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クソゲー世界の聖女になってしまったので、救国の悪女を目指そうと思います!  作者: 浅名ゆうな


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見えてきたもの

おはようございます!

今日もよろしくお願いします!

 空に三日月が浮かぶ頃には、要が成し遂げたことは宮中に知れ渡っていた。

 そうしてまたもや、要は盛大な宴に参加している。もちろん汀ら女官集団によってふんだんに飾り付けられた状態だ。

 霊峰洛山を浄化したことへの感謝を込めてという大義名分らしいが、はしゃぐ高官達を見ていると酒を飲む口実にされている気がしてならない。

「彼らが浮かれ騒いでいるのも、そなたの偉業を称えているからこそ」

 気配を消しながらも冷めた目で眺めていると、隣に誰かが座った。

 半眼を向ければ思った通り、楽しげにうっすらと微笑む逸白がいる。

「今日はやけにしゃべるわね」

「うむ。非常に疲れた。おそらく一年分は喋っているだろうな」

「それ反動で一年喋らなくなるじゃない」

「うむ」

 あっさり認められ、しかめっ面も長続きしない。

 要は昼に言えなかった感謝を告げることにした。

「部屋で大人しくしてなさいって言っておきながら、昼間は助かったわ。あんたが来てくれなかったら怪力の化け物扱いされてたかも」

「うむ。あながち間違っていないな」

「調子に乗って馬鹿にし続けるなら、次に怪力聖女の犠牲になるのはあんたよ」

「すまぬ。もう言わぬ」

 ここで謝罪されると本気で小馬鹿にされているようで、やはり複雑だ。

 要は込み上げる文句を堪えながら、隣で盃を傾ける逸白を眺める。

 一番汚い部分をさらしたからか、彼にはつい何も考えず接してしまう。攻略対象を相手にこれでいいのだろうか。

「……いい人ぶろうと思わずに話すのって、こんなに気楽なのね」

 またしても本音がこぼれる。

 街の人に遠巻きにされた時、要は体がすくんだ。

 友人に嘲笑われた恐怖が甦って、怖くなった。

 普通の範囲を逸脱した。

 枠組みから外れた途端に問題視されると、知っていたはずなのに。本音を見せないよう、相手が演じてほしいよう、今まではできていたはずなのに。

 養父母に迷惑をかけないようにと、要はいつも不安を抱えていた。

 頑張って物ごとに打ち込んだのは、その不安を拭うためでもあった。

 すごいと称賛され、認められて。そうしていればたくさんの人に囲まれていられる。好かれていると安心できるから。

 ――それでも、どれだけ努力しても、誰かの特別にはなれなかったけど。

 それどころか友人に笑われる羽目になったのだから、要の努力は間違っていたのだろう。

「養父母達にとっての、特別でい続けたかった。偽物は、本物にはなれないのに」

 優しい義兄に対しても劣等感を抱いていたのだから、要も相当ひねくれている。

 沈黙が落ちると、逸白はこちらに横顔を向けたまま口を開いた。

「思うに、はみ出しているというのは浮き彫りになっているということで……それこそが特別に感じるきっかけとなるのではないか? 誰かの特別、というのは主観的なものだ」

 彼の言葉に、要は目から鱗が落ちる思いだった。

 誰かの特別とは主観的なもの。

 それはそうだ。要が欲しているのは俯瞰で際立つ特別な才能ではなく、身近な人に愛されるという、ごくありふれたもの。

「確かに……浄化のあと、あなただけが笑ってくれて……私にも特別に映った……」

 特別を欲しているくせに、心のどこかでは誰も本音を受け止めてくれないだろうと諦めていた。相手を信じきることができないから、自分をさらけ出すこともできない。

 要はいつだって、不特定多数に好かれる自分を演じるので精いっぱいだった。

「え。つまり、みんなに好かれるためにはある程度周囲に合わせる必要があるのに、誰かの特別になるには少しはみ出さなきゃ駄目ってこと……? そんなのほとんどひっかけ問題じゃ……」

 恐ろしい真理につい心の声が漏れてしまう。

 要はふと、隣がやけに静かなことに気付いた。

 思索に集中しすぎて気が回らなかったけれど、さすがに攻略すべき相手に対し、色々ぶっちゃけ過ぎたかもしれない。

 慌てて逸白に顔を向け、要の思考は停止した。

 常に鉄面皮、感情が分かりづらい逸白の顔が――なぜか真っ赤になっていたのだ。

 ――え、え、え。まずい、チェスターに引き続きまた不用意な発言を……って、全員攻略しようとしてるんだから、むしろこれが正解?

 あからさまに好意を主張したのではなく、要としては本心がこぼれたまでのこと。

 周囲に怯えられる中、笑い飛ばしてくれた逸白が特別に映るのは当然とすら思う。ただ、恋愛という意味合いが含まれていなかっただけで。

 それが思わぬかたちで好感度を上げたらしいことは理解できたけれど、恋愛経験のない要には、次にどう行動すれば正解なのか想像もつかない。

 どぎまぎしつつ、ゲームではどうだったかを懸命に思い出す。

 ――逸白に特別だって告げるシーンなんか、あったっけ……? え、じゃあどうすればいいの? マニュアルがないと対処のしようが……。

 秋華国の国祖は大豪商だったらしいし、何かしらの利をちらつかせれば子孫である逸白にも有効かもしれない。いや、恋愛に利益を求めていいのか。

 逆ハーレムエンドがないということは一応純愛を売りにしているはず……とそこまで考え、要の動揺は途切れる。

 今、重要な何かが引っかかった。

 気になっていたこと――違和感の答えが、すぐ目の前にある。


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