ありふれた夜のひとつ
夕食にシンが作ったのはなんかのすね肉を煮込んで焼いたものと芋だった。
サエがお肉を口に運ぶ。
「久しぶりにシンの料理食べたけど腕落ちた?」
「そんな変わってないだろ」
確かめるようにシンもお肉を口に入れ、頷く。
「じゃあ私の舌が肥えたのか」
「そんなわけないだろ、ソーセージとパン以外に食べてるものを言ってみるんだ」
「果物と調味料」
「呆れた、栄養失調で死んでくれるなよ」
「善処するわ」
2人の会話に所々相槌を打ちながら食事を済ませる。そしてこの大きなダイニングで3人で食事を済ませた後はまた素振りを始める。
「よし、はやいけど今日はここまでにしよう」
「うん、わかった」
シンの半身を返して、シャワー室へ向かう。汗を流してすぐにサエが貸してくれた部屋のベッドに倒れ込む。久しぶりにちゃんとした寝具を使えるということで今日ははやめに眠りたい。布団をかけて目を瞑ると気付けば意識を手放していた。
「ねえシン」
「なんだ?」
「ここにはいつまで居てくれるの?」
ラウンジのソファで紅茶を飲んでいるとふとサエがそう尋ねてきた。
「そうだな······シユが九十九屋として戦えるようになるまでかな」
「そっか············」
「まあしばらくはここに居るさ」
「うん、わかった」
今度はもっとはやく戻ってきてね、消えそうなほどか細い声でサエはそう言い、自室へと戻って行った。
まだ2つのティーカップからは湯気が立っていた。