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第3話 いざミディタリア!

『ミディタリア博物館』


 地球からのミディタリアへの転移は定刻となれば自動で発生する。

 どの場所に出るかは転移の瞬間地球のどこにいたかに左右されるため、想像主たちは昔から転移の際の集合場所を定めていた。

 日本の想像主たちがその集合場所に使っていたのは、ただの空き地である。

 しかしその昔、集合場所の空き地を殺風景に感じた想像主がミディタリアの土産品を飾り始めた。

 すると、別世界の珍しい物品が見られる、という話を聞きつけて多くの人がその場所を訪れるようになる。

 そうして時がたち、他の想像主たちが持ち込んだ品も段々と増えていったので、その場所にミディタリアの歴史や物品を展示する博物館を作ろう、という話が持ち上がった。


◇◆◇


「それで今の博物館ができた、ってわけなの!」


 歩きながら、自慢げな表情で母に解説をしたヒイロ。


「そうだったの~、ヒイロちゃんは詳しいのねぇ~」


「そうでしょうそうでしょう!」


 えっへん、と得意げに胸を張るヒイロ。その頭を撫でる木ノ子。

 心地いい日差しと春風を感じながら、三人は歩いていく。


「到着ぅ!」


 そうして自宅から歩くこと十分ほど、ヒイロたちの眼前に美麗な意匠が施された建物が現れた。

 ここが目的地のミディタリア博物館だ。


 今日が転移日と言うこともあって想像主を一目見ようと、周囲には作品のファンが大勢集まっていた。

 マナーがいいようで警備員たちの指示に従い、離れて手を振ったりグッズを掲げたりしている。

 メディア露出で顔が知られているヒイロが手を振りかえすと歓声が上がった。


「キャー!」


「ヒイロちゃーん!」


「かわいーい!!」


「どうか、どうか『トライアルター』を完結させてくださいッ!」

 

「お願いしますッ!……お願いしますッッ!!」


 歓声と一部の魂の込もった叫びにもう一度手を振りかえし、ヒイロは建物へと歩を進める。

 

「……ここにも何度も通ったなぁ」


 歩きながら建物を仰ぎ見て、昔を懐かしむヒイロ。

 ミディタリアのことなら何でも知りたかった彼女は、幼い頃から母やフタタと共に何回もここに通ってきた。


「でも! そんな私ももう『想像主』!」


「いくぞー!」と拳を掲げて建物の中に入っていくヒイロ。

「おー」と声を上げて、木ノ子とフタタも後に続いた。


 本日は関係者で貸し切りのため人の少ないエントランスホールを抜け、受付へと向かう。

 事前の手続きはしてあるのでスムーズにいくだろう。


 二人が発行していたカードを提示し、木ノ子もヒイロが申請した招待者用のカードを出す。


「お待ちしておりました。ご案内いたします」


 スーツ姿の男性が確認を終えて受付奥の扉を開き、そのまま案内に従い施設の奥へと進んでいく。

 様々な展示品に目を引かれる展示スペースと違い、飾り気も何もない通路だった。


「裏はこんなふうになってるんだね」


「ね~」


 ヒイロと木ノ子が並んでそんな会話をする中、後に続くフタタ。

 やがて先導していた男性の案内は、大きな扉の前で止まった。

 男性に礼を言い、その扉の先へ三人は足を踏み入れた。


「おー」


「お〜」


「……」


 かなりの広さを持った部屋。ほどよい室温に、見目の良い装飾が施されたカーペット。中には高級そうなソファやらテーブルやらがいくつも並べてある。部屋というよりラウンジといった方が適切であろう絢爛豪華(けんらんごうか)な空間だ。

 しかしそんな内装とは裏腹にほとんど人がおらず、閑散としていた。


 そんな中で、数少ない四、五人の人物が一かたまりに集まっているようだ。


「あ、ゆかりさーん!」


 その中に自らの担当編集を見つけ出したヒイロ。ブンブンと手を振りながら駆け寄る。

 ヒイロの存在に気づいてゆかりも立ち上がった。


「お見送りありがとー!」


「こんにちはヒイロ先生!」


 にこやかに挨拶を交わした二人。

 そしてヒイロがあたりを見回しながら、


「やっぱ『先輩の想像主たちが帰って来られなかった』から、ガラガラで寂しいねー」


 そう、今年はミディタリアから想像主たちが帰って来ない年だったのだ。

 人罰の影響で過去にも起こってきた事態ではあるため、ヒイロ達はそれほど気にした様子はない。


「ええ、まあどーせまた人罰でしょうねぇー。

 こっちも想像主の原稿が向こうから届かなかったんで、売上もガタ落ちですよ」


 しかしそれはそうと、ミディタリア相手に商売をしている業界人のゆかりとしては不満が募っているようだった。


「ヒイロ先生が帰ってくる時までにはどっかへ行くことを祈るばかりです」


「流石に一年居座ったりしないでしょー。来年は先輩たちと帰ってくるよ」


 そんな会話をしている横で、フタタも自らの担当と会話していた。


「お疲れ様です」


「おめでとう再君。緊張して早めに来ちゃったよ」


 そう言って笑う、メガネにスーツ姿の担当の男性。

 フタタはそのすぐそばに固まって座っている三人をチラリと見る。

 雰囲気からして、おそらく別の想像主の担当だろう。

 ヒイロとフタタの担当を合わせると、なんと計五人だ。


「しかし本当に五人も想像主が生まれたんですね、今期は」


 事前に発表はあったので知ってはいたが、改めて少々驚いたように呟くフタタ。


「まあ去年、一昨年と異例の想像主ゼロ人とはいえ、一気に五人なんて聞いたことなかったからねぇ」


 そんな会話をしながら、フタタは荷物を置いてソファにかける。

 仕事についての話し合いは事前に十分行なった後なので、他愛ない雑談などに興じるヒイロたち。


 そうしていると、ガチャリと部屋のドアが開いた。

 そして視界に入ってきたのは、ビビッドピンクのハーフツインテールに、リボンとフリルがあしらわれた衣装。

 音符マークのパッチリとした大きな瞳に、愛らしい顔立ち。

 それはいかにも日曜日の朝を主戦場とするヒロイン、といった出で立ちの人物だった。


 彼女は部屋に入るや否や顔の前で裏ピースを掲げながらポーズを取ると、よく通る声で話し始める。

 

「はーいっ♪

 『魔法少女は転ばない』作者兼主人公! 

 リアリスティックでマジカル!

 現代に現れたリアル魔法少女の~『魔法少女ルミノ』でーっす☆!」 


 そんな口上とともに登場をした人物を見止めたヒイロは、嬉しそうに手を振って立ち上がる。


「あーっ! 『ルミノ』ちゃん!!」


「ヒイロちゃーんっ♪ フタさんとママさんも!」


 そう言って笑顔で近づいてくる女性。

 彼女はヒイロたちの古くからの友人であるルミノだった。

 物語と現実をリンクさせたライブ活動や、各メディアでの精力的な活動など、発信力に優れた人物である。

 幼馴染であるヒイロやフタタの作品とのコラボも積極的に行っていた。

 どの作品も想像主化出来るだけの人気はあったとはいえ、三人同時の想像主化というのは彼女の集客能力の高さも関係しているだろう、とフタタは考えていた。

 ヒイロは特に何も考えてなかった。想像主になれた! うれしい! としか思っていなかった。

 そんなヒイロがルミノに駆け寄る。


「昨日の前夜ライブ超よかったよー!」


「ありがとー♪ ミディタリアに行く前のライブは最後だから、はりきっちゃった〜!」


 想像主であるルミノが開催したミディタリア行き前夜ライブ。

 チケットをもらった竹島家は一家で観戦して大いに盛り上がった。


「そういえばさっきの登場どうだった? ミディタリアに転移した時にもやろうと思ってるんだけど♪」


「かわいいとおもう!」


手を繋いでキャーキャーとはしゃぐ二人。


「あ、そうそう♪」


 ひとしきりはしゃいだ後、ルミノが背後に視線をやる。


「他の想像主さんたちとも入り口で一緒になってね、どっちも新人さんなんだよ♪」

 

 そう言われて部屋の入り口に視線を向けると、新たに二人の人物が入って来ていた。


 こっちこっち♪、とルミノに手招きされてこちらへやってくる二人。


「あ、どうもー」


「こんにちは」


 一人はヒイロ達と同年代に見える、ブラウンヘアでパーカーを着た青年だった。

 もう一方はヒイロ達よりいくらか年上に見える、スラリと背の高い中性的な顔立ちの女性だ。

 

「こんにちは! ヒイロです!」


「こんにちは。俺、樫田陽太郎かしだようたろうです。『結晶装甲(けっしょうそうこう)のシンデレラ』ってラノベ書いてます」


「あー! シンデレラの!」


「こんにちは、夏田逸美(なつだいつみ)です。

 『ひまわり』って名前で色々書いてきたけど、想像主になった作品は『漫画家のクズレ』。よろしくね?」


「ひまわり先生っ!?」


 フタタが憧れのプロ選手に出会えたスポーツ少年のような眼差しで逸見を見つめる。

 ひまわりと言えば、想像主化こそはしていなかったものの、長年ヒット作を出し続けていたベテランの漫画家だ。

 その分根強いファンがおり、他の想像主や編集者も彼女に視線を送っていた。


「後で……サインをいただけないでしょうか?」


「もちろん」


 フタタの提案に笑顔を返す逸美。


 これでお互いの名前と著作は分かった。

 ならば次にやるべきは、さらに彼らとの仲を深めることだ。フタタとルミノは元からの仲なので、主に今日初めて出会った二人とだが。

 そう思ったヒイロは担当との顔合わせを済ませた想像主たちに、貸し切りになっている館内のパティスリーへ移動を提案した。


「よーしじゃあ、親睦会兼スイーツバイキングという事で!」


 場を移した後、互いの作品についてやミディタリアのことなどについて話し合う。

 フタタやルミノとはもともと行動を共にするつもりだったが、せっかく同期になったのだからと後の二人もパーティーメンバーに勧誘するヒイロ。

 仲間は多い方が良い。ヒイロはそう思った。


 そうして共に夕食などを取っているうちに時間はどんどん過ぎていく。やはり想像主同士で創作の話に関しては通ずるものがあり仲もそれなりに深まった。

 

 そして──


 スタッフが大声で想像主達に告げる。


「まもなく『転移』がおこります!

 転移時には生物以外の身に着けていたものや、ある程度の大きさの触れていたものが一緒に飛ばされます!

 荷物をしっかり持ってできるだけ部屋の中央へお集まりください!」


 想像主たちは荷物をまとめて集合場所であった部屋の中央の、何も無いスペースに向かう。

 そこだけカーペットの上に紋様のようなものが描かれているので、見分けがつきやすかった。


「転移したら『召喚の間』っていう王宮の謁見場みたいな所に出るんだよ。

 毎年報道記者とかも来てるみたいだからカメラを意識しときな」


「えー、俺自信ないなぁ」


 ヒイロの言葉に自信なさ気にするパーカーの陽太郎。


「コツは堂々としてることだよ♪」


「その辺はルミノとヒイロに任せておけば大丈夫だ」


「じゃあお任せしちゃおうか」


 ルミノとフタタ、逸美もそんな言葉を返しながら所定の位置につく。

 周りには編集者たち見送りの面々が集まっており、各々が見送りの言葉を送った。


 ヒイロはそんなゆかり達に手を振った後、母と抱きしめあう。

 ここから次に帰ってこれるまでの一年間はお別れだ。

 これは母親大好きなヒイロにとっては大変なことだった。

 そのまま惜しむように別れの言葉を告げているうちに、ヒイロ達の姿は跡形もなくなった。


◇◆◇


 都市などの生活圏から離れるように建てられた、深い森の中に位置する施設。

 そこは日本から転移してきた想像主を迎え入れる場所、『アドラース想像主迎賓館(げいひんかん)』。

 その巨大な施設の中の一室に、


「ハァ、ハァ……」


 荒い呼吸をしながら壁にもたれかかる、頭部に山羊のような角を持った赤髪の女性。


「グ……」


 彼女の手が負傷した箇所に触れると、穏やかな光とともにジワジワと傷口が狭まっていく。なけなしの余力を治療に割きたくはないが、出血は押さえなくてはならない。

 

 逃げ込んだ部屋の中には見知った顔の同僚が何人も転がっているが、二度と起き上がることはないだろう。


 もう立ち上がることすら億劫なほどに疲れてきた。


「…………っ、ハァ、ハァ……」


 だが、ここで座り込んでいても生き残ることはできない。ふらつく体を叱咤し、壁に寄りかかってどうにか立ち上がる。


 生き残るためには、今日転移してくる想像主に会うしかない。

 こちらの世界での人気と前年度の想像主たちから得た情報を考えれば、おそらく『漫画家のクズレ』と『魔法少女は転ばない』の両名は『来る』。


「それまでに、なんとか……!」


 彼女は行動を開始した。











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