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クソゲー世界の聖女になってしまったので、救国の悪女を目指そうと思います!  作者: 浅名ゆうな


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新たな決意

いつもありがとうございます!

今日もよろしくお願いします!

「……全方位から否定されたら悲しいわ。聖女だけど、私だって普通の女の子なのに」

 分かりやすく傷付いた顔で目を伏せたのに、返ってきた反応は実に白けたものだった。

「あのな。今さら弱いふりをしても、気持ち悪いだけなんだって」

「何といってもあなたは、五十三歳の大司教に色仕掛けをする特殊な方ですしね」

「そなたは、常に変わり者を見るような眼差しをしていたが、自分の方こそ異常であると、自覚するべきだと思うぞ」

「お前といると、しばしば普通という概念を見失いそうになるな」

 あまりに好き放題言われすぎている。

 要は簡単に我慢の限界に達した。

「――――ちょっと⁉ あんた達、仲が悪いはずなのに、やけに息が合ってるじゃない⁉」

 攻略対象達の視線が一気に集中する。

 まずい。地が出てしまった。日本でしていたように全員にいい顔をしたかったのに、少しも思い通りにいかない。

 不思議そうに顔を見合わせていた男性陣が、さざ波のように小さく笑いだす。

「言われてみれば、そうだったかもしれん」

 代表して口を開いたのは、ローベルトだった。

「不仲であることなど忘れていた。……カナメが聖女であるからだ。お前という不可思議な存在が介入して、反目し続けることなどできまい」

「不可思議って何よ! 私は普通だってば!」

「……普通?」

「普通とは」

 純粋に首をひねっただけの逸白はともかく、チェスターにせせら笑われた要は、屈辱のあまり黙り込む。いや、純粋に訝しむ方が反応としてはひどいかもしれない。

 けれど、どこかで安堵しているのも確かだった。

 彼らはヒロインではなく、要を見てくれていた。ありのままを認めた上で、受け入れていたのだ。

 ローベルトが立ち上がり、要に歩み寄る。

「お前は普通とかけ離れているくせに、自分に自信がなくて、気ばかりを回す。だからこうして他の面々を呼び出し、俺と二人きりになることを避けたのだろうがな」

 言い当てられ、小さく肩を揺らす。

 後ろめたさを隠すように俯くとローベルトは苦笑を漏らし、子どもにするような気軽さで要の頭に手を置いた。乱暴に髪を掻き回されるけれど、それをどこか心地よく受け止める。

「お前は本当に馬鹿だ。たとえば俺がお前を好きだとして、それは俺が勝手に想っているだけのこと。お前が重荷に感じる必要はないのに」

「ローベルト……」

 要は薄青の瞳を見返しながら、唇を噛み締めた。

 ローベルトは、不誠実な対応を許そうとしてくれている。たとえ話の体にしてくれるのも、彼なりの不器用な優しさだ。

 見つめ合う二人に強引に割り込んだのは、イスハークだった。

「その言い分は全面的に賛成だが、二人きりを避けたくなる出来事、というのが気になるんだが?」

 頬杖をついてどこか不満げにしているが、それもすぐ笑顔に変わる。

「まぁ、今回は俺達を頼ってくれたし、よかったということにしておこう。カナメは一人で抱え込んで、限界まで頑張ろうとするところがあるからな」

 彼の台詞で不意に思い出したのは、友人の言葉。

『いやホント、あんた頑張りすぎじゃない?』

 あの時要は、悪意があると思い込んでいた。

 けれど、そうじゃなかったのかもしれない。

 馬鹿にされているのだと、卑屈になっていた要が勝手に傷付いただけ。受け止め方次第だったのかもしれない。

 ――本当のあの子は、あの笑顔は……少し呆れの混じった、優しいものじゃなかった……?

 今、目の前で笑っている彼らのように。

 なぜ、こんな簡単なことに気付けず、苦い思いを感じていたのだろう。

 問い質す勇気もなくて、勝手に距離を置いて。ぶつかってみれば何かが変わっていたのに。

 家族はどうだっただろう?

 義母は要を持て余していると思っていた。あまり顔を合わせない義父は、出張を言いわけに近付かないようにしていると思っていた。義兄は、急にできた妹を苦々しく感じていると思っていた。……全部、要がそう思っていただけだ。

 本物の家族になれないと線引きしていたのが要だけだとしたら、嫌われまいと顔色を窺い続ける姿に傷付いていたのは、彼らの方だったのだろうか。

 泣いたり、怒ったり、八つ当たりをしたり。

 ――家族らしい甘えた態度も、許されていたのかもしれないのに……。

 いつの間にか要の頬は、熱い涙で濡れていた。

 攻略対象の面々が、にわかに動揺しはじめる。

「お、おい、大丈夫か? お前に限ってどこか怪我をしたということはないと思うが……」

「何か病から来る痛みでしょうか? カナメ様が泣く理由など、それ以外に考えられません」

 本当に失礼な人達だ。要はおかしくなって泣きながら笑った。

 彼らへの親しみはとっくに芽生えている。

 けれど素直になりたいのは。ありのままの自分を見せたいと心から思っているのは――この世界にはいない人達だ。

 ――会いたい。今すぐ会いに行って、確かめられたらいいのに……。

 要は慌てふためくイスハーク達を視界に収める。

 そのために今まで悪女を演じてきたのだ。戦争を止めて、元の世界に帰るために。

 決意を新たにした要は涙を拭うと、勢いよく頭を下げた。

「お願い。みんなの力を貸してほしいの」

 どうせ今すぐ戻れたとしても、彼らを現状のまま見捨てることなどできないのだ。

 ならば、とことんまでやってやろうではないか。



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