第10話 盤外上のストラテジーー1
その日の夕刻。
日が沈みだし、夜の時間に差し掛かろうとしている時間帯。
周囲に照明が灯り出すなど人口の光がその姿を現す中、
人々はその場に集まっていた。
場所は東京国際マシンナリィフェア会場。
人だかりは警察関係を初めとした事件の現場検証によるもので
多くは一般人ではなく、イベント関係や医療従事者などよりけりだ。
先の謎のAL軍団の襲撃により会場は一部破壊されるなど
状況としてはかなりひどいとも云えるだろう。
幸いにして負傷者はいても死者は1人もいなかったのは僥倖だろう。
そんな中を警視庁特機課の第2小隊隊長を務める八雲シノブが
同第1小隊隊長の加藤シンイチと捜査課刑事の松田に声を掛ける。
八雲:「加藤さん、松田さん」
加藤:「あら、シノブさん。来てたの?」
八雲:「本庁で用事があって帰る時にここの報告を受けてね・・・
それで状況は?」
松田:「詳しいことは検分待ちということになりますがね。
オペレーター達は全員病院に搬送されましたよ。とりあえずは全員
命には別状はないそうで」
八雲:「そう―――――」
安堵の表情を浮かべる八雲に察しがいった加藤。
松田:「そういえば、今日お披露目される予定だったALのオペレーターは
八雲警部の――――」
八雲:「ええ、大学時代の友人よ」
八雲の言葉に松田刑事はなるほど、と合点がいった様に相槌を打つ。
八雲は視線をある方向へと向ける。
視線の先は無人となっていた観客席に激突し機能を停止していた【ガルーダ】
の姿があった。
八雲:「―――彼女としても不満が残る結果でしょうね」
松田:「【レイヴン】に関しては素人の域なんだが可変量産機の話はとん挫するんですかね?」
加藤:「こればかりは俺らじゃわからんモンだけども昔っから機械ってモンは
トライアンドエラーの二人三脚でやっていってるからこの程度で躓くとはいかないとは思うんですがね―――」
?????:「ええ、その通り。このまま計画がとん挫はさせませんよ」
加藤ら3人は自分らに言葉を掛けた人物の方へと振り向く。
短めに切りそろえた灰色に近い髪に中東系を思わせる浅黒い肌色の軍服を思わせるジャケット姿の30代中頃の男性が立っていた。
八雲:「あなたは?」
ワイズマン:「本会場の警備責任者を務めていますズワルト・ワイズマンです」
八雲の問いにワイズマンは敬礼を行いながら返す。
加藤らも同じようにワイズマンに敬礼する。
加藤:「すみませんね。そちらもお忙しい中でお呼びしていただいて」
ワイズマン:「いえ、今回の件に関してはこちらにとっても悔恨の思いがあります
故に――――」
松田:「しかし、まるで魔法の様なステルスシステムを使っていたんだろう?
流石にそれで特定しろというのが無理が過ぎるんじゃないのか?」
加藤:「対策はなくはないんでしょ?」
松田:「え?」
加藤の言葉に驚きの声を上げる松田刑事。
八雲の方は声には出さずに加藤の方へと視線を向け、加藤は飄々とした表情を
崩さず、しかしてその瞳にはまるで真実を見通すかのような鋭い眼光を伴わせた
視線をワイズマンへと突きつけた。




