真相に手が届く
いつもありがとうございます!
一応佳境ですよー、どうぞよろしくお願いします!
要は、元いた世界の知識のおかげで、少し先の未来を知っていることを打ち明けた。
ローベルトは納得できる点があったようだし、細かい説明は省く。
四ヶ国が争い合う未来があること、要にはそれが意図的に思えてならないことを話すと、難しい顔でうなったのはイスハークだ。
「すまん。意図的というが、俺達の国は元々険悪な仲だろう? この先もし争いが起こったとして、何も不自然ではないと思うんだが」
彼の疑問はもっともなので、要も分かりやすく根拠を挙げていく。
「その、元々険悪っていうのも、私には不自然に感じるのよ。四つの国の国祖は、初代聖女を中心に志を同じくしていたはずでしょう? もし恋愛絡みでいざこざが起こったんだとしても、四ヶ国全ての国交が断絶されるなんてできすぎてる。それに、建国当時の伝承が四ヶ国で違っているの。まるで真実が、徹底的に痕跡を消されてしまったみたいに」
それに相槌を打ったのはチェスターだった。
「そういえばセントスプリング国に滞在していた時、似たようなことをおっしゃっておりましたね。後々、あなたが遺跡ではないかと推測していたものを調べて回りましたよ。確かに古いもののようなのに、何一ついわれが残っていないというのは違和感がありました」
議論を好むローベルトも話に乗ってきた。
「建国に関する伝承が違うというのは、比べてみなければ分からないことだ。四ヶ国が険悪であるほど、そのまま埋もれていたかもしれない事実だな。ある意味『絆の扉』で渡り歩くことのできる聖女でなければ調べようがなかったかもしれない」
彼は言い終えると、その場にいる面々の顔を楽しげに見回した。
「ならばなおさら、調査は進めるべきだろう。誰かにとって不都合な真実とやらがあるのなら、それを暴くためにも」
要達は頷き合うと、書庫へ向かうことにした。
先導をしていたのに若干入室を躊躇ったのは、昨晩のことを思い出してしまったからだ。毎日入り浸っている場所なのに気まずい。
チラリとローベルトを盗み見ると目が合ってしまい、要は慌てて顔を背ける。
「ここが、聖女の屋敷の書庫よ。ウィンターフォレスト王国から持ち込んだ書物もあるから、自分の国の伝承との違いを比べてみて」
それぞれが思い思いの場所に座るのを、要は入り口付近に立って見守った。
一人、逸白だけが入室したきり動こうとしない。
要はぼんやりと佇む彼が気になって近付いた。
「どうしたの? もしかして立ったまま寝てる?」
「私への偏見が、ひどい」
返答はするものの、逸白の横顔は動かない。
彼の視線の先にあるのは、東西南北の壁面を飾る色とりどりの布だった。
逸白の指先がついと動く。
「……あれは、秋華国の文字だ」
「――――へ?」
彼の示す方を見ても飾り布があるだけだ。
もしや、あの複雑に織り込まれた模様のことを指しているのか。
ソファにくつろいでいたイスハークが、また別の壁面を指差した。
「ん? 言われてみれば……そっちは、うちの言語に見えるな」
「へ? うちって、サマートル騎士国?」
続いてローベルトが、椅子を蹴立てて立ち上がった。瞠目する彼も、食い入るように別の飾り布を凝視している。
「そんな……なぜ今まで気付かなかったんだ……確かに、これはウィンターフォレスト王国で古くから使われている文字……」
「えぇー……って、チェスター?」
もしやと要が振り返ると、チェスターから即座に首肯が返ってくる。
「はい。あちらの壁を装飾する布、間違いなくセントスプリング国のものです」
「うへぇ……ちなみに、意味はあったりする?」
「だいぶ昔に使われていた装飾文字なので読みづらいですが……『まずは食堂へ』と」
「嘘でしょ……」
要達は、さっき出てきた食堂へと引き返す。
飾り布に書かれていたそれぞれの言葉も、無事に判読されていた。
サマートル騎士国の言語で書かれていたのは『食糧庫』という文字。秋華国の文字では『薄いタイル』、そしてウィンターフォレスト王国の文字では『革の手帳』と。
正直要は全く気付いていなかった。
それは、文字として目にしたものの意味を、頭が勝手に理解できてしまうからだ。
異世界転移の特典だとありがたく思っていたが、それは裏を返せば文字として認識していないものは判読不可能ということ。
初めに気付くべきだった。おかしなことはこの世界に来た時からあったのに。
それぞれの文化があまりに異なっているから、ゲームの世界だからこういうものと割り切っていた。共通言語を使っていないのに彼らの会話が成立している不自然さに、気付けずにいたのだ。
要の異世界特典も含め、それは決して当たり前のことではなかった。
全て、初代聖女の力だとしたら。
示されていた通り、一行は食堂にたどり着いた。
そのまま食糧庫に向かい、扉を開く。四畳ほどの広さの庫内は、確かにタイル張りだ。
五人も入れば手狭だけれど、探しものをするとなるといささか広い。手分けして『薄いタイル』を探す作業は骨が折れた。保管してある食料を運び出す肉体労働はイスハークに任せる。
一つ一つ叩きながら確かめ、ようやく見つかったのは壁面に埋め込まれたタイル。手の平ほどの大きさで、他のものより少し高い音が返ってくる。攻略対象達は首をひねっていたが、絶対音感になりたいという友人に付き合わされあれこれトレーニングをした要には分かる。
「繊細な作業になるから、私に任せて。発掘作業は経験済みだし、こういう周りに刃を入れていく感じ、名作アニメで見たことあるからやってみたい」
「よく分からないが、ろくでもない知識というのは何となく伝わったぞ」
本当に任せて大丈夫なのかという疑惑の視線にさらされながらも、要は短刀を用い少しずつ周囲にひびを入れていく。
裏がどういう構造になっているのか分からない以上、慎重に掘削しなければならない。
一心にタイルを剥がしながら、要は考える。
ここに一体何が隠されているのか、なぜこうまで厳重なのか。
飾り布に縫い込まれた文字は、文字だと認識するまでその国の者以外には読めなかった。
だとしたらこれを遺したのは、間違いなく初代聖女だ。当たり前に会話が成立する四ヶ国の盲点を突いた暗号が作れるのは、その力の根源である彼女くらいのものだろう。
四ヶ国の者が揃い、力を合わせねば解けない暗号を作った、初代聖女の意図は何か。
ようやく剥がし終えたタイルをどかす。
タイルの向こうは土だが、少し掘り進めるだけで目的のものに行き当たった。
何重にも油脂を巻かれた包み。
ほどいていくと、飾り布に記されていた通り茶色の革の手帳が出てきた。
劣化した紙が千切れてしまわないよう、慎重にページを開く。かなり掠れているものの、繊細な文字がかろうじて読める。
要の後ろから手帳を覗き込んでいた誰かが、呟きを落とす。
「これは……聖女が遺した、手記……?」
そこに書かれていたのは――建国当時の真実。




