異空間と獣
少女が刀を持って屋敷を徘徊する。階段を上り、そしてある部屋の前で立ち止まる。少しだけ部屋の扉を開け、そこから刀を投げ込む。魔力を込めて予め客室に仕込んで置いた魔法陣を発動させる。確認のために客室を覗き、中に人影が無いのを見ると彼女は自室に戻って特殊な絵を描き始めるのだった。
扉が開く音が聞こえた。
「うっ······」
その数瞬後に鳩尾に何かが刺さり、目が覚める。それはよく手に馴染んだ刀の姿のシンだった。何故ここにシンの半身があるのか、寝ぼけた頭でシンを持ちながら考えていると、床が光り始める。何かの魔法が発動すると思い、身構えると私は屋敷の広い庭に尻餅をついた状態で投げ出されていた。周りを見渡すといつもの屋敷ではないことがわかる。なんというか点描画の建物みたいな、ぼんやりとしていて輪郭が感じられない。
バサッ、と何かが羽ばたく音がして振り返るとそこには全長2メートルくらいの鷹がいた。これもまた点描画のものに似ているが何処か顔が間抜けだ。
「ぐうぇ」
······そして馬鹿みたいな鳴き声をする。
そんなことを考えていると接近され蹴りを繰り出される。咄嗟に刀で受けるが中々の威力に一歩後退ってしまう。
兎に角、ここが何処であれまずはあの鷹を倒さないことには何も始まらないだろう。火の構えを取り、相手の動きを観察する。鷹は私が右に歩みを進めると同じように常に向き合うよう移動する。膠着を嫌ったのか鷹が突進してくるのを難なく両断する。ふたつに別れた鷹は気の抜けた断末魔を出して霞のように消えていった。
よし、これで一先ずはここから出ることを考えられる、そう思った矢先に三十匹程の兎が何処からか現れる。例に漏れず間抜け面だ。
「ふぎゅ」
······これは長期戦になる可能性が出てきたわね。