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クソゲー世界の聖女になってしまったので、救国の悪女を目指そうと思います!  作者: 浅名ゆうな


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違和感

いつもありがとうございます!

 セントスプリング国は、聖女への信仰心から生まれた宗教国家。

 だから要は、この聖神殿にはユリア教の信者しかいないと思い込んでいた。

 けれど先ほどまで一緒にいたリエナ達にしたって、何らかの事情を抱えているのだ。この国の王族として生まれたチェスターとて、聖女を奉ずるとは限らない。

 聖女崇拝の心がないとなると、要の予想とは裏腹に、攻略難易度は跳ね上がるかもしれない。

 だが、それがどうした。

 要は、分厚い書物を数冊抱えて戻ってきたチェスターを挑むように見つめた。

 やるべきことは変わらない。

 彼の好感度を上限まで上げ、戦争を回避する。

 琥珀色の瞳と視線が交錯すれば、激しく火花が散った気がした。


   ◇ ◆ ◇


 奉仕活動の合間を縫い、チェスターと共に書物を調べはじめて三日。

 数十冊に及ぶ資料を手分けして紐解いた結果、分かったことがある。

 サマートル騎士国に比べれば豊富な蔵書量も、目的に沿った内容でなければ意味がないということ。

 建国に関する記述は確かにあった。

 建国神話とされる、七冊に及ぶ壮大な物語だ。

 叙情的で、美しく装飾された耽美な文調。主語が何なのか迷子になること多数で、なかなか読み終えることができなかった。

 それでも気力で乗り切った要は、死んだ目でこう結論付けるしかなかった。

「時間の、無駄だった……」

 あまりに全てが美化されすぎて参考にならない。

 どのような場面でも、間隙を縫うように褒め称えられるセントスプリング国の国祖。最終的には聖女ユリアと相愛になり、子や孫達と共に末永く国を治めていくという、現実とかなり乖離した顛末が待っていた。歴史の改ざんが大胆すぎる。

「チェスター……間違っても、これがこの国の人達の共通認識じゃないわよね……?」

 要は分厚い書物を閉じると、正面に座るチェスターを恐々と見上げた。

「もちろん。この記述が正しいとすると、王族全員が初代聖女様の血族ということになってしまいますから。神の子を名乗るなどあまりに恐れ多い」

 肩をすくめて返す彼も、少なからず投げやりな気持ちになっているのかもしれない。柔和な笑みがいつもより皮肉げになっている。

「これは、おそらく国祖ご自身が編纂に携わっていたのでしょう。国祖が初代聖女ユリア様をお慕いしていたのは有名ですから。閲覧申請をしないと読めないのも、この処分しようにも手を出しづらい全七巻に及ぶ想いの集大成を、代々持て余してきたからのように思えます」

「まぁ、立派な国祖がこんな怨念の塊を作ってたなんて、さすがに外聞が悪いもんね……神話っていうよりほぼ夢日記だし」

「夢日記とは?」

「妄想をかたちにした創作物みたいなことよ」

「あぁ……」

 チェスターは、納得といった様子で深く頷いた。

 たとえ相容れない相手でも、意見の一致をみることもある。これも新たな発見だった。

 彼は現実的ゆえ、セントスプリング国の国祖が作り出した神話を一切信じていない。

 歴史との相違点を二人で考察するのは、思いのほか楽しい時間だった。

「サマートル騎士国だけでなく、セントスプリング国にも史実に沿った文献がないなんておかしくない? この建国神話はともかく、一般開放してる区画にも建国当初の資料は残ってなかった。歴史の長い国だっていうなら、なおさら違和感があるわ」

 何も文章でなくてもいいのだ。たとえば地球のどこの国だって、壁画や遺跡といったかたちで、歴史を決定づける数多くの手がかりが遺されていた。

 それらがあれば、そして手がかりを調査する研究者さえいれば、建国に関する資料だってどこかにあるはずなのだ。

 けれどチェスターは、そういったものの心当たりすらないらしい。

「歴史的な建造物といえばこの聖神殿ですが、壁画など存在しませんね。大聖堂のステンドグラスは聖女降臨を描いたものといわれているものの、抽象的なものですし……」

「あぁ、あれね。たぶんあれも国祖の夢日記を参考に製作してるんじゃない? 初代聖女の隣に、当たり前に立ってるのが国祖でしょ」

 要も毎日五回の礼拝のおかげで、すっかり覚えてしまった。

 祭壇のある正面に描かれた、周囲の闇を払うかのように光り輝く女性と、その隣に立つ僧服の男性。彼らから離れた場所で逃げ惑う黒い影は、瘴気を擬人化したものだろうか。

「歴史を忠実に再現するなら、四ヶ国の国祖全員が描かれてなきゃ不自然だもんね」

「そういった観点から建国神話を参考にしたと推測するなら、いささか早計ではございませんか? 国同士の折り合いが悪ければ、いる者をいないように見せる修正は起こり得るかと思います」

「一理あるけど、信奉する聖女と人を同格として並べてるってことは、国祖の神話を再現してる根拠になるでしょ?」

「果たしてあれは同格でしょうか。昔から我が国では、左は神聖なるものとされてきました。祈る際に右手より左手を上げているのも尊いものを奉じているからです。従って、左に立っている聖女の方がより高位の者として扱われているかと」

 チェスターは、歴史への造詣が深い。

 要が思い付いたことくらい彼も考えたことがあるようで、いつもあっさり論破されていた。

 悔しいが、要はこの時間が結構好きだ。

 言い負かされてばかりでも歴史について語り合うのは楽しいし、何より斜に構えたチェスターと真っ直ぐ向き合えているような気がするから。

 要はテーブルを指先で軽く叩き、当初の疑問に立ち返ることにした。

「ステンドグラスについては、確かに決めつけだったからあんたに譲るわ。そんなことよりやっぱりおかしい。歴史的なものが大聖堂くらいしか残ってないなんて、私からすると考えられないのよ。誰かが意図的に隠したんじゃない限り、説明がつかない」

 チェスターは眉根を寄せて真剣に受け止めた。

「意図的に歴史を隠した人物がいた……なかなか面白い発想ですね」

「一応すぐ否定されると思ってたから、根拠についても調べてまとめておいたわ。外出禁止だから聖神殿内に限るけど」

 要は、調査結果が書かれた紙を彼に手渡す。

 たとえば、洗濯場にぽつんと存在する巨石。

 衣類を叩き付けられすぎて丸くなっているが、元々は何かが書かれた石碑だったかもしれない。面を平らにした、加工の痕跡が見えるのだ。

 明らかに人の手が加わったものは他にもある。

 待ち合わせに使われている大聖堂脇の謎の丸太や、食堂の壁にある色褪せたまだら模様。広場に円形に並んだ石。聖神殿で信徒として働き回っているからこそ見つけることができた、何気ないもの達。

 どれも日常に埋もれ、華やかさには欠けるけれど、歴史の痕跡かもしれないのだ。

 チェスターは荒唐無稽だと笑うことなく、最後まで読み終えた。

「なるほど、面白い……ここで生まれ育った私では得られない着眼点です」

 馬鹿にされてもおかしくなかったのに。

 認めてもらえたことを素直に喜ぶのも癪で、要は込み上げる笑みを懸命に堪えた。



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