第43話「紛れ込む二人」
すっかり日の沈んだ街を、赤鴇は一人で歩いていた。キラキラと車のライトが反射する。見上げればすぐに暗い空が広がっていた。
三笠誘拐の連絡を受けたその後、初瀬が署を出ていったその後。赤鴇は春河と共に同じようなメールを受け取った人物を探しに出た。敷宮のメンバーは初瀬が当たるだろうと予想し、二人は別口を当たることになった。しかし二人は三笠の交友関係を全くといっていいほど知らなかった。数年の付き合いがある赤鴇でさえも、三笠が友人らしき人物のことを話していた記憶がない。
他にどこかへSOSが届いてはいないか。手がかりはないか。立ち止まったところで、一つだけ怪しい情報が舞い込んできた。それは春河の元同期がもたらしたもので、『匿名の人物から公衆電話で「人さらいの現場を目撃した」という通報があった』というものだった。匿名の人物については声が男性であったこと、目撃した現場付近の公衆電話を使ったことしか分かっていない。
結局それ以降二人が見つけられた有力な情報はなく、初瀬や敷宮に共有した後は何もすることができなかった。十八時頃まで吉報を待って春河と時間を潰していた。その際に今の今まで何をしていたのか、どうして担当が変わったのか等、訊きたかったことを問い詰めた。しかし彼の反応は「上が変わったから」の一点張りで、赤鴇は何一つ納得できなかった。なにかしら打ち明けることのできない事情があるのは理解したが、それもまた不満でならなかった。
(よくなかった、かなぁ……)
その直後に「東が三笠を見つけて保護した」という知らせが入り、話はうやむやになった。それもまた不満に感じてしまった赤鴇は子供っぽく拗ねながら帰宅を決めたのだった。今ではそれを少し後悔しているが。
「……?」
もやもやを抱え、自己反省会を繰り返す赤鴇の視界に、見覚えのある人物が映り込んだ。思考の赴くままにそちらを見やる。どうあっても目立つ大柄な身体に、色のよい金髪。そして同じ高校の制服。じっとそちらを見ていると、菫色と目が合った。
その瞬間、彼は弾かれたように走り出した。赤鴇も反射的に駆け出す。向こうの方が足が長い。それでも、赤鴇の足の速さとスタミナには勝てなかったらしい。あっという間に赤鴇は追い付いてその腕を掴んだ。
「ちょっと、何してるんですかこんなところで……!」
咎めるような声がうっとおしいのだろう。長柄は掴まれた腕を払いながら、至極不機嫌そうに顔を歪めた。
「おま、足はっや」
「そこはどうでもいいでしょう。毎日スペクター追いかけてたらこうなります。それよりこんなところで、何やってたんですか?」
「何って……」
そう言いながら、彼は先程覗き込んでいた方を指し示した。
「魔術師っぽいヤツらが、集まっていくのが見えたから覗こうとしただけだぜ。最初はフツーに入ろうとしたんだけどな、止められたんだよ」
「…………何してるんですか?」
思わぬ行動に赤鴇は思い切り呆れてしまう。そんな彼の表情を見た長柄は、これまたうっとおしそうに首を横に振って、己を指す。
「うるせぇ、オレなら年齢ならいくらでも誤魔化せるだろうが! でもさすがに、会員証は持ってねぇし」
「会員証、ですか?」
きょとんとして、長柄の言葉を反芻する。
「……それなら別に魔術師とは限らないのでは? 会員限定の集会とか、いかにもありそうじゃないですか。もうこんな時間ですし」
そんな赤鴇の指摘に長柄はにやりと笑って入口の方を指さす。その仕草が妙にうざったく見えた赤鴇は、思わず顔を顰める。
「は、それだけならオレもスルーしたわ。でもよ、竜冥会って聞いたら話は別だろ」
「竜冥会って……あの、竜冥会ですか? 去年の……」
東部を中心に会員を擁する、魔術師集団竜冥会。会員の数が多いためか、その活動内容はバラバラで区別がつけにくい。一つの組織として認識されているものの、その実態は複数の組織が一つになった連合組織、と言うべきだろう。昨年赤鴇と関りがあったのは、通称出雲支部らしい。となれば、今あそこで集会を始めようとしているのは初見の支部だろう。
「あぁ。オレも一応会員ではあったからな。会報が来てた。んで、行ってみたら門前払いされた。いくら会員でも会員証持ってないなら来るなってよ」
「なるほど、それでまんまと追放されたということですか。妥当ですね」
「んだテメー、ムカつく顔しやがって……」
悪態をつき続ける長柄を放って、建物の方をもう一度見る。よくある雑居ビルだ。集会の会場は半地下なのだろう。下から上へ見ていき、思い付きを一つ口にする。
「……あの建物、別口から入れませんかねぇ。屋上とか」
「は? なんだよ、やる気だな」
目を丸くして長柄は小首を傾げる。まさか赤鴇が乗り気になるとは思ってもいなかったのだろう。彼から見た赤鴇昇星はとても真面目な人物らしい。
「まぁ、ちょっと」
そう返しつつ、赤鴇は建物の裏手に回る。一瞬だけ春河の顔がちらついたが、すぐに思考の波に飲まれていった。
(……裏口が一つ。たぶん鍵閉まってるよね。上は)
三階部分に一つ、開いている窓がある。
「──あの、ロッククライミングは得意ですか?」
「はぁ?」
※
「オマエ、こういうことにあんま躊躇ないのな」
長柄は呆れたように言って肩を落とす。
「そんなことないですよ。ただ今は少し腹が立っているだけで」
きっと後で死ぬほど後悔するのだろう。結局、長柄は壁を登る手段を持っていなかったので、赤鴇が三階まで登り窓から侵入。そして裏口の鍵を開けた。
「こんなことに魔術使ったって聞いたら、大好きなセンパイはなんて言うかねぇ」
「……これは独学なので教わってませんよ。なのでセーフです」
「……」
赤鴇の返しを聞いた長柄は、全く面白くないのだろう。思い切り渋い顔をした。そのまま二人は奥へ入っていき、会場入り口手前まで迫る。集会開始まであまり時間がないのだろう。観客たちの声に混じって、従業員たちがせわしないやり取りをしているのが聞こえる。
「んじゃ行くか」
そう言って堂々と会場へ入っていこうとする長柄を、赤鴇は慌てて止めた。
「いや、さすがに中に入るのは……この辺から音だけでも聞きません?」
「は? どうせ始まったらあのドア閉めるだろ。さすがに聞こえないと思うぜ」
赤鴇の急な掌返しに彼は顔を顰める。それに少しだけ及び腰になった赤鴇は一際強く長柄の手を引く。
「いやいや、だからそこで魔術を使えばいいじゃないですか。さすがに中はバレますって!」
「んな便利な魔術持ってねーよバーカ」
噛みつくようにそう言った後に、長柄は舌を出してさっさと歩きだしてしまう。
「あっちょっと……!」
そのまま赤鴇の制止を振り払って長柄は、騒がしい会場へ入っていく。直後、警備員が入っていくのが見えた。
(まさか、見つかってるんじゃ)
最悪のパターンに思考が辿り着く。
会場の中は騒がしい。
ざっと数えて五十人はいるだろうか。そのくらいの人数の中に、一人侵入者が混じっていても気が付くものはない。それが例え、長柄のような目立つ格好をした人物であっても。
(香水の匂いすご、早く出てェ)
適当な収穫が得られればすぐにでも、ここを出よう。そう考えている長柄の腕を掴む者が一人。その高さと位置には覚えがある。
「は、なんだよ」
「違うんです、警備の人がさっき入って──」
赤鴇が状況を伝えようとしたその時。マイク音声が会場に響き渡る。音質の悪いその声は淡々と集会の挨拶を述べていく。
群衆に悟られぬよう、赤鴇は黙り込む。長柄もさすがに騒ぎ立てるつもりはないらしく、口を閉じて舞台の方を見ている。
「事前にお知らせした通り──」
本題に入った。長い長い挨拶もそこそこに、魔術師たちがこぞって耳を傾ける。
「ここ数か月で頻発している転華病の原因が、とある人物の呪いであることが発覚しました」
どよめきが会場を満たす。
「な──」
赤鴇の意識は舞台に釘付けになった。正確には、舞台上にあるプロジェクターに映し出されたもの、だった。
そこに映されていたのは手紙だった。
宛先は竜冥会。差出人は見当たらないらしい。手書きのその手紙の内容は──
『昨年末の災害級、それに加えて今年に入ってからの転華病の流行。これらはすべて、とある人物の仕業である。その人物は、初瀬幸嗣であり、彼の血縁者もまた、我ら魔術師の敵である。初瀬家は穴熊の末裔として魔術師界を恨んでいる。呪いの楔を除去しなければ、転華病の流行は激化する。それどころか未曽有の災害がこの街を襲うことになるだろう。竜守はすべて彼らの手先である。非常事態であるにもかかわらず、竜骨の解放を行わないのは両者が手を組んでいるからだ。現状を変えたいのなら要石を解放しろ、楔となっている人物を殺せ、室とその協力者を──』
「だ、れがそんなことを──」
途中まで読み込んで、赤鴇は驚愕した。
誰が、などという情報はどうでもいいらしい。聴衆のどよめきは段々と怒号へ変わっていく。要石を解放しなければならないのか、首謀者はどこだ、と疑問の声が飛び交う。困惑、失望、怒りは色を持ち始めた。魔術師たちの感情に触発されて周囲の魔力が震えている。その気持ちの悪い感覚に赤鴇は思わずその場に蹲った。彼らが責めているのは赤鴇ではない。それでもその怒りや恨みの感情に触れるたびに赤鴇の心臓は縮み上がる。その緊張と混乱は過呼吸を引き起こした。
「なっ、ちょ、おま……しっかりしろって!」
さすがの長柄も赤鴇の異変に気が付く。
「見つけたぞ」
警備員が二人の居場所に気付いた。一斉に鬼たちの視線が二人へ向かう。
「っ……あ……」
長柄はそこで初めて赤鴇が隠密魔術を行使していたことに気が付く。彼の意識が混濁した今、その魔術式は効力を失ってしまったのだろう。一気に焦りがやってくる。自分だけ逃げることは可能だろう。しかし、しかしだ。ダウンしかかっている赤鴇を、このままこの中に置いて行くようなことを、どうしてかできない。足が動こうとしないのだ。
(つっても! 何ができるって言うんだよ)
必死に思考を回す。無情にも鬼たちはそんな長柄に構うことなく手を伸ばす。あぁ、捕まえられてしまう。そう思った次の瞬間だった。
「ったく、また懲りずに脱走か。長柄はまだいけるだろう。動け、立て」
心底呆れたように、ぶっきらぼうな声は小さくそう言った。驚いて顔を上げてみれば、そこには底意地の悪い顔をした警備員の男がいる。一目その顔を見て、長柄は声を失った。
「あ、あ……!? オマ、浦」
「すみません、すぐ連れ出します」
それを遮るように浦郷は周りの人へ声をかける。そしてすぐさま、彼は片手で赤鴇を抱え上げ、もう片方で長柄の襟首を掴んで引きずる。
「は、ちょ、オマっ、離せって!?」
「はーい、少し通りまーす」
長柄の抵抗を他所に浦郷はずかずかと会場を横切っていく。こういったことは少なくないのだろうか。次第に魔術師たちは三人への興味を失って、舞台上に映し出された文字に注目している様子だった。
会場の外へ出て、裏手へ回る。そこでようやく長柄は解放された。
「ってェな! んなことしなくても自分で歩けるっての!」
「体裁は大事だ」
文句を言う長柄をそのまま放り出して浦郷は駆け出す。
「ど、どこ行くんだよ!」
彼の動きに全くついていけない長柄だったが、持ち前の瞬発力ですぐに追いつくことができた。そんな長柄の動きに浦郷は少しだけ目を丸くする。
「……さすがに外はマズいからな。うちへ行く」
そう答えた浦郷の案内でたどり着いたのは、ありふれたデザインの一軒家だった。慣れた手つきで鍵を開けた彼は、遠慮気味に門の前で立ち尽くしている長柄を手招きする。
「とりあえず迷うなら入ってからにしろ。目立つぞ」
その一言に背中を押され、長柄はその家に踏み入る。特別取り立てて言うこともない、本当にありふれた一軒家だった。男性の一人暮らしには不釣り合いな、少し可愛らしい鏡が靴箱の上に置かれている。玄関はすっきりと片付けられており、砂粒一つない。
「……」
不躾にそれらをねめつけた後に、長柄はやっと上がった。居間では浦郷が赤鴇の背をさすってやりながら、落ち着けている最中だった。
長柄は特に何をするわけでもなく近くにしゃがみ込んでそれが終わるのを待った。
「ず、ずみまぜんでした…………」
がらがらになった声で赤鴇は謝意を述べる。涙と鼻水でぐしゃぐしゃになったその顔は、普段の落ち着きを微塵も感じさせない、幼いものだった。
「ふん、お前ら本当に懲りないな。おい、長柄もそこへなおれ」
ぴっと浦郷が赤鴇の隣を指す。長柄は大人しくそこへ直った。浦郷は腕を組んだまま、じろりと二人を睨んだ。
「それで? 何か言うことは?」
「なんでオマエあそこにいたんだよ! 仕事じゃねーのかよ!」
その態度に釣られて長柄は浦郷に噛みつく。浦郷はそんな長柄の態度をものともせず、静かに鼻で笑った。
「逆だ。お前らが俺の仕事場に飛び込んできたんだよ」
「はぁ……?」
浦郷は自身の服を摘まんで見せる。彼が着ているのは普段のスーツではなく会場警備をしていた警備員のものと同じだ。
「潜入中だったんだよ。それで、どういう魂胆だったんだ?」
その問いに二人は答えない。
「……どういうつもりだったんだ?」
「意味が分かってねーんじゃねーよ!」
「そうか。違うのか」
「ちげぇ」
浦郷の見さげた態度に、長柄は全身で不満を示す。しかしその理由を口に出すことはなく、突っ張ってだんまりを決め込んだ。それを見た浦郷は肩をすくめて勝手に長柄の内情を分析していく。
「長柄は適当に手柄でも上げて俺に一泡吹かせたかったんだろう。赤鴇は……気が逸ったのか。まぁ、落ち着いていろと言うには酷な状況だしな」
「は? コイツだけなんか甘いな」
彼の分析に長柄は待っていましたと言わんばかりに文句をつける。それに対し、赤鴇は目を伏せ、浦郷は小さく鼻で笑って返す。
「お前知らないのか。三笠冬吾が誘拐されて、殺されかけたんだよ。警察には『離反する』という旨の連絡が、赤鴇たち複数名には『殺される』という内容の連絡があった。真相は不明だが、既に保護されて安全な場所にいるらしい」
「え、えーっ!? 何だよそれ、何だよそれ!」
赤鴇を見、コメントを求めるが彼は黙りこくって何も言わない。それどころか目すら合わない。何故教えてくれなかったのか、そう問い詰めたくもなったが目の前の鬼はそれを許さなかった。
「こういう状況も知らないくせに、無謀なことをするもんだ。馬鹿は大人しくできないとは思っていたが……ここまでとはな」
「……うるせぇ」
「咄嗟の機転も利かん、混乱しかかって何もできない。そんなお前がこれから先上手くいくとは思えない」
「何が言いたいんだよさっきから!」
我慢できず長柄は勢いよく立ち上がる。大柄な彼が立ち上がったことで、浦郷に影がかかった。それでも、浦郷は少しも怯むことなく淡々と説教を続けた。
「お前らの行動は、今後捜査に大きな影響を及ぼすところだったんだ。それを自覚していないことを責めている」
「は、影響……?」
「そうだ。あの場でお前らが魔術師どもに捕獲されてみろ。どうなったもんか分からない。俺もあの集会の一部始終は見ていたからな。向こうからすれば、いい交換材料が来たと考えられてもおかしくはないだろう。もちろんこれは最悪の場合の推測だけどな。お前らが人質になる可能性は十分にある」
「はぁー? それはいくら何でもなめすぎだろ。オレだって魔術で対抗できるわ」
「向こうの数はそこそこだったぞ。それに、だ。例え長柄一人が切り抜けられてても赤鴇はどうだった? な? お前はそれで迷ってあの場をすぐに動かなかったわけだし、分からないわけじゃないんだろう」
「……」
黙り込んだ少年に、引き続き浦郷は話を展開した。
「確かに俺の言う予想は突飛だし、そうそう起こり得るものではない。しかしだ。今はそれくらいに、魔術師どもの緊張感が強い。どんな方向に暴走してもおかしくはない。だからこそ、お前らみたいなガキの軽率な行動は慎むべきなんだよ。分かるか。それにここで人でも殺してみろ。お前が悪いことになるってのは理解しているんだよな」
念を押すような最後の言葉に、さすがの長柄もこれ以上言い返すことはできなかった。
「……分かってる」
「分かってるのか、そうか。じゃあ二度とするなよ」
黙り込んだまま長柄は座り直す。返事に満足できなかった浦郷はもう一度訊き返した。
「返事は」
「はい」
その様子をずっと隣で見ていた赤鴇も事の重大さに腹を痛めていた。後悔するのは分かり切っていたことだ。あの時分かっていたのに止められなかった己を少し恨む。長柄の態度を見て、少しほっとしたらしい浦郷が今度は赤鴇の方を見る。
「赤鴇もだ。不安でしょうがなかったにしても、自ら危険に飛び込んでどうする。お前の慕う先輩とやらは面倒ごとを増やされるのが好きなのか?」
問いかける声は優しくもなく、それでも変に尖ってもいなかった。ただ静かに確認するかのようなトーンで浦郷は尋ねてきた。
「いえ、違います、けど」
赤鴇は否定の言葉を口にしつつも、それ以上言い返すことはできない。その反応を見た浦郷は顎に手を当てて少し考え込む。すぐに答えに思い当たったのだろう、彼は手を下ろして一つこう言った。
「あぁ、違うな。そっちの先輩もだが、春河の方も気になるんじゃないのか」
「何か、知ってるんですか!?」
食い気味に尋ねる赤鴇を少しうっとおしく思ったのだろう。浦郷は少しだけむっとした表情で冷たい言葉を返す。
「いや知らん。第一知っていたとして、俺が教えるわけないだろう」
「で、ですよね……」
想像通りの返しに赤鴇はしずしずと座り直した。
「不満だし、不安だからと言ってやっていいことと悪いことがある。立派な不法侵入だからな。どんな魔術を使ったのか知らんが。自分が不利になるようなことをするな。誰かに批判されるような、余地を作って行動するんじゃない。お前らは普通の高校生、じゃないんだからな。いつでも守ってくれる人がいるわけじゃない。いいな?」
「……すみませんでした」
説教が一区切りつき、浦郷は足を崩して上着を脱いだ。
「お前らのおかげで早めの休憩になったな。何か……」
「そ、そうだ……! 浦郷さん、あの手紙!」
とんでもないことになっていたのを赤鴇は思い出した。早く伝えなければ、そう焦る赤鴇を横目に浦郷は平然として机の上にあった菓子を手に取る。
「あぁ、あれか。その点に関しては問題ない。すでに連絡はしてある」
「え、え、いつの間に……」
赤鴇は目を丸くした。会場を抜けてから赤鴇が落ち着くまで、浦郷はずっと赤鴇にくっついていた。彼がそれらしき行動をした記憶はない。もちろん、意識が混濁しているだけの可能性もあるが。
(でも、本当にそんなことしてたっけ)
「ははっ、まぁ分かるわけもない。分からなくていいことだからな」
困惑する赤鴇を鼻で笑った後に浦郷は長柄の方を見る。そのどこか得意げな顔に長柄は眉を顰める。
「んだよ」
「拗ねるな。とりあえず俺らは待機だ。いいな」




