第57話「端数」
己が映し出される広告が誇らしかった。
華奢で小柄であることをコンプレックスに思っていた時期もあった。それでも、誰よりも大きく映し出される広告を見れば、嫌な気持ちは綺麗に消えていく。突如現れた天才子役として鷲塚七香は世間の注目を集めていた。三歳から活動を初めて七年ちょっと。どんな役もこなしてみせる、実力でのし上がったたった一人の子役である。日常系ドラマの主演から有名監督の映画の端役まで、その立ち位置に関わらず常にベストを叩き出す姿勢は大人顔負けと評された。大人の評価を七香はほとんど理解していなかったが、母が上手くやる度に褒めてくれるのだ。幼かった彼女は、次第に周囲の評価も母親を通して理解し始めた。
そんな日々は突如終わりを迎える。悲劇ならばよくあるスタート、喜劇なら語られぬ過去の話。その日は完全な休日で、レッスンも撮影もなかった。小学五年生になった七香は、親戚のお姉さんと共に家で寛いでいた。
昼食をとって少ししたころ。お姉さんの電話に着信があった。「少し席を外すわね」と七香に断りを入れた彼女は、十五分ほどしてようやくリビングに戻ってくる。苦虫を噛み潰したかのような顔に、七香は何かあったのだと察した。すぐに電話の内容を尋ねてみる、が。
「いや、それが……その」
親戚のお姉さんは口ごもってそれ以上何も言おうとしない。何度服を引っ張ろうと、何度問いかけようと彼女は何も言わなかった。
七香が事態を知ったのは数日後、テレビや新聞で大々的に報じられる母の名を見たときだった。何も分からなかった。「不倫」という言葉の意味も、今何が起きているのかも。他でもない、己の母の手によって鷲塚七香は降板せざるを得なくなった。
その後報道関係者から逃げるようにして全国を転々とし、終に松江まで辿り着いたのだった。この僻遠の地には知り合いどころか、他に親戚もいないらしい。親戚のお姉さんだけが頼りだったが、この人も特別仲がよいというわけではない。何より、七香は彼女にも人生があることをよく理解していた。
「ごめんね、今日ちょっと用事があって、遅くなるんだけど……いいかな?」
「大丈夫。ご飯、いつも通り冷蔵庫にあるんでしょ?」
うん、と頷いてお姉さんは玄関へ向かっていく。鍵のしまる音が聞こえてから七香はすぐに小さな鞄と上着を手に取った。鍵をしめ直して彼女は外へ出る。曇り空のおかげか、日が沈もうとする十七時半頃でも突き抜けるような寒さはない。雪はしばらく降らない予報だが、この調子だと夜から明日にかけては雨が降りそうだ。脳内天気予報を流しながら、七香は帰宅ラッシュの道を行く。
今日は何かしらのイベントがあったのだろう。すれ違う人の数が多すぎる。七香は居心地の悪さを感じて、たまらず脇道へ入り込む。
「わあ」
額へ衝撃が走ると共に間の抜けた声が聞こえる。それと同時に何か熱いものが手にかかった。声も無く驚いた七香は後ろに飛び退く。どうやら道の端を歩いていた男性とぶつかってしまったらしい。彼は手に持ったカップを一瞥して驚いたのかその場で変なステップを踏んだ。
「あっごめんね、コーヒー、かかっちゃったんじゃ……」
「い、いや……大丈夫」
重ねて謝罪をしようとする男性に七香は強引に手を振って話を終わらせようとする。
「結構熱かったと思う。火傷しちゃう前に冷やさないと……ちょっと失礼」
男性は勢いよく七香の手を掴んで元来たであろう道の方へ引き返していく。特に鍛えてもいない七香はそのまま流れに流されるようにして、寂れたカフェへ連れて来られた。
「ごめん、オーナー! 保冷剤ない? ぶつかっちゃって」
彼の呼ぶ声にカウンターにいた老人が反応する。その人が奥へ引っ込んでいくと同時に、男は七香の手を確認する。
「ええと……あー、ちょっと赤くなってるなぁ。ちょいと痛いかもよ」
そう言って彼はおしぼりで七香の手に着いたコーヒーを拭き取る。くすぐったいような、ピリピリするような痛みが変に心地がよい。不思議な感覚に七香は顔を顰めた。拭き取り終わったタイミングで、老人が保冷剤を持って戻ってくる。
「本当にごめんね。酷くならなければいいんだけど。たぶん、痕になったりはしないから……少しの間こうやって冷やしておいて」
そう言って男は眉を下げてもう一度謝罪をした。
「別に、大丈夫。もう気にならないし……」
「まぁまぁ」
訝しがる七香を男は宥めようとする。一体どうすればいいのか、七香自身も分からないために、彼女は一先ず患部を冷やすことに専念した。
少しして、オーナーと呼ばれた老人がホットミルクを持ってくる。保冷剤で手を冷やしていたら寒くなるだろう、そう言って手渡されたマグカップはちょうどよい温かさだった。いつの間にか午後六時。
「どれどれ、ちょっと見せてー」
「あ、えーと……」
「あぁ、ごめん。名乗った方がよかったね。僕は初瀬幸嗣。ぶつかっちゃってごめんね」
「や、私もぶつかってごめん、なさい……もう大丈夫だと思う」
「あ、本当だね。にしても勢いで連れてきちゃったけど用事とかない? そこんところ大丈夫?」
「大丈夫。特にやることもなかったから」
「ふーん、そっか。じゃあここで時間潰していきなよ。どうせオーナーも暇してたし……ねぇ?」
「いいですけど、その子の迷惑にならないようにしなさいよ」
オーナーはそれきり黙り込んでカップ磨きの作業に戻る。
「ここにはよく来るの?」
「うん、結構来るよ。僕はここのコーヒーが好きでさー。まぁ、小学生? にはまだ早いか」
「一応中学生だし」
「え、あぁ、そうなの? うーん申し訳ない」
中学生、という言葉に彼は苦笑いを浮かべる。そこまで子供っぽく見えたのだろうか。七香はぎゅっと眉間に皺を寄せた。
──初瀬幸嗣との出会いはこんなものだった。
それから七香は頃合いを見計らって、何度も何度もカフェを訪れた。幸嗣がいない日は、オーナーの手伝いをして時間を潰した。こっそりと貰ったお駄賃で買いたかった物を買い、日によってはお駄賃代わりにケーキを貰ったり、クッキーを焼かせてもらったり……実の孫ようにかわいがってもらった。
春が終わり、夏になろうとした時期に幸嗣と手品の話で盛り上がったことがある。ちょうど、本当にたまたまテレビで特集をやっていたのだ。そのことを聞いた幸嗣は、いたずらっぽく笑みを浮かべて、こう提案した。
「じゃあ、面白いもの見せてあげようか。手品よりもすごいもの」
「え? 幸嗣、手品できるの?」
一つ頷いて彼は席を立つ。少し開けた場所で彼がぱちん、と指を鳴らすと、フラッシュのような強い光が瞼を焼く。目を擦りながら幸嗣の方を見て七香は唖然とした。先ほどまで幸嗣の立っていた場所に、自分が立っていた。長い前髪も、汚れた制服も、背丈まで同じ、鷲塚七香がそこにいた。
「どう? なかなかいい感じじゃん」
くるりとその場で幸嗣は回って見せた。スカートがはためく様子を見て、七香はまた息を飲んだ。
「何それ、早着替えってこと?」
「違う違う、これが魔術。魔法、の方がいい? ちょいちょい」
そう言って彼は七香の腕を掴んだ。彼女はぎょっとして手を引っ込めようとするが、幸嗣の意図に気がいて目を見張った。
「どう、タネ、気付いちゃった?」
「いや、えと……分かったような、分からないような」
とんと自信のない七香は早く答えを言えと視線で幸嗣に訴えかける。しかし、彼は首を横に振って意地悪に笑った。
「ダメでーす。タネが分かったら教えてあげる」
「何で? 教えてくれてもいいじゃん」
「魔法ってのは、ちゃーんと使い手が理解したうえで使わないと意味ないんだぞ。それに、弟子でもないのにホイホイ教えてもダメ。でも逆に、もしもタネを七香が当てられたら……七香を弟子にしてもいいかな」
「で、弟子!? それ、ってことは私も魔法使えるようになるってこと!?」
「うん、まぁそんな感じ。頑張って言語化してみなー」
その日から七香は幸嗣の披露する手品を見破ることに専念した。
そんなこんなで数か月があっという間に過ぎ去る。七香は見事魔術のタネを暴き、晴れて幸嗣の弟子となった。幸嗣の想定していた以上に、七香は熱心に魔術へ打ち込んで見せた。どうも、己の姿を隠せるところに魅力を感じたらしい。少しずつ少しずつ、一緒にいる時間が増えていく。
「ねえねえ、幸嗣の家、今度遊びに行ってもいい!?」
「えー、家? まぁ、ウチに来るのは別にいいけど。散らかってるよ、親の持ち物そのまんまだし」
「やった! 散らかってるなら私が片付けしたげるよ」
「そう言ってー、人の部屋片づけるのは好きなタイプか。自分の部屋先に片付けなよー」
「はいはーい、んじゃーねー」
ぱたぱたと夕暮れの街へ駆けていく背を見送って、幸嗣は一つ息をついた。手元にあるすっかり冷えてしまったマグカップの中身をかき混ぜて一気に飲み干す。
「ちゃんと線引きしておくべきじゃないの?」
そんな彼に対し、真向かいに座った香住は眉を顰めて突っ込みを入れる。
「線引き、ねえ。そう言って嫉妬してるだけじゃん? 子供の言うことなんて真に受けたらダメだよ。一時の気の迷いみたいなのもあるだろうし。なって友達でしょ」
「友達ねぇ……」
じとり、と香住は幸嗣の方を睨む。この男、本気で言っているのだろうか。
「いやいや、さすがに僕だって中学生を変な目では見ないって。ああは言ったけど、本気で家に入れるつもりはないよ。大事な工房兼倉庫だし。弟子とはいえまだまだ早すぎるし」
「清々しいくらいに正しいけど、それが通じないこともあるのよ」
「ええー常識じゃん……」
「はー? まぁいいわ、何があっても知らないから。姉さんみたいにいい子ばかりだと思わない方がいいわよ」
「そうだねぇ、かさねさんはいい人だよねぇ」
のんびりと、幸嗣は惚気を口にする。ああ言えばこう言う、相変わらず人とちゃんと話す気がないかのような振舞だ。
(そのくせ、人一倍寂しがりで人に近づいてしまう、ねぇ)
目の前の魔術師を一瞥して香住は席を立つ。
「ん、あれ? どこ行くの」
「やっぱり心配だから送っていくだけ」
そう言い残してカフェを出る。駆け足で帰路を辿れば、すぐに七香の背に追いつく。
「……あれ? なんで?」
香住がこうして追いかけてきたのが意外だったのだろう、彼女は目を丸くして振り返った。
「あの人が心配だから送ってあげて、ってさ」
「そ、そうなんだ。幸嗣が来ればいいのに」
口元は緩んでいるが、目元はどこか厳しさを感じさせる。ごちゃまぜになった感情をそのまま出してしまっているらしい少女を見て、香住は遠くを見ながら相槌を打つ。
「そうよねぇ。ここぞとばかりに私を差し向けるんだから」
ため息をついて、香住は七香の隣を歩き始めた。
※※※
(何が切り捨てられる側だ、何も知らないくせに……)
あれから何度も何度も、怒りが沸いては煮え、彼女の心を乱した。その事実が面白くない。あの言葉に腹が立つ。何に対して怒りを抱いているのか、取り上げればきりがなかった。ただただ憎い、ただただ腹立たしい。
(あの銀髪、何様のつもりなんだよ)
周防夏彦と三笠冬吾を取り逃がしてから、すでに二日が経っていた。寝ても覚めても、思い通りにいかぬ現実がここにある。それもまた腹立たしくてならない。ごろりと寝返りを打つ。二度寝をしようにも高ぶる感情がそれを許さなかった。どうしてやろうか、と考えている最中、背を向けていた扉が開く音がした。
のそり、とそちらへ顔を向ける。部屋に入ってきたのは髪の短い、若い女だった。少女の同居人、兼保護者である彼女は寝ころんだままの少女を一目見て小さく声を上げる。
「七香、まだ寝るつもり?」
少々の呆れを含んだ声に少女はキッと強い視線を返した。
「香住は何してきたのよ。最近やけに忙しそうにしてるじゃない」
棘の含まれた声に問われた若い女──香住は肩をすくめて鞄を下す。
「相変わらず向こうの拠点探しよ」
「……そう」
思っていたより、しっかり働いている。それはそうだ。そうしてくれと七香自身が依頼したのだから。
「その様子だと襲撃は失敗したのね……悪運の強いこと」
素っ気なく香住はそう言った。
「実はホッとしてるでしょ」
「……どうしたの、急に」
その素っ気ない言葉に、七香は静かに噛みついた。香住は目を丸くして彼女の方を見やる。影から冷たい視線が問いかけた。
「最近、変に動き回るよな。何してるの」
「何って……情報あつ……」
「拠点探しなら、いつも通り香住の優秀な使い魔たちを使えばいいじゃない」
少女の言葉に香住は目を細めた。
「使い魔は去年からかなり数が減ってるわ。この前も襲撃に使った子たちは全滅したし。姉さんなら必要なかったけど……」
そう言って彼女は短くなった髪を摘まむ。昨年末まであった長く美しい黒髪が、今はもう、見る影もない。どうやら彼女は、使い魔と契約をする際に髪の毛を使うらしい。主人なくしては生きられぬよう、縛りを付けるために手をかけて育てたモノが要るのだとか。以前そんな話を香住がしていた。
しかし今、それは関係ない。少女の気になる点はそこではないのだ。変わらず冷たい視線を向けながら、彼女は重ねて問いただす。
「だから香住自身が動く必要があるって言いたいの?」
「……どういうつもり?」
香住は眉をひそめた。会話がどうにも噛み合わない。違和感が徐々に形を得ていく。
「……お前、何するつもりなの」
その違和感を少女は肯定した。それを受けた香住は、静かに少女へ向き直る。
「──いくら何でも、急に現れたあの人が信用できないってだけよ。別に何かしようってワケじゃないわ。第一、幸嗣さんが死んだということ自体疑わしいじゃない。それを真実だと確かめる術はあったの?」
「……あの人、警察官だってさ」
少女はひとつ、答えを提示した。
「…………なに、それ」
信じられない、嘆息と共にその言葉は飲み込まれる。
「意味が分からないわ。あの人、何がしたくてここにいるっていうの……?」
「知らない。ただ協力するとだけ聞いてる」
「七香、あなた、それは────利用されているだけじゃない」
「利用? 何それ、そんなわけ」
眉を跳ね上げて少女は反論した。いつもであればそれ以上香住が詰めてくることはない。しかし、今日は何かが違った。
「じゃあなんで、あなたは、あの人の目的を知らないの!? 私たちに協力する意図が分からないって、そういうことじゃないの……!? 都合のいいように、使われているだけなのよ、それは」
「──何だよ、それ」
言い過ぎた、と口を閉ざすも後の祭り。
「いつから解ってたの? いつから、そうだと思ってたわけ? まさか最初から?」
少女の問いに香住は一つ、頷いてしまう。事実だ。それを明かすことが今はよろしくないと分かっていてもなお、彼女は嘘がつけなかった。
「そうよ、だから、今からでも逃げるなり誰かに手を貸してもらうなりすれば──」
「分かってたのに、一言も言ってくれなかったんだ」
今、利用されているかどうかは関係ない。そう少女は吐き捨てた。
「分かってたのに私には一つも言わなかったんだ」
重ねて吐かれた言葉に香住は息を飲む。
「そ、れは……ただ、杞憂であるなら、それでよかったのよ……」
「じゃあいいよ。好きにすれば?」
「す、好きにって……」
「好きにすればいい。警察にでも行けば?」
突き放す言い方に香住は悔し気に喉を鳴らした。
「……ごめんなさい。同じ立場にいるものだと思っていたけど、私だけの思い上がりだったみたい。それに、そうね。そう思っていた割には、私も、不誠実だった」
懺悔の言葉が耳に届く。少女は耳を塞ぐこともせず、黙ってそれを聞き届けた。
ぬるりと女が暗い廊下から顔を出す。そばかすに眼鏡。相変わらず、その表情には色がない。本人は自身の無機質さを眼鏡のせいにしていたが、少女は絶対に違うと今でも思っている。
「……見てたの?」
非難するような視線を跳ね返して女は口を開いた。
「いえ、今来たところです。ですが……状況は察せますね」
「ああそう」
素っ気なく返すその目には、明らかな翳りがあった。女はつまらなそうに少女を一瞥して踵を返す。
「手駒も減ってきましたね。そろそろ大詰めですよ」
その言葉を残して女は去る。少女はただ一人、俯いて暗い廊下の方を見ていた。嫌な気分だ、そう吐き捨てる気力もなく、再び布団に横になる。
「なんだ、まだ寝るつもり?」
聞き慣れぬ声に、背筋が凍った。背後に誰かがいる。確実に何かがいる気配がするが、近づいてきていることに一切気が付けなかった。少女は唇を噛んで思考する。
(このまま姿を隠す? 無理だ。イチかバチか、振り向きざまに攻撃も……できない! 寝転がってる今、私は……!)
じわじわと焦りが状況に追いついてくる。冷や汗をかく背に、何かが触れた。小さく、少し温かいものである。何が触れているのか、確かめる勇気もない彼女はその感覚に意識を持って行かれた。
「う、わあっ!?」
目の前に飛び込んできた黒い影に、大きな声を出して驚く。
「あ、ごめん七香。そこまで驚かせるつもりじゃなくて」
猫が喋った。衝撃の事実よりも先に、彼女の脳裏に電流が走る。
「ゆ、幸嗣……!? もしかして、記憶がっ」
「おかげさまでちょっと前にね。にしてもよく覚えてたね、コレのこと」
さすがじゃん、と小さく聞こえた褒め言葉に、七香は思わず口角を上げる。
「どう? 調子は」
「悪くない。やっぱり魔術はあまり使えなくなってたけど、会話も思考も問題ないなら、今のところはいいかな」
軽い伸びをしながら黒猫は答えた。
「今どんな感じなの?」
彼の問いに、七香は丁寧に答えていく。幸嗣の死を聞いて計画を再始動させたこと、復讐のために三笠を暗殺しようとしたが失敗したこと、情報収集にも失敗してしまったこと、書簡作戦は成功したこと、などなど。これまでの行動と結果を拙いながらも述べていく。それを猫はただひたすらに黙って聞いていた。
「なるほど、呪いに関しては解かれてしまったし、最後の方法しか残っていないのか」
「うん、そうなっちゃった。ごめんなさい。やっぱり幸嗣がすごいんだって、改めて分かったよ。全然上手くできない」
「いいよ、別に。まだ方法は残ってるんだし。……でも、そうだ。一つだけ訂正しておかないと」
ぱちくり、と瞬きをして七香は硬直する。何かまずいことを言ってしまっただろうか、と焦りが出る。それが表面化する前に幸嗣が話を続けた。
「いやなに、僕を殺したのは三笠冬吾じゃないんだよね。アレにあんな器用なことはできないさ」
「え、え……!? じゃあ、誰が」
「まぁ……いわゆる自殺というやつだよ。誰かに殺されたり、あのまま力尽きたりすると僕にとって都合が悪くてね。自ら退場しなきゃいけなかったんだよ」
「え、ええ…………」
「そうだね、だから七香」
猫はずいっと少女に近づいた。
「このまま三笠冬吾を殺すっていうのも、いいかもしれないね。どちらにせよ潰しておきたい相手だし」
何のためか、彼は言わなかった。うんうん唸りながら、猫は首を傾げている。
「ねえ、幸嗣。次は何をするべきかな」
「次は──そうだね、要石の解放だ。もう直接働きかけないとどうにもならないみたいだし」




