おせんべい
『ひだまり童話館』の『ぱりぱりな話』に参加しています。
「ぱりぱり……ぱりぱり……ぱりぱり……」
ずっと、私は黙っておせんべいを食べている。
「ぱりぱり……ぱりぱり……ぱりぱり……」
結衣ちゃんも黙っておせんべいを食べている。
「……ぱりぱり……ぱりぱり……」
結衣ちゃん家のお母ちゃんが出してくれたおせんべい。そこそこおいしいけど、どちらかと言うと私はポテチの方が好きだ。でも、今はポテチじゃなくておせんべいが目の前にあるから食べている。
「……ぱりぱり……ぱりぱり……」
結衣ちゃんもポテチの方が好きなのは知っている。でも、私と同じようにおせんべいを食べている。
「のどかわくわ……」
結衣ちゃんが麦茶の入ったコップに手をのばした。『ぱりぱり』の音が絶えたら、気まずい沈黙だけが結衣ちゃんの部屋に満ちる。
「うん、のどかわくなぁ」
私も麦茶のコップに手を伸ばす。結衣ちゃん家は秋になっても冬になっても麦茶だ。子どもにジュースやカフェインが良くないと結衣ちゃんのお母ちゃんは考えているからだそうだ。だから、ポテチより油で揚げてないおせんべいなのかもしれない。
「ふふふ……ごめんな」
結衣ちゃんがあやまった。冬に麦茶を出したのをあやまったんじゃない。
「ううん、こっちこそごめんやで」
二人でくすっと笑っておせんべいをぱりぱり食べた。
なんだか前よりもほんのちょっとおいしく感じたけど、やはり私はポテチの方が好きだ。
「なぁ、明日はうちに来ない?」
「ええなぁ」
家のお母ちゃんは食べたい物を食べたら良いって感じなので、ポテチもありだ。結衣ちゃんもよく知っている。
学校でしょうもないことで言い合いになって、気まずくなったけど、前からの約束だったので結衣ちゃん家に遊びに来た。でも、なんとなくあやまりにくくて二人しておせんべいをぱりぱりしていた。
「今度から、どうでもええ事でけんかせんとこなぁ」
「そやな、気まずいの嫌やもん」
二人で食べるおせんべいはそこそこおいしかった。
おしまい