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どちらかと言えば、まとも

元日と言えば半裸で日本海

元日にやりがち

 風車は勢いよく回転し、電線はびょうびょうと音を立てて震えている。冬の海は途切れることなく白波を岸壁に打ちつけている。日本海に面したこの町は、冬場は今日のような吹雪か曇りが続く。

 田中は雪の降り積もった砂浜に車を停めると、向かい風をかき分け海に向かっていった。ここ数日、雪が降り続いているが、降った先から海風で吹き飛ばされるため、積雪は20~30cmほどである。田中は雪の砂浜を慣れた足つきで進んでいく。ずぼずぼと雪に足を突っ込む音も海風にかき消されていく。

 元日の夜の砂浜には、田中以外の姿は見えない。近くの国道を走る自動車のライトと灯台の明かりだけが闇夜を貫いていた。星も見えない夜、田中は波打ち際まで歩を進めると、大きく息を吸った。痛いほど冷え切った空気が鼻腔を通り肺に満たされた。田中はふぅと一息吐くと、荒れる日本海へとゆっくりと前進し始めた。

 田中は昨年9月に職を失い、実家に帰ってきた。しかし、両親はすでになく、実家には兄夫婦が暮らしていた。すぐに次の仕事を見つけて出て行く、と無理を言って居候していたのであるが、3ヶ月たった今でも職は見つかっていなかった。就職活動に失敗するたびに、田中は自分が全否定されたように考えてしまった。そうして3ヶ月間の失敗の連続が田中から自信を根こそぎ奪っていってしまった。田中は、自分には何も無い、無力な人間だと考えるようになり、兄夫婦に迷惑をかけないように消えてしまわなければと妄執するようになったのである。

 そのようなありきたりな事情から田中は、冬の日本海に足を踏み入れたのであった。田中は、ざぶざぶと海水に足を浸して進んでいく。少し進んだところで、ブーツの上から海水が入り込んできた。車の暖房で暖められたブーツの中に極寒の海水が流入したことで田中は思わず叫んでしまった。

「ひゃっこい! なにこれ、死んじゃうくらいひゃっこい!」

そう叫んだ後、田中はなんだか楽しい気分になってしまった。先ほどまでしようとしていた行為と、自分の言動の不一致が妙に面白く感じたのである。

「馬鹿馬鹿しい。」

 そういうと、田中は砂浜に戻った。そうして時折、ライトに照らされて輝く銀色の雪原を全力で走り始めた。降り積もった雪に足をとられ、転びそうになりながら全力で走った。たいしたスピードでは無かったが、田中は久しぶりの全力疾走に心地よさを感じていた。ものの十秒ほどで息が上がり、体中が火照ってきた。

「邪魔、邪魔、全部邪魔。」

 田中は走りながら上着を浜に脱ぎ捨てていき、最後には半裸になってしまった。

「ひゃっこい! ひゃっこい!」

 田中は大笑いしながら、半裸で走りまわり、時に雪に飛び込み、全身で元日の夜を満喫した。

 そうして、一人で大騒ぎした後、砂浜に投げ捨てた上着を抱えて自動車に戻ろうとしたところで、田中の目の前が急に明るくなり、優しい声がかけられた。

「こんな時間に、こんな場所で、裸で何をなさっているんですか。ちょっとお話を伺わせてもらいますね。」

 有無を言わさぬ断言であった。田中は白と黒のツートンカラーの車に押し込まれると、そのままどこかに連れ去られてしまったのであった。その後の田中の行方を知るものは少ない。

じゃまって漢字で書くと邪悪な感じがすごくて素敵

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