2.ロマンティックなんてくそくらえ
2話目です。
以降ストックある分は時間指定投稿する予定です。
まずは前世の私について振り返ろう。
前世の私『ミスティア』は、魔族の生まれだった。
魔族といっても獣の姿とか異形とかではなく人型。自分でいうのもなんだが、ミスティアは本当にびっくりするぐらい美しかった。
しかし神はそんな美人すぎるミスティアに二物を与えなかった。(そもそも魔族に神は関係しているのかという疑問もあるが。)
ミスティアは魔族としては、かなり欠けているものがあった。
まずは魔力。あの容姿で魔力が高かったらもう無敵であるが、残念なことに魔族としては中の下ぐらい。
次に運。アンラッキーガールかと問われればそこまでではなかったが、よく貧乏くじを引いていたように思う。
そしてこれが1番大事、内面!痛いことが嫌いで、できれば戦いたくないという魔族にあるまじき平和主義。苦手なものは血で、好きなものは道端に咲いている雑草みたいな花。
口を開けばその美人な外面には似合わぬアンポンタンさ。寝ることも食べることも好きで、何もなければ日がな一日ダラダラ過ごしたいという怠け者。ミスティアの親には、あんたは本当に魔族なのか?と疑われる始末。
誇り高い魔族の一員としてそんな平和ボケした言動は許されず、お前は顔だけはいいのだから外ではあまり口を開かず残念な部分は出さずにおとなしくしていろと命じられた。
その甲斐あってか、実力はなかったがその美貌でそれなりの地位まで担ぎ上げられた。魔王城に出入りできるぐらいだったので、結構な出世だったと思う。
しかし実力もないくせにのし上がってしまったせいなのかやっかみを受け、なんと勇者一行へのスパイとして送り出されてしまったのだ。
最初は人間怖い、勇者怖い、とガクガクブルブルしていたのだが、これがどうしたことが思いのほか居心地が良かった。
勇者一行ということで戦いはあるものの、人間は魔族みたいに殺伐としていなくて優しい人も多いし、食べ物も美味しい。
バレてすぐに殺されると思っていたが、みんな優しかった。なんといっても勇者が本当によく出来た人間で、弱きを助け強きをくじく、まさにみんなの憧れの正義の味方だった。
そして勇者は神から二物を与えられたのか、とても強かったし、顔も良かった。ミスティアは自分の顔だけには自信があったが、いざ強くて性格も良くて顔もいい勇者の前だと霞むと思ったほどだ。
それでは魔王様は?と言われると、確かにあのお方もこの世のものとは思えない美貌の持ち主だった。もちろん強さは魔族を統べる者に相応しかったのだが、性格面についてはミスティアと同じく言葉が少なかったので正直わからなかったというか、あまりにも恐れ多すぎて推し量ることができなかった。
話を戻そう。そんな完璧超人の勇者一行と共に人間社会でのほほんと暮らしていたら、ミスティアの弱いオツムは自分がスパイだという事をすっかり忘れてしまったらしい。
いよいよ魔王様の玉座にたどり着いたところで、魔王様に呼びかけられやっと自分の役目を思い出した。勇者は信じられないという目でミスティアを見た。うん、ミスティア自身もすごくびっくりしていた。
このまま人間社会で悠々自適に暮らしたいと思ったが、魔族とバレて今まで通りともいかないだろうし、何よりも魔王様に逆らうのがもっのすごく怖かった。もう冷や汗が止まらなくて、心の中では「ヤバイ」の連発。
さっきまで能天気に勇者一行に混ざっていたからか魔王様からの視線は厳しく、これこの戦いが終わったら役立たずと言われて殺されてしまうのでは?とすら思った。
下僕にでも犬にでもなりますから命だけはご勘弁を!と念じながら魔王様の元へと戻るとその思いが伝わったのか、その厳しい視線を緩めてくださった。
一安心したのもつかの間、勇者からの攻撃により世界の平和をかけた戦いのゴングが鳴り響いた。
もう、ミスティアはちびりそうだった。あんなに優しかった勇者が殺気を放ちながら魔王様に攻撃しているのも、同じく殺気を放ちながら勇者の攻撃を倍にして返している魔王様もどちらも怖かった。
両者ともに一歩も引かない様子だったが戦いにおいて魔王様の方が上手だったらしく、いよいよ勇者は膝をついてしまった。
そして勇者に向けてとどめの一撃を放とうとした時、魔王様はミスティアを見てこう言い放った。
「この男の死ぬ姿をしっかりと見ていろ。」
その言葉にミスティアは慄いた。
魔王様は許してくれてなんていなかった!「勇者を殺したら次はお前も同じ目にあうんだからしっかり見てろよ。」と宣告されたも同然だ。いやだ見たくない!死ぬのも嫌だけど、他人の痛いところを見せられて自分の時を想像しなくてはいけないなんて嫌すぎる!
ならばせめてひと思いにサクッといきたいと考えてしまったからか、ミスティアはいつの間にか勇者に放たれたその一撃をその身に受けていたのだった。