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クソゲー世界の聖女になってしまったので、救国の悪女を目指そうと思います!  作者: 浅名ゆうな


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初代聖女の秘密

いつもありがとうございます!

今日もよろしくお願いします!

 かつてここには、一つの大帝国が存在していた。

 帝国は栄え、どこまでも勢力を広げていくかに思われたが――ある日、瘴気と呼ばれるものが発生するようになった。

 それの正体が何なのか、正確なところは知られていない。肉眼で捉えることのできる黒いもやを、人々の負の感情の集合体だとも、あるいは魔の王だとも推測されたが、真実は誰にも分からなかった。

 だが世界中に広まるのはあっという間だった。

 空には常に黒雲が立ち込め、植物が枯れ果てていく。食料を失った魚や動物達はやがて死に絶え、合わせて人間も困窮していく。生き残るため醜い争いが起こり、そこかしこで簡単に人が死んだ。――世界に、破滅が訪れようとしていた。

 絶望が満ちる中、燦然と現れたのが聖女だった。

 異世界からやって来た心清らかなる少女は、この地に降り立った瞬間から、自らに課せられた使命を知っていた。

 世界中の瘴気を晴らさなければならない。

 そう話す少女には確かに瘴気を浄化する力があり、帝国の人間は神が与えたもうと慈悲に違いないと、彼女の登場に心から感謝した。

 彼女は、清らかな心根をそのまま映したかのように可憐な容貌だった。

 艶やかな漆黒の髪、澄んだ双眸。聖女が微笑めばそれだけで心が洗われると、神の御使いにだと、帝国中の人間が彼女を愛し、親しんだ。

 それは、帝国の皇子とて同じこと。

 彼は美しい聖女に一目で心を奪われ、彼女を自分だけのものにしたいと願うようになった。瘴気を浄化していくたびに傾倒する者が増え、彼女を守る仲間もまた増えていく。

 特に近しいのは騎士と神官、大商人に魔法使い。皇子からすれば忌々しい存在でしかなかった。

 少しでも聖女の気を引こうと、努力はした。

 こぶしより大きな紅玉も、翡翠のかんざしも、絹のドレスも。

 七色の羽で飾られた帽子も、珍しい果物も、美しい舞を披露する踊り子も。

 与えられる全てを与えても、彼女の心を動かすことはできない。

 清らかなる聖女の心はいつだって、世界中で救いを求める者達へと傾けられていた。

 皇子はいつしか、暗い欲望に囚われるようになってしまった。

 彼女の心を惑わせるものがあるからいけない。全て見えなくしてしまえば、彼女は自分だけを想ってくれるに違いない。

 皇子は欲望に抗うことができなくなり、ついに罪を犯す。まだ世界の浄化を終えていないというのに、聖女を自室に閉じ込めてしまったのだ。

 籠の鳥となった彼女は泣き暮らした。どこかに自分の助けを待つ人がいると思うと、聖女は胸が潰れそうに痛かった。

 皇子にも、彼が差し出す贅沢な暮らしにも、聖女は見向きもしない。ただひたすら泣くばかりの聖女が、皇子は次第に憎らしくなった。

 心の一筋さえ傾けてもらえないのか。

 憎しみのあまり、皇子が聖女に向かってナイフを振り上げた時――颯爽と駆け付けたのが、彼女と近しくしていた四人の男性だった。

 彼らは帝国の皇子に逆らうことを恐れず、聖女を救うためずっと奔走していたのだ。

 帝国から逃げ出した聖女は、彼らの力を借り、見事世界中の瘴気の浄化に成功する。

 浄化されたあと、不思議と世界から魔法が失われていた。同じように、聖女の浄化の力も。

 とはいえ、偉業が消えることはない。

 聖女達が万人に称えられる一方、彼女に逃げられた皇子の命運は暗いものとなる。

 激怒した帝国の民が、各地で暴動を起こしはじめた。皇子を野放しにしていた責任を追及され、皇族全員が追いやられ、事実上の帝政が崩壊。

 皇子も民衆によって処刑された。

 滅んだ国の跡地を治めてほしいと民に請われたのが、聖女と共に世界を救った四人だった。

 騎士は武を誇るサマートル騎士国を、神官は聖女を神格化しセントスプリング国を、大商人は二度と飢饉が起こらぬよう実り豊かな秋華国を、魔法使いは瘴気と浄化の力を研究するためウィンターフォレスト王国を興す。これが今の四ヶ国のはじまり。

 幸福な結末を迎えたに思えたが、話はここで終わらなかった。

 世界中から魔法が、聖女の浄化の力が消えたことには、意味があったのだ。

 帝国の皇子は、聖女や騎士達を――世界を憎み抜いて死んでいった。

 彼の恨みはあまりに強く禍々しく、ほとんど呪いに近いものへと変容していた。呪いが、世界から奇跡の力を奪ってしまったのだ。

 魔法を失っても世界は滅びない。

 けれど、浄化の力を失った聖女は元々この世界の人間ではないせいか、大気に拒まれるかのように少しずつ弱っていった。

 十年以上の歳月が過ぎ、限界まで弱った彼女は、死の床にありながら微笑んで見せた。そして、嘆き悲しむ四人の国祖にあることを頼んだ。

『自分が死んだら、四つに分割した国の中心に埋葬してほしい』と。

 皇子の恨みは、帝国があったこの地を、いずれ瘴気のように蝕むだろう。げんに何年もかけて大地は荒廃し、緑が失われつつある。

 少しでも食い止めるため、我が身を捧げること。それが、最後に残された聖女の役割なのだと。

 四人は、その後息を引き取った彼女の体をガラスの棺に納め、聖廟を建てた。

 すると、奇跡が起きた。

 聖廟を取り囲むように森が広がり、枯れはじめていた大地が息を吹き返していく。

 国祖達はそこを聖地とし、広がった森を『禁足の森』として守った。せめて愛した人の眠りが妨げられないようにという配慮だ。

 彼らは聖女の願いに応え、それぞれがよく国を治めたという――。


   ◇ ◆ ◇


「これが、建国当時の真実……元は帝国があったなんて聞いたことがない……」

 誰かが乾いた声で呟くのを、要はどこか遠くで聞いていた。

 驚くのも無理はない。歴史が残されていなかったから、千年近くの時の中で四ヶ国は反目し合うようになったのだろう。

 などと冷静に考えながらも、要の視線はある一点に釘付けだった。


【※もしも続編ストーリーの聖女になってしまった人がいた時のため、この文章を遺します!!】


 物語のように進んでいた建国当時の記述の終わり、あからさまに不自然な文章が残されている。それなのに、誰一人としてこれを指摘しない。装飾か何かと捉えているようだ。

 ――四ヶ国の言語なら、全員が理解できるはず。他の人達が読めてないってことは、つまりこれ……日本語ってことなの……?


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