祝福されざるもの―3
課長室へと赴いた加藤と八雲は課長の牧島から発した言葉に耳を疑った。
八雲:「課長、今なんと?」
牧島:「だからだね―――第2小隊の帰還を延長することになった―――
今度は聞こえたね?」
わざわざ確認するように言う牧島課長の表情はあまり良くなかった。
彼の口から発せられたのは八雲が指揮している第2小隊の機種転換と
それに伴う操縦訓練を兼ねた長期合宿が他の新設されたWL運用部隊との
合同で行われていた。
予定は今週末には日程を終えて機体と共に帰還するという、はずだったのだ。
八雲:「どういうことですか!?ただでさえ、この1か月で類を見ないほどの
レイヴンに関する事故が多発しているのを第1小隊だけで賄うのは無理なことぐらい
課長もご理解できるはずですよ!?」
牧島:「八雲君。キミの気持ちもわかる――――しかしこれは本庁からの命令だ。
私の一存だけではどうにもならん・・・」
まくし立てる八雲に牧島課長もバツが悪そうな表情を浮かべ苦々しくそう答える。
それでも納得いかないのか八雲は更に言葉を発する。
八雲:「何か納得できる理由はあるのですか?無いのでしたら今すぐにでも本庁に
行って急遽の帰投命令を上申してきますがよろしいですね?」
牧島:「待ちたまえ八雲君!――――――まだ、公になってないことだ。他言無用であることを厳守してくれるのなら話そう」
仕方ない、といった様子を見せながら牧島課長はそう二人に言う。
その言葉に加藤も八雲も沈黙で了承の意思を確認すると牧島課長は一呼吸置いて話始める。
牧島:「今後本庁から各警察機関に新たな警察WL隊が新設・増設されることは知ってるね?」
加藤:「確か【ピースキーパー】のバリエーションであるマイナーチェンジ機でしたっけ?」
牧島:「そうだ、八雲くんの第2小隊にも配備予定でもある機体だ」
八雲:「それが問題でもあったのですか?」
牧島:「問題があったのは機体ではない――――OSの方ではないかとされている」
その言葉に加藤と八雲は怪訝な表情を浮かべる。
八雲:「課長、それはどういうことです?」
牧島:「実際のところ、よくわかってはいないんだ。だがそのOSのことはキミたちも知っているはずだ」
加藤:「【CHAOS】ですか?」
黙って頷く牧島課長に加藤と八雲、両隊長は互いの顔を見合わせる。
【CHAOS】は第3世代以前の【レイヴン】を第3世代以降の規格に合わせる目的で開発された新機軸のオペレーティングシステムだ。
そしてここ最近の第1・第2世代レイヴンの突如の制御不能な暴走事故は全て【CHAOS】が搭載された機体ばかり。
八雲:「まさか、一連の暴走事故と関連があると?」
牧島:「断言はできん。だが、その疑惑が強いというのは確かだがね・・・」
加藤:「その根拠は?」
加藤の問いに牧島課長は一瞬の間を置き、深呼吸をした後、口を再び開く。




