3.人間になっても平和じゃない
3話目です。
ここからミルシアとしての人生が始まります。
貴方様が勇者を殺すところを見たくなかった。確かにその言葉に間違いはない。
しかしその言葉の裏にはドラマティックな理由もなく、ミスティアの死に急いだ行動だったということだ。恐怖で思考が鈍っていたとはいえ、残念すぎるだろうミスティア。
確かに魔王様の言葉の真意はよくわからないが、ただ単に勇者の死に際を見とけというだけだったかもしれないし、その後の自分の行動で恩情を受けることもあったかもしれないのに…。
まあ、過ぎた事を悔やんでも仕方ない!あの時死んだおかげだろうか、今世では人間として生まれ落ちることができた!
これであの美貌があれば残念なミスティアでも楽々人生をおくれるのでは?!とおもったのだが、ところがどっこい今世の私はその美貌を取り上げられてザ・ちょっと残念な凡人になりましたとさ!
あの美貌を取り上げられたのは惜しくもあるが、これはこれで悪くないと思ってる。見た目との差異がないおかげで生きやすいし、前世みたいに外面を気にせずにのびのびと暮らせている。家族仲も良好で友達も多くはないがちゃんといる。
そんな私の今世での名前は、ミルシア。すくすくと育ち、前世から数千年以上経ち随分と様変わりしたこの地に栄えたイシュテルジ王国の王立学校に通っている。
驚いたことに人間は大地を同種族で分け合い、国というものを作り上げたらしい。そしてこれが1番の衝撃だったのだが、魔族はミスティア達が生きた時代で滅びたらしい。
あの強かった魔王様がいたのに滅びた?といささか信じられないことだが、今世で魔族と人間が戦いをしていたという話はおとぎ話のように語り継がれている。
では戦いのない平和な世の中になったのかというと、そうはならなかったらしい。大地を分けた人間たちはその土地を栄えさせるだけではなく、すきあらば他国の土地をも得ようと人間同士で争うようになったのだ。
そしてその戦力や国の発展のために、イシュテルジ国の年頃の少年少女達は身分立場問わず親元を離れ王立学校にて学びを受けなければならない。なんということだ魔族がいないならちょっと複雑だけど、それはそれで平和に過ごせると思ったのに。
「ミルシアー!そろそろ出ないと遅刻するわよ!」
「あ!まってアズちゃん!ボタンをかけ間違えてた!」
ぐだぐだ考えながら着替えていたからか、手元には余ってしまった可哀想なボタンがある。
「何回その間違いをするのよ、いい加減にしっかりしなさい。」
「はーい。」
平和ではない世の中だけど、このつかの間の平穏が私は大好きだ。