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黒崎京子の後ろに道はできる 2話

作者: 310

クエストアンドブレイズにおいて移動手段は重要である。


何故なら、あまりにも広大なフィールドを探索する際に


疲れて走れなくなっては支障が出る。


ゲームではあるが、走る体力、要するにスタミナは


実際のプレイヤーから算出される。


そのため少数ではあるが、リアルでの体力づくりを重視するプレイヤーもいる。


「京子さんはスタミナで困ったことがあるのですか?」


「ないわね」


即答しながらアイスキャンディーをかじる。


イノは舐めて少しずつ溶けたところから食べていくスタイル。


「無限に空を飛ぶなんてチートじゃないですか?」


「そんなことない。ちゃんと発動時にMPを1消費しているのよ?」


正確には浮く呪文ではあるが、実際に体を動かすこととはまた違う方法で


京子は移動するための力を持つ。


「でもその1だってミリ秒で回復しますよね?」


「するわね」


「消費する意味、、、」


敵意のない化け物に対して


ため息混じりに少年は返す。


「それはそうと、随分と長く走っているはずだけど


イノのスタミナはまだあるのかしら?」


心配ではなく好奇心からの興味を含む


その声と笑みに勘ぐるものは


少しの不快感を覚えるはずだ。


イノにそれは無いが、、、


「んー?そんなに減ってないですよ?


まだ420くらいはありますよ」


「?貴方まだレベル23か4よね?」


「はい!レベル23です。」


このゲーム内ではキャラクター名すらも


他プレイヤーから参照するのは骨を折る。


なので、先程のレベルは


・頭突きでのラストヒットボーナス


・ここ3日でこなしたクエスト


これらを経験則で足し算した結果だ。


「私は専門外だけれど、それでも


23でそのスタミナは異常ね、、、それに」


「それに?なんですか?」


その反応に抱いていた疑問に合点がいったのか


イノが少し自信気に続ける


「スタミナの回復がすっごく早いですか?」


「回復も早いの?普通、行動時は回復しないのよ、スタミナ」


「チートかな?」


「どちらかと言うとバグね」


「バグかぁー」


「そろそろ見つかると思うのだけど、


クエストのエリアには入ったかしら?」


「えぇーと、クエスト、クエスト、、、」


人差し指でクエストメニューを開き、


現在進行中のクエストを確認する。


「あ、もう入ってました」


表示されたウィンドウには簡易的な地図と


赤い円が表示されていた。


「でも、この辺りにブタなんか


居るんですか?めっちゃ草原ですけど」


「この辺りもゲーム開始時は


農地だったのよ。」


「まさかとは思いますがこのエリアのポータルから


ここまでが農地!?」


「正確には村だったんだが、


NPCをポータルに無理やり押し込んでワープさせたり


隕石で村が崩壊したりでこのありさまさ」


一帯はすでにそこに村がった、


人の手が加わっていた土地とは思えないほど


自然に還っていた。


「一定数以上のNPCがいた頃は復元されていたのだけど


いつのころからかまったく建物が建たなくなった」


「じゃあこのクエストをくれたシトラスさんも?」


「あのコも屋根なしどころか寝床もない」


「ホームレス以下NPC」


「でも、家があったころよりも彼女は成長している」


「成長?プレイヤーならまだしも、ゲーム内のキャラがですか?」


「そう、彼女も何度も死んでそのたびに


村の教会からリスポーンしてたんだけど、


見ての通り、ここにそんなものはない」


視界を遮るようなものは林と呼ぶほどでもない程度の


木々の集まり程度。


そこに人工物など想像できない。


「だから死んだあと、二度と死なないようにした」


京子の口角がにやりと上がる。


「死なないように、、、というか、


NPCに手を加えるようなことが出来るんですか?


どんな魔法ですか!」


すると食べ終えたアイスの棒で空を掻く。


小さなウィンドウをイノに見せる。


「なんですかこの文字の羅列は、、、」


「このフィールドのパラメータ


ざっくり言うとゲームの裏側をのぞける窓」


「はぁ、、、?」


ちっともピンと来ていないイノ


「私はこれを見ながらシトラスに複数の魔法をかけて


保護することにしたんだ」


その時、地面から突然の異音


「な、なんですか?地震?」


揺れに似ているが、これは複数の足音


「このあたりかな?」


京子が投げ捨てたアイスの棒は地面に突き刺さる、


と、同時に地が盛り上がりはじめ


何かが飛び出したと思うとそれは天高く飛び上がった豚だった。


巨大ではない。


見た目からは到底それほどの力を感じない豚。


それが空をかけているようにすら見える力のある足の動きを見せる。


それも無数に、吹きあがっている。


イノは言葉を失い尻餅をついていた。


「豚を見るのは初めて?」


「空をこんな風に高く飛ぶ豚は初めてです」


それはよかったと、なぜか満足気な京子をよそ眼に


クエスト専用アイテム「豚網」をカバンから取り出す。


棒に巨大な網がついており、網目が大き目でしっかりとした


ロープでできていた。


「こ、これ、どうやってこれで豚捕まえるんですか?」


「それを考えるのがゲームだろ?」


「そんな意地悪な!」


「アイテムを受け取った時に気付くべきだったね


これでどうやって捕まえるのか?と、


きっとシトラスは親切に教えてくれたさ」


「ぐぬぬ、、、」


NPCは自分の役割に関することは


かなり細部まで知っているケースがある。


このクエストの依頼者シトラスは


一見、おっとりした町娘だったが


依頼の際に渡す豚網についても渡す以上


使い方などを知っていておかしくはなかった。


「とりあえず思うようにやってごらんよ」


自分は関係ないと、小さな手提げから


白い椅子を取り出す。


「やるしかない!」


豚網の棒の部分を持ち振り回す。


「どりゃ!!」


すこんっ


見事な空振り。


ぶんぶんと、勢いよく風を切る音を立てながら振り回すが


ちっとも当たらない。


そもそも動きが早い。


磁石を避ける砂鉄のように豚が棒を極端なよけ方をする。


「ひぃっ!この豚の動きがきもい!」


「早く捕まえないと逃げちゃうよ?」


既に豚たちは地平目指して逃げて初めていた。


それを見て慌ててイノは棒を振るが一向に状況が改善するように感じられない。


「ここまで来てまたクエストを1からやり直すは!」


「急がないといけないけど、


慌てて何かを見落としてないかしら?」


豚の吹きで具合が少し緩くなってきている


ような、気がし始めた。


「確かに豚の数が減っている気がします」


「そう、減っているわね。さっきまで1匹もいなかったのに」


吹き出す前まではちっとも見当たらなかった豚が


今ではたくさんいる。


それは、、、


「そうかっ!」


声と共に力強く豚網を振り下ろす。


するり、するりと豚によけられながらも


網は完全に穴を塞ぐ


そこへ、、、


「ぶー、ぶー」


豚が網に飛び込み、網が収縮し豚を網に閉じ込める。


「捕まえられました!」


「おめでと」


小さい拍手


「へへっ!さあ、帰りましょう!」


と、イノが歩き始める。


が、動けない。


ピクリともまえに進まないのである。


なんで?と、声をあげる前に京子の顔を見て


察するにまだ何かを見落としている。


にたっと、笑む顔にどこか微笑ましい姿を見つめるような


そんな眼差しがあった。


「その豚達は重量が半端じゃないのよ」


豚を指さし空を掻き、ウィンドウを見せる。


「900!?今の僕の持てる量の2.5倍くらいなんですが!」


「だからこのクエストは難易度やレベルが原因で


避けられているのではなく、単にここから進められないんだよ」


「こうなった場合、どうするんですか?」


「その網は諦めて、クエストをリタイアする」


「そこをどうにか、、、」


「ふふ、、、君にちょうど良いものが実はある」


手提げから魔術書のような禍々しいオーラを放つものを取り出すと、


勢い良く留め具が外れてページが開かれる。


「確かこの辺りに封印していたはず、、、」


数ページめくり、目当のものを見つけ


矢を止めた時同様、聞き取れない超高速の詠唱を行う。


「何を始めたんですか、、、」


本越しにイノは少し不安げな顔を見せる。


「プレゼントだよ、プレゼント」


嬉しそうではあるがどこか毒のある声音


それを聞いてさらに不安感が増す。


「普通のプレイヤーじゃ使いこなせないけど


イノのバグを利用すればきっと良い結果を得られる」


「バグ?ってスタミナの事ですか?」


「そう、、、この、腕輪をあげよう」




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