芸術の街で
朝から夕方まで食事中以外は常に歩き、残りの時間は睡眠と素振りに割り当てる。そんな生活を続けた3日目の昼前、ようやく目的の街である『芸術の街』が見えてきた。
特に問題も無く街に入ることができ、そのまま食事を済ませるために近くの酒場へと向かった。
「この街で何をするの?」
あまり美味しそうな色をしていないソーセージを齧っているシンが答える。
「まずはまだ生きてるかは知らんが友人に会いにいく。そこでお前が九十九屋として働けるぐらいの腕をつけるぞ」
「はーい」
事実2日目の夜に一角の害獣が出たときはシンの後ろで立ち尽くすしか出来なかった。まだ私は本物の害獣と戦えるほど力も勇気もない。私はローストビーフのような肉を平らげながらそんなことを考えていた。
酒場から歩いて30分程で私達は大きな屋敷に到着した。シンは慣れた様子で門を開け、そのまま大きな庭を突っ切り扉を開けて中に入っていった。
「邪魔するぞー」
「お、お邪魔しまーす······」
初めてこんなに大きな屋敷に入るが故に少し緊張している。あとこんな勝手に入っていいもんなのだろうか。
シンは食事処から大広間、応接室まであらゆる場所を探索し、その後2階にある恐らくこの屋敷の主の部屋へと向かった。
「多分ここにいるだろ」
「居なかったら?」
「ただの不用心」
「確かに」
サエいるか、と言ってシンが扉を開けると目の前には空色をした獣人が中でパレットを手に持ちキャンバスと向き合っていた。
「2時間」
彼女がこちらに目もくれずにそう言うと、シンは扉を閉めた。
「あと2時間待ってくれってさ」
「じゃあ何する?」
「庭で素振りだ」
「はーい」
「先行ってろ」
そう言ってシンは私に自分の刀を渡すとどこかへ向かっていった。
庭に出て素振りを始めること十分弱、机と椅子を持ったシンが扉から出てきた。私の近くに机と椅子を置くと今度はティーセットを持ってきて美味しそうにお茶を啜り始める。お茶の香りが私の顔まで漂ってくるが集中して刀を振り続ける。
1時間ほど素振りをしているとシンが新しくお茶を持ってきてくれて、今日の素振りは終了となった。運動した直後に暖かい飲み物はどうかとは思うがそこら辺のお茶よりも格段に美味しかったので何も言わなかった。
お茶を飲み終わり、ラウンジのようなところにあるソファでシンと駄弁っている。
「ここの主は俺の古い友人でな。あの祠にいる前はたまにここで居候してたんだ」
「ふーん、あの人は絵描きさんなの?」
「ああそうだ。多分この街で上から数えた方がはやいくらい凄い奴だ」
「へー、だからこんな大きなお屋敷に」
「いつも手伝いをしてくれる奴を雇えって言ってるんだが一向に頷かなくてな」
「でも埃は落ちてないよね」
「あいつは掃除が好きだからな」
ドタタタタタ、と階段を駆け下りる音が聞こえる。そして勢いよくドアが開けられる。
「シン!」
「久しぶりだな、サエ」
念の為に九十九神がどういう形態を取れるか説明します。
まず人型、これは人の形で、人間と交流するために編み出されました。
そして原型、これは九十九神の本来の物の姿です。この状態が1番実力を発揮出来ます。
さらに人型と原型を合わせた状態、つまり人の形をしながら本来の自分を持った状態です。これは原型の半分くらいの力が出せます。
これらの名称は今後出てきませんがなんとなく頭に入れとくと理解がしやすいと思います。
以上、羊木なさでした。