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VSオーク 壱

 私がダンジョンに潜って一時間。


 ゴブリン七体にスライム五匹を倒せていた。


「スライムは途中から回収できなくなったけど、単純計算で四万に届かないくらいか···過去最高額だな」


 車のガソリン代や入場料を加味しても大幅な黒字で嬉しくなる。


「もう少し稼げるようになれば武器も身につけたいけどなぁ」


 武器は魔石を練り込んだ鉄こと魔鉄を材料に製造される。


 工場で造られる量産品から、職人が一本一本造る場合もある。


 私みたいな底辺探索者は今太ももの横のカバーに入れているナイフでも五万近くするため、武器を新調するには金がかかる。


「今は殴るのでもなんとかなっているけど、絶対に武器を使った方が良いよなぁ」


 配信者としても武器はその人を象徴する物なので、バエルのだ。


 容姿が幾ら良くても素手でモンスターを殴り飛ばしていたら視聴者はドン引きである。


「車でカタログ見るか···掘り出し物があるかもしれないからなぁ」


 私は休憩を辞めて、再び歩き出す。


 すると少しばかり広い部屋に出た。


 ボス部屋だ。


 ボスとはダンジョンでも一際強いモンスターを意味し、倒すと普通のモンスターより大きな魔石や貴重な素材、中には武器を持っているボスとかは持っていた武器を回収することもできる。


 まぁ下級ダンジョンなのでそこまで強かったり美味しいモンスターが出てくることは無いし、ここのダンジョンのボスはオークと決まっている。


 以前までの私だったら敵わないので回れ右でボスに出会わないように逃げていたが、天使になった今だったら勝てるかもしれないと思った。


「よし、戦ってみよう」


 私は前に出た。


 私の姿に気がついたのかオークは


「グォォォオオ」


 と咆哮をして私に向かって突進をしてきた。


 緑色の体、お相撲さんの様な図体、口からダラダラとよだれを垂らしている。


 オークで気をつけなければいけないのが突進だと聞いたことがある。


 オークは鑓等を向けていても平気で突っ込んでくるし、並の攻撃では止まることがない。


 近づいてきてそのままタックルやラリアットを喰らい、地面に頭をぶつけて死亡する事故は中級探索者でもあるらしい。


 緑色の巨体が私に向かってくる。


 私はライトアローを連射する。


 体の表面に傷が幾つも付くが、突進は止まることがない。


 あと数歩で私に激突という所で、私はふわりと空中に回避した。


 浮けるというのは凄い利点だ。


 回避の範囲が圧倒的に広くなるし、空中から魔法を連射することもできる。


 飛び道具が無ければハメ殺しみたいな事ができるのだ。


「ほらほら! 空中から魔法を連射したらどうよ! 痛いでしょ! このまま倒れちゃえ!」


 オークは片腕で顔を守っているが、腹部や腕から出血が目立ち始める。


 オークは一度しゃがみ、石を掴むとこちらに向かって思いっきり投げてきた。


 油断していた。


 調子に乗っていた。


 天使になったから、浮ける様になったから勝てると錯覚していた。


 投げつけられた石は私の右肩に命中し、メリメリと嫌な音をたてながら身体にめり込む。


「ギャァァァ」


 激痛。


 肩を見ると内出血しているのか痣が広がっていく。


 右肩から先の感覚が感じられなくなり、痛みで私は地面に倒れ込んでしまう。


「ふぅふぅふぅ!」


 浅い呼吸を繰り返し、痛みを堪える。


 オークはそのスキを逃すはずもなくまたこちらに突っ込んできた。


「ひ、ヒィ! く、来るなぁ!!」


 先程とは打って変わって情けない声を出してしまう。


 錯乱しながらライトアローを連射するがオークは止まらない。


 腰が抜けて上手く立てない。


 涙で顔をぐちゃぐちゃにさせながら打開策を考えるが何も思いつかない。


 オークがいよいよ突っ込んできた。


 私はナイフを左手で抜き、やみくもに振るっている。


 来たるべき衝撃に備えて目をつぶり、覚悟を決めた瞬間···ズザザと何かが倒れた。


 恐る恐る目を開けるとオークが地面に倒れていた。


 どうやらライトアローで傷をつけていた為に出血が止まらなくなり、走った事で余計に血を流して倒れたらしい。


 オークの血で血溜まりができているし···


 緊張の糸が切れた私はチョロチョロと失禁してしまっていた。









 数分で落ち着きを取り戻し、まだ右肩はジンジンと痛いが、我慢して、左手でオークの胸をナイフで切り裂いていく。


 するとピンポン玉サイズの魔石を抜き出すことができた。


「オークの魔石って確か一万から三万だったよな···はは、割に合わねぇ」


 挑んだのは失敗だった。


 まだ早かった。


 死ぬかと思った。


 でも···倒せた。


 たぶん今日の利益は右肩の治療費で全部吹き飛ぶが、勉強にはなったし、驕りや油断はこれっきりにしようと心に刻んだ。


 その後、戦闘を回避しながら来た道を戻り、無事にダンジョンから出ることができた。


 おっちゃんは


「派手にやられたな。オークだろ?」


 と言われ


「下級の探索者はオークに殺られる事が多いからな。うちのだって例外じゃない。レベルを上げてから挑み直せ」


 と励まし? の言葉を貰った。


 換金してもらった後に病院に直行して治療を受けるのだった。








「チクッとするよ〜」


 病院に到着し、外科医の先生から治癒の魔法を受ける。


 魔法を受ける前に回復薬を注入することで治癒力を上げるらしい。


「ヒール」


 治癒の魔法をかけられると先程まで赤黒くなっていた右肩は綺麗に治り、痛みも消えた。


「右肩動かしてみて〜」


 先生に言われた通りに動かしてみるが、ちゃんと動く。


 違和感も無い。


「一応数日は塗り薬を出すからガーゼに染み込ませ、包帯で固定して様子を見てね〜。治癒魔法も万能じゃないから」


「すみませんありがとうございます」


「じゃあお大事に〜」


 昔の病院は外傷にいちいち手術をしていたり、縫合していたらしいが、今ではこんな感じに治癒の魔法をかけて、負傷した箇所に塗り薬を塗ったり、ガーゼに染み込ませて抑えておくだけで治ってしまう。


 ダンジョン黎明期は真っ先に外科医が治癒魔法の出現で困ったらしいが、今では適合して、ちゃんと職業として残っているのだから恐ろしい。


 今回は保険適用で二万で済んだため、一応黒字に落ち着いた。


 オークの魔石が一万五千円でおっちゃんに買い取ってもらったので、他の差分で賄えた。


 しかし、恐怖で失禁してしまうとは情けない。


 俺は今回の件を深く反省するのだった。


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