貫くものと鋼鉄の鴉―2
時刻は13:00
場所は太平洋側の日本の近海。
海中に巨大な影が速度的には大型のクルーザー並だが
その巨体故がゆっくりと感じさせるほどの速さで移動していた。
巨大物体の名は【ハイパーヴォーリア級強襲潜航揚陸母艦】。
アトランティス社が基礎設計を行った次世代型の万能母艦。
その参番艦がこの【マーナ=マークリル】である。
【レイヴン】にも用いられる【Abyss】を始め、
新機軸の新技術をふんだんに採用している為か従来の航行艦よりも
快適性が高く、艦内に居ながらも高い居住性を誇る。
その通路を1人の少女が歩いていた。
見た目は秋桜マキナと比べると少し幼く見えるが年齢は18歳。
肩にマントの様に掛けた将官用のコートをたなびかせて少女は
自身に掛かる重みにも負けずに己の持ち場であるブリッジへと向かう。
ブリッジへの扉の前に着くと少女はいったん歩みを止め、
横の壁に備えているコンソールを操作し、パスワードを入力。
その後、操作していた手をコンソールに当て、指紋と生体の同時認証を行い、
扉のロックを解除する。
完全に解除された扉の確認をした後、少女は歩みを再開する。
ブリッジにいたクルーたちは作業を行っている面々を除き、
手隙の人間が彼女に対し、敬礼を行い、彼女もまた敬礼で返した。
彼女こそ【マーナ=マークリル】を拠点とする機動遊撃傭兵戦隊通称【ブリューナク】の全隊統括司令官である【メルクーア・ベルンシュタイン】その人である。
艦長風の男:「お疲れ様です、メルクーア司令」
メル:「お疲れ様です、アンダーソン艦長」
【マーナ=マークリル】の艦長を務めるリチャード・アンダーソン大佐に
返事を返すと自身のシートに座るメルクーア。
それを確認して他のクルーも自身の持ち場に戻り、作業を始める。
席に着いたメルクーアは隣の艦長席にいるアンダーソン艦長に声を掛けた。
メル:「艦長、ロングスカウター達からの報告はどうでした?」
アンダーソン:「ええ、【クロウ】からの画像提供も兼ねて該当地域に検知した結果、
日本では導入されていないレイヴンであることが確認できました」
メル:「やはり――――機種は?」
アンダーソン:「シートを被せていましたがその輪郭をスキャンした所、形状から
して中東方面で現在も稼働が確認されている【ゴブリン】かと思われます」
メル:「初期の第2世代レイヴンですか――――」
アンダーソン:「【アームズレイヴン】として分類されてますが作業用を軍事用に改造したもので運用上の信頼性はありますが第3世代の物と比べると些か不安要素がありますからね。」
メル:「とはいえ、【AL】であることは変わりありません。警察には?」
アンダーソン:「匿名として通報はしていますが実物を確認しない限りは―――」
メル:「できれば稼働前に抑えたい所ですね」




