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クソゲー世界の聖女になってしまったので、救国の悪女を目指そうと思います!  作者: 浅名ゆうな


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だからこそ、できることがあるなら

いつもありがとうございます!

 要の抱える鬱屈に、静かに耳を傾けていた逸白が、おもむろに口を開く。

「当たり前だが、欠陥のない者など、この世に……いいや、どの世界にも一人としていない。そしてこれも当たり前だが、そなたは普通に振る舞っていると信じているようだが、なかなかに奇天烈な行動を隠しきれていないぞ」

「……へ?」

 やけに流暢に普通ではないと指摘され、要は衝撃を受けた。自分が普通じゃないというのも信じがたければ、奇天烈などという表現も初めて耳にした。

「……いやいや。『聖女パンチ』のことなら、あれはなぜか攻撃をする時しか浄化の力が出せないからであって、あとはいたって普通の素行じゃない」

「普通とは、他と異なる性質を持っていないことを指すのだが」

「定義を丁寧に説明しないでくれる?」

 変わり者だと思っていた逸白から変わり者扱いを受けるのは屈辱的だ。苛立ちをぶつけていたはずなのに違うベクトルで腹が立ってきた。

 無言で頬を引きつらせていると、体を起こした逸白が微笑んだ。

「そなたは、そなたのままでよい。その方が一緒にいて、面白いからな」

「勝手に楽しまないで、有料だからね」

 金を取ってやろうかと脅したのに、彼は声を上げて笑った。

 初めてあどけない笑みを見せられれば、何だか毒気が抜かれてしまう。

 口をへの字に曲げて黙り込んでいると、不意に地面が揺れた。

 今回は明確に揺れていると分かる規模だった。

 部屋の隅で若者のやり取りを微笑まし気に見守っていた汀も、周囲を警戒している。

「……大きいな」

 逸白も険しい表情で呟いた。

 書庫で初めて揺れを感知してから、これで六度目。まだ足元がぐらつくほどではないけれど、振動は確実に強くなっていた。それに、次第に間隔も短くなっている。

 まだ揺れ続けているというのに、逸白は構うことなく窓辺に近付いた。

「今後、食糧の確保をせねばならぬか……」

 彼の台詞に、要は目を見開いた。

 やはり逸白は有能らしい。

 シナリオを知る要と同じ未来が視えているのだ。

 要は断続的な揺れがはじまる前から――もっと言えばこの国を訪れる前から、これから起こることを知っていた。

 シナリオ通りなら、秋華国で起こるイベントはかなり深刻なもの。

 瘴気の胎動に誘発された火山が、噴火を起こしてしまうのだ。

 幸い、噴火による犠牲者は少なく済んだものの、その後大地に降り積もった火山灰が原因で深刻な食糧不足が起きる。

 秋華国は、近隣国の食料を賄う実り豊かな国。国内の惨状は、やがて逃れようもなく他の国々へと影響を及ぼしていく。

 ゲームの中では、そこを救うのが聖女だった。

 大地を広範囲で浄化するほどの力を持たなかったヒロインは、無力さに苛まれながらも、国民のために奔走する。

 野菜や穀物を浄化し、少しでも飢える者が減るようにと、祈るような気持ちで力を振るい続ける。逸白もそれを常に補佐した。

 そうして次第に二人の絆が深まって来た頃、奇跡が起こる。

 毎日繰り返し、底が尽きるまで聖なる力を使っていたおかげで聖女は大いなる力に目覚め、ついに大地の浄化に成功するのだ。

 ゲームとは一般的にそういうものだが、初期設定のヒロインはレベルが低い。

 魔物を一体、人間ならば一人を浄化するだけで精いっぱいという実力だ。

 これを上げるには浄化の数をこなし、大きな敵を討ち、経験値を溜める必要があるのだが……幸いなことに要は、ゲームのヒロインと異なり、既に二度の浄化を経験している。

 サマートル騎士国で魔物襲撃の被害者を治癒した張り手まで計算に入れれば、数えきれない経験値が溜まっているはずだ。つまり、レベルも上がっていなければおかしい。

 ……火山の噴火が起きる前に瘴気を鎮めることも、きっとできるはず。

 揺れが続く中、要もまた立ち上がった。

 窓辺に佇む逸白の表情は見えないので、背中の震えから感情を読み取るしかない。

 己の無力さ、悔しさ、今後国がどうなっていくのかという不安。

 変人扱いをされたのは非常に不本意だが、鬱屈を受け止めてくれたことには感謝している。その上で、ありのままでいいと言ってくれたことにも。

 だから要は、彼の憂いを少しでも取り去るべく、背中を思いきり引っ叩いた。もちろん、散々な暴言への意趣返しも多少込められている。

「……っ、何を、」

「好きなだけ惰眠を貪っていられるよう、私が何とかしてあげるから。あんたはここで大人しく、いい子で待ってなさい」

 さすがに全力はやりすぎだったかもしれない。

 悶絶する逸白に心の中で謝罪しながらも、頼もしい笑顔を浮かべておく。どうせ見えていないだろうが気持ちが肝心。

 扉に向かって歩き出した要を、汀が制止した。

「聖女様、何をなさるおつもりです⁉ お一人で動かれては危のうございます‼」

「汀。私は大丈夫だから、あなたは自分の安全だけを考えて頂戴。――絶対ついて来ないで。これは最初で最後の命令よ」

「聖女様っ……要様‼」

 要が足を止めることはなかった。

 危険なので、ここから先は一人でいい。

 慌ただしく動く人々をしり目に、門を抜け宮廷を出る。武官も全て出払っているため、要をとめ立てする者はいなかった。

 目的地は宮廷の背後にそびえる、霊峰。

 噴火するのはそこだ。





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