前に出した。

今魔物はイーライに押さえられているが、瑠莉が近づきやろうとしている事を感じ取ったのか、逃げようとし始めた。

「ひっ!」

「逃がすか。」

魔物の反応を見て瑠莉のやろうとしている事が有効だと勘付いたイーライは、大きくなっている魔物の牙に剣をひっかけ逃げられないようにした。

「ルリさん、今だ!」

「は、はい。」

一度引っ込めそうになった手を前に出しながらゆっくりと魔物に近づいた。

 

怖い……怖いよ。本当に効くかどうかも分からないし、なんで私がやらなきゃいけないの?私にしか出来ない事だって事は分かっているけど……でもやっぱり受け止めることは出来ない。1年も経っていないのに2回も命の危機に遭うなんて予想できるはずがないじゃない。

確かに自分の意志で行くって決めたけど、こんなに怖い思いをするなんて知らなかったし覚悟なんて出来ているわけがない……

あぁ、帰りたい。布団でゴロゴロしたり、大学に行って授業を受けたり友達と遊びに行ったり……そんないつも通りの日常に帰りたい。

でも、イーライさん達を見捨てることは出来ない。この世界で初めて出来た友達で、誰だか分からない私を暖かく迎えてくれた。

その人たちを見捨てて帰ったら、私はいつも通り笑っていられるか……きっと無理……。

私はそんなに度胸のある人間じゃない。まだ少ししか経っていないけれどそれでもこの世界に失いたくないものが増えすぎたみたい。

だから、守り切らないと。

目をつぶり手のひらに力を入れた。すると、手元から白い光りが現れた。あの時よりも強く眩しい光りが魔物を包み込んだ。魔物は森に響き渡るような大きな声でもがいていた。

「GHAAAAAAAAAA!!!!!」

黒いモヤが少なくなり、もがいていた魔物も落ち着きを取り戻してきている。

「はぁはぁ……あ、あと少し。」

瑠莉は無我夢中で手に力を入れた。それと同時に黒いモヤは完全に消え白い光りも収まっていった。モヤの消えたイノシシだけが残った。

―――――――〈ミーテルside〉――――――――

「ルリちゃん!大丈夫!?」

ミーテルは瑠莉が座り込むと同時に駆け寄った。イーライはあまりの衝撃で考え込んでいた。

幸い、私は軽く痛めただけで大きな怪我ではなかったけどルリちゃんは大丈夫かしら?

きっと初めての事だよね。申し訳ない事をしたわ……

「ミーテルさん………」

ルリちゃん泣きそうな顔をしているわ……

「怖い思いさせてごめんなさい。」

そう言ってミーテルは瑠莉を抱きしめた。

瑠莉は恐怖や緊張、色々我慢していたものがあふれミーテルの腕の中で泣いた。


「ルリちゃんもう大丈夫だよ。ルリちゃんのおかげで私とイーライは助かったわ。もう魔物はいないよ。ただ、別の魔物が来たら大変だから早く別荘へ戻りましょう!」

そう言って勢いよく立ち上がろうとしたミーテルだったが、

「うっ……。」

魔物にやられた傷が痛み座り込んでしまった。

「ミーテルさん!?」

「大丈夫!勢いよくたって傷がいたんだだけだから。」

瑠莉を安心させるように微笑んだが

「私、治せます。ミーテルさん動かないで下さいね。」

そう言いながら回復魔法を使おうとしている瑠莉をミーテルが止めた。

こんなに、強力な魔法を使っておいて更に魔法を使っても平気なのかしら?

でも次万が一の事があったらルリちゃんを助けることは出来ないし、ここは直してもらうしかなさそうね。

「イーライさんもこっちに来てください。擦り傷でも何でも治ると思います。」

「あぁ。」

イーライは見たことない魔法だったのでほとんど放心状態だった。

kasumisou

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