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クソゲー世界の聖女になってしまったので、救国の悪女を目指そうと思います!  作者: 浅名ゆうな


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攻略しているのか、されているのか。

いつもありがとうございます!

今日もよろしくお願いします!


   ◇ ◆ ◇


 不安要素は様々にあったが、要達はまず生活基盤を整えねばならず、当初は色恋どうこうという状況ではなかった。

 この世界には聖女の奇跡の力はあるものの、魔法はない。その上で中世風の世界観とくれば水にも食料にも困窮するのは当然だった。

 まして、共に生活を成り立たせるパートナーは生粋の王族。使用人の一人もいない聖女の屋敷に連れてきた手前、彼にいらぬ苦労はかけまいという謎の使命感に駆られた要は、これまでの経験を全力で活かすことにした。

 火おこしはサバイバル研究会に所属したことがあったので何とかなった。あとは絶やさないよう熾火を管理すればいい。

 問題は食料だった。

 禁足の森とされている場所に分け入った要は、油断なく周囲を見回した。

 静かな森に小鳥のさえずりだけが響いている。気配を殺し、繁みの陰にじっと身を潜めていると、耳が小さな足音を拾った。

 足音の重さからして大きくはない。小動物……おそらくうさぎだ。

 要は細心の注意を払いながら、背中の矢筒に手を伸ばす。繫みからほんの少し顔を出すと、予想通り長い茶色の耳が忙しなく動いている。距離にして七メートルほどか。

 息を吐ききり、呼吸を止める。集中を細く細く、ウサギの方へと伸ばしていく。

 背中を向けた瞬間が好機。

 じっと構え続けていた弓から右手を離す。

 風切音を立てながら飛んでいった矢は、吸い込まれるようにウサギへと刺さった。

 要は立ち上がってこぶしを握る。

「――やった、今日はウサギが食べられる!」

 要は、聖女の屋敷に保管された弓矢を駆使し、狩りに勤しんでいた。

 アーチェリーをかじった経験はあったが、はじめの内はなかなか獲物を仕留めることができず苦労した。お腹を空かせたローベルトが家で待っていることを思えばあまりに不甲斐なく、滞在開始二日間は苦しい時間だった。

 けれど三日目からはコツを掴めてきたようで、動きの速くない動物なら矢が命中するようになっていた。森にある木の実を抱えて帰るしかなかった当初に比べれば格段の進化だ。

 森を出て屋敷に戻る道すがら、要は遠くに人影を見つけて大きく手を振った。

「ローベルト。今帰った」

「おかえり、カナメ。すごいな、今日はウサギを仕留めたのか」

「もう手ぶらで帰ることはないよ」

「俺は木の実や果物だけでも、お前が無事に帰ってきてくれればそれで十分だがな。疲れただろう。すぐに茶を淹れる」

「水を汲み上げてくれたの。井戸は遠いし、力仕事は私に任せてくれていいのに」

「全く苦にならないから問題ない。お前がいつも頑張ってくれているから、俺もできる限りのことをしたいのだ」

「ローベルト……ありがとう」

 屋敷に向かって並んで歩き出し……要はハッと我に返った。

 ――あれ? これ……恋愛シミュレーションゲームだったよね⁉ 私のヒロイン力どこ行った⁉

 ある意味愛情に溢れる会話だが、男女の立場が逆転している。

 この際男女の役割分担などどうでもいいが、要が狩猟民族に染まりすぎてはいないか。

 二人きりで助け合いながらの共同生活。期せずして今までで一番乙女ゲーム的な展開になっているのに、要の恋愛回路が死んでいるせいかおかしなことになっていた。

 その証拠に、ローベルトは恥じらいながらも頬を染めている。

「カナメは、本当にすごいな……獲物の血抜きにも、捌く手付きにも一切の躊躇いがない。本から得た知識だけはあったのに、俺など何もできなかった。逞しくて、頼りになって……カナメほど格好いい女性はいない」

 男らしい一面に引かれるかと思いきや、乙女のような風情で惚れ直されている。

 好感度が上がるのは間違いなくいいことなのに、落とし方が激しく間違っている気がした。ヒロインが逞しいのはどうなのか。

 ――まぁ、元々私がヒロインっていうのが無理あったしね……こういうのは、明るくて健気で前向きな人が向いてるんだよ……。

 戦争阻止の合間に恋をする心の余裕もない。

「ただいまー……って、あれ?」

 屋敷に戻った要は、扉を開けた瞬間違和感に気付いた。何かが変化している。

 室内を一通り眺め、テーブルの上に目を留めた。小さな花瓶に黄色と白の小花が活けられている。朝出かける時はなかったものだ。

「綺麗、雰囲気が明るくなるね。ローベルトが飾ってくれたの?」

「俺にできることは少ないからな。見様見真似だが、一応掃除もしておいた」

 素っ気なく告げるローベルトだが、照れくさそうに視線を揺らしている。

 要は感謝を告げながら、もはや彼がヒロインでいいのではないかと失礼なことを考えた。

「嬉しいよ。じゃあ、お昼ごはんを作っちゃうね」

 厨房に向かう要に、ローベルトが手伝いを申し出た。ありがたく受け入れ、二人で料理をはじめる。

 要は発酵させない手軽さから、ナンを作ることにした。ローベルトには捌いたウサギ肉とハーブを放り込んだ大鍋を見ていてもらう。

「それは何をしているのだ?」

「生地に練り込むハーブを刻んでるのよ。毎日同じ味だと飽きちゃうでしょ」

 ローベルトは何にでも興味を抱くし、分からないことは積極的に質問する。

 こういうところがあるから、みるみる知識を吸収し、共同生活をはじめて五日しか経っていないのに、掃除や洗濯もできるようになったのだと思う。

 まさに健気系ヒロインの鑑だ。

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