♡1話♡ 現世と縁切りできました!
「神様…初めてお会いできました。いつもお世話になっております…」
土下座状態で挨拶する私を見て、ド派手な花魁のような衣装を着た存在の神様は、おでこに手を置いてため息を吐いた。
モラハラ浮気夫に嫁いでしまった私は婚約届けを提出した初日から、モラハラ・DV・借金・浮気・旦那両親との同居…と。ストレスゲージMAXの必殺技フルコンボを日々繰り出されてきた。
そして、結婚3年目くらいに、旦那の繰り出した鉄拳の打ちどころが悪くて死亡した…らしい。
どうせ死ぬなら、3年も我慢する前に死んでおけば良かったと思わずに居られないのだが、目の前に座る神様は、可哀想な私を見捨てなかった様なのだ。
神様は、職場と駅の間にあった小さな祠の主様で。
通勤中に夫のモラハラとDVが改善するように、日々お供えをした結果。私は今、神様と話ができているとの事だ。
「アタシは縁結びの神なのよ、旦那の改心を求められても無理なんだから!
友人の縁切りの神に頼んで、アナタと旦那の縁は、未来永劫絶対に交わったり掠ったりもしないほどに強烈切れた訳だけどけど、その反動でアナタが死ぬ羽目になるとはねぇ…。」
神様の前で目を覚ます前の記憶が思い出される。無気力だった自分は、今日も早く終われと思いなぐられて居たなと。まさか、自分の人生が終わってしまうとは。
終わったと言えば旦那の人生もだな。妻を殴って死なせるなんてね。
日常的暴力の証拠は自分の肉体に残っていた筈だ。隠そうとしても警察に連絡が行くだろう。
収入も私の給料が無ければ義実家も生活がでず、旦那も浮気相手に金を使えない。
今後は捨てられるだけだろうな。好んで犯罪者と付き合う人も居ないだろうし。
ちょっと面白くなる。自分の中にも恨みがあったのだなと、人間らしい感情をふっと思い出した。
「こっちの失態でもあるし、次の人生は、かな〜り希望に沿う形にしてあげるわよ?
転生者枠が余っててヨカッタわね。連休明けや、長期休暇の後とか、もうみんな死に過ぎて浮遊霊化して大変なのよ〜」
神様曰く、自分を頼っていたが、最悪な結果となってしまった私への救済措置として、神様毎が保有する魂の転生枠を使い、私を速攻で転生できる様にねじ込んで貰えたらしかった。
すごい裏口があったものだ。
神様は、痩身の男神で。派手な色の着物と髪飾りを除けば、キリストの絵画を思い出す風貌だ。
喋り方を含め、かなりオネエっぽいけれど、面倒見の良い神様の様だと感じる。
何か希望はある?と聞かれたので、私は結婚してから常に思っていた気持ちを伝えてみた。
「次の人生では子供を産み育ててみたいです。結婚して1年過ぎても、その…半ば無理やりされてもできなかったので。
不妊治療もしていたんですけれど、義実家と旦那は私に問題があると決めつけて非協力的で。
…それに仕事が忙しいと嘘をついて外で浮気していたんです」
「あーそれね。主に旦那の生殖器に問題があったんだけどさぁ。途中からアタシもアンタのお腹に赤ちゃんを送り出すのをストップさせたのよ。
妊娠して子供ができたりしたら…ねぇ?
DVもモラハラも益々激しくなるだろうし、子供のことを考えると離婚できなかったでしょ?アナタ」
神様は問題発言をぶっ込んで来た。
えーだか、あーだかの、言葉にならない単語を発する私を、頬杖をついて眺める神様。
目を逸らした後は独り言のように、こっちもヤキモキさせられたわよ!と吐き出す。
「希望は?それだけでイイの?」
「…あ、じゃあ…動物を飼いたいです。義実家だと場所はあったんですけど、飼えなかったので」
私がぽつりぽつりと吐き出す要望を、筆ペンの様なものを使い和紙にメモってゆく神様。
「全く…欲がない人の子ねぇ。後はアタシが、ちょちょいとアレンジして良い感じに考えておいてあげるわ!
アナタが言った“子沢山に、楽しく育児“と〜
“一生お金に困らない“は必須でしょーよ。
ああ、“動物と男にもモテまくる人生“だったわね。
“その男達から常に護って貰える“
とまあ、こんなところよね。」
神様は内面が女性的なのだろう。見染められ系少女漫画の様な、イケメンハーレム設定が楽しくなってしまったようだ。
子供はたくさんは必要ないし、旦那を思い出すだろうから男にはもう懲り懲りだ。逃げたい程なのでモテまくっても意味がない気がしたけれど。
せっかく私の事を想い、生き直しの機会を与えてくれた神様に、今伝える必要はないだろう。
私は笑顔で感謝の言葉を伝えた。
バニラアイス単品を注文したら、スペシャルデラックスフルーツパフェ(20人用)が出てきて、乗っている花火に目の前で火がつけられた感じだ。
想像の中の観客はハッピーバースデーを歌ってくれる。
「じゃあ、行ってらっしゃいな。来世はお幸せにね!」
「そういえば、目が覚めたらお誕生日なんですね。行ってきます」
笑顔で見つめあった後、周りの色が薄くなってゆく。
転生後の希望をメモしていた和紙が、光の粒となって世界に溶けようとしていた。
驚いて手を伸ばすと、視野に入った自分の体も光の粒となっており…。
神様に会う前に感じた、自分が死ぬ体験と同様に、フッと呼吸が止まった気がした。
(し…死ぬかと思った…)
さっきまで死んでいた私のセリフとは思えないが。
私は呼吸ができる事になった体で気づいた。自分の転生が完了した事に。
しかし…これはどういう事だろう。
「…ここ…どこ?」
目の前では、ハーフモデルの様な甘さと精悍を絶妙なバランスでブレンドした男性が視界の前に映されている。その人物に視野の大半を占拠されていると言える。
彼は安心した様に微笑んで、身を起こした。
すると私の視界が開ける。
男性は白銀に輝く甲冑をつけていた。表と内側が違う色をしている質の良さそうなマントがアクセントになっている。
男性が声を発すると、魔法使いの様な服装の人物が現れ、会話を聞くに男性が王子だというのが分かった。
王子は魔法使いっぽい人に指示をし、私を預けるとその場を離れた。
周囲からは歓声が上がる。王子が指揮を取ることで、兵士らの気持ちが昂ったようだ。
王子…兵士…魔法使い…?
身を起こして見てみるが自分の周りには、ここはどこで、どこの国だとか判断できるものがまるでなかった。
なんか山っぽい、多分外国。現代ではなさそう。てゆーか魔…?
そんな中、唯一見覚えがある気のする存在が、私の目に留まる。
「もふもふー!」
それは白銀の、とても大きな犬だった。
かなり以前に書こうとしていた物です。
別作品、「妹が可愛すぎて、俺の魂が飛び出る。」の方を更新しようとするたびにこれが出てくるので、気になっていたので投稿してみました。
続きは落ち着いたら…という感じになりますが、次話の更新や今後も出てくるもふもふに興味が湧きましたら、ブクマや評価、応援よろしくお願いします!