サエと買い物
このサエという獣人は筆の九十九神と契約しているらしく、描いたものを具現化出来るらしい。さらにその天賦の才よって作品を作り上げこの地位まで登りつめたとか。
「······まあそういう訳でシユの為になんか色々作ってくれないか」
「いいよ。その代わりだけどこの街に滞在している間はここにいてね」
「ありがとう、そっちの方が俺も助かるしな」
トントン拍子で話が進んでいくため私が取り残され気味だが、要するにサエの作った物と戦えばいいらしい。サエがどんな物を作るのか一切わからないが、シンが勧めるならそれが1番良い方法なんだろう。
「この後の予定はあるの?」
「あー、そうだな。シユと一緒に街を散策しようかな」
「着いて行っても?」
「いいよ」
「シユはどう?」
「大丈夫だよ」
「じゃあ早速行こうか」
サエが立ち上がり、私達もそれに続く。
最初に私達が向かったのはサエの家から十分程歩いたところにある美術館だった。
「とても大きなところね」
「ここがこの街で1番大きな美術館。絵画に彫刻、装飾品。古いのから新しいものまで大体ある。私の絵も飾られてるよ」
「そういえば一瞬だけ俺もここに飾られそうになったな」
「大丈夫だったの?」
「まあな」
この街の人は価値があれば九十九神でもなんでもガラスケースに閉じ込めてしまうのだろうか。恐ろしいものだ。
「じゃあ次はパン屋さんに行こっか」
美術館から歩いて数分もしない所にユーカウスティというパン屋があった。昼過ぎだと言うのに中には数人の客がいて、焼けたバゲットの良い匂いがこちらにまで漂ってきた。
「入ろうか」
「ええ」
店に入るとパンの良い匂いがさらに身を包む。どこでも見かける一般的なパンと創作パンだと思われる大量のソーセージが刺さったパンなんかがある。サエは店長さんに挨拶をしに行き、その間に私とシンでパンを選ぶ。クロワッサンにベーグル、トースト、バターロールなど恐らく数日分のパンを買い、サエが会計を済ませてくれる。そしてそのパン達をシンは少し嫌そうな顔をしながら持っている。
「次はあっちの市場に行かない?」
私とサエはしばらく市場での買い物を楽しみ、そして時間が経つにつれてシンの持つ荷物は多くなっていくのだった。
日が沈み始める頃には私達はサエの家に戻ってきていた。
「流石にあの量は疲れた」
「おつかれシン」
「厨房まで運んどいてね。私はシユにシャワー室の場所とか説明しなきゃだから」
「おーけー」
「ついてきて」
扉を開けて先を進むサエを追いかける。
「ここが厨房で、こっちがダイニング。残りの部屋は客間か空き部屋、それと何か広い部屋ね」
「やっぱり大きいわね」
「まあね。私としては広くても何も困らないから。······ここがシャワー室ね」
厨房に向かうとシンが荷物を運び終えていた。
「シン、落ち着いたら夕飯の準備お願いね」
「ああ、わかった」
······この人シンの扱いめっちゃ得意だな。見習わないと。