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世界樹の下で  作者: 瀬織菫李
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2.前日②

 厨房に入ると現在は昼食の仕込み真っ最中で、料理人が忙しなく行き来している。最も、忙しそうなのは専ら下っ端で、総料理長なんかは面倒臭そうにそれを眺めているだけだ。選民思考のある彼は、王族に料理を提供する立場なのを鼻にかけ他の料理人達を見下しているからだ。時折理不尽な難題をふっかけて困らせ、右往左往させるのを楽しんでいる節がある。


「料理長。今日のお野菜をお持ちしました」


 内心『嫌なやつ』と思いながらも仕方なく声をかける。私が作った野菜達に不備があるなんてあり得ないが、王族に提供する料理には彼が吟味した、という名目が必要らしい。面倒なことこの上ない。下拵えなんて全て他の料理人にやらせている癖に。下手すると味見しかしてないのを私は知っている。


「ふん。そこら辺に置いとけ」


 そこら辺、てホントにそこら辺に置いたら後で怒るくせに。きちんと指示がないので面倒臭いが、 忙しそうな料理人達には申し訳無いけど洗い場を使わせてもらって、野菜達を丁寧に洗い磨く。彼らもいつものことなので何も言わないけど。布で軽く水気を拭いて籠に戻し、冷蔵室へ入れる。いつ見ても凄いよね魔道式冷蔵室。


 魔道式冷蔵室とは、その名の通り魔石に込められた魔道力で動いてる冷蔵庫だ。そう、この世界には魔法があるのだ!


 ……なんて興奮したりして。私も一応使える。全部初級だけだけどね。ただ、複数使える人は滅多に居ないらしいので、水だけ、と言ってるけど。


 冷蔵室ゆえに人の出入りは最小限にしないといけないので急いで出る。日差しが強い間は熱中症の危険があるので夕方までは畑仕事はしない。かといって、私は王族専用畑の農婦なのでメイドや料理人としての仕事は出来ない。つまり、だ。手っ取り早く言うとこの後暇だ。


「今日は何してようかなぁ……」


 下町に出て何か目新しい野菜の苗を探すか、それとも王立図書館でトマトっぽいものがある国が無いか調べるか、それとも教会付きの孤児院に手伝いに行くか……


「え、嘘でしょ!?」


 そんな風にぼんやり考えながら通用門へ歩いていると、ふいに何処からか女の人の驚いた様な声が聞こえた。なんだろ?と野次馬根性でそっと伺うと、洗濯メイドが数人、洗濯物を物干しにかけながらお喋りしているところだった。


「だって、まだ半年だよね?聖女様達がお発ちになったのって」


「うん、半年前よね。それなのにもう帰ってきたって『あっち』では大騒ぎらしいのよ」


 あっち、と城の中央を一人のメイドが指差している。


「じゃあ世界樹はもう大丈夫だってこと?」


「それがね、噂じゃどうやら役目投げ出して帰ってきちゃったらしいの」


「ええっ!?」


 あー。なるほどあの聖女様、結局失敗したのね。まあ、あの様子じゃ確かに無理だったかもねー。にしても、噂って怖いわねぇ。あっという間に広まっちゃうのね。まあ、農婦Aの私には関係ないけど。


 なんてのんびり構えていた私に、この人生二度目の大きな転機が訪れたのはその翌日の事だった。

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