ハゲばかりな異世界で俺は君と。
なろうラジオ大賞用小説第六弾。
見た目五歳の少年な神の導きで、私は彼氏の孝教と異世界に来ていた。
その神が言うには、この世界には孝教にしか救えない人達がいるらしい。
どういう事かと思いつつ、孝教の付き添いで来た私は絶句した。
その世界は昔の中国風の街並みで、東洋系の着物に身を包んだ、これまた東洋系の顔立ちの人達が暮らしている世界だけど……問題はその頭部。
なんと行き交う人全員……老若男女問わずハゲていた。
しかもそのハゲてる方々は、まるで生きる希望がないかのように、光が消えた上に焦点が合ってない空虚な目を足元に向け、暗い顔をしながら「明日もない希望もない髪もない」と呟いていた。
まさかみんな、髪がないだけでここまで暗くなってしまったの?
いやそれ以前に、まさか孝教にしか救えない人達ってこの人達?
「でも何をどうしたら、孝教にこの人達を救えるの?」
まさかハゲている原因を突き止めて解決しろとか……そんな、冒険者っぽい事をせよと?
「あー、なるほど。俺……なんとなくやるべき事が分かった気がする」
しかし私の疑問をよそに、孝教は一人で納得した。
「え? 孝教、いったいどゆ事?」
「沙良、俺は君に言ってなかった事がある」
私の問いに、孝教は答えなかった。
そして答えない代わりに、彼は自慢の、漫画やアニメの主人公の如きツンツン頭に手をかけ、
その髪を――外した。
私は絶句した。
持ち上げたツンツン頭の下が、坊主頭だったから。
「沙良、君と初めて会ったオタクの祭典を覚えてるか?」
私と孝教は、いわゆるオタクであり、故に私達はそういう祭典で出会った。
「俺はその時から坊主頭にしてた。なぜなら、自分の髪の毛を弄る勇気がなかったし、暑かったからだ」
衝撃の告白だ。
だけど私は、同時に納得もした。
なぜならば、当時彼がコスプレしてたキャラの髪型は……鏡で確認しながら再現できるような、簡単な形をしていなかったからだ。
「そして今、俺は神からこの世界の事を念話で聞いた。みんな、頭のハゲた悪神に嫉妬され、呪いをかけられハゲてるらしい。そしてこの世界で俺がやるべき事は、ハゲには利点がある、それは地毛が邪魔せずに、ヅラによって簡単に様々な髪型になれる事だとみんなに教える事だそうだ。だから沙良」
そして彼は……私の手を取り言った。
「俺と一緒に、この世界で『カーツラ教』を作ろう!」
なんて髪も仏もしょうもない異世界系だ。
だけど異世界の危機には違いないと思ったので、私は協力する事にした。
当初はヒロインが、実は坊主頭だという設定にしてましたが、さすがにいろいろ言われそうなので男主人公の方が坊主頭という設定に変えました。