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勇者召喚&技能奪取

 ある大陸の南部に位置する“神聖カエラーム教国”。

 この国は“神聖魔法”を使いこなすことができる聖職者を数多く輩出していることで知られている。


 神聖魔法とは、神の力を借りる神秘の術である。神の奇跡を起こすことで、あらゆる事象を成すことができるという万能さを売りとしている。

 その力を行使できるのは神に愛されし者のみ。神の愛を受ける者を多数擁しているために、カエラーム教国は“神に祝福されし国”と、他国から畏敬の念を込めて呼ばれている。



 そんな霊験あらたかな教国に、“神の化身”、“新しい女神”と呼ばれている偉大な聖女がいる。

 彼女の名はエリル。人類史上最高と評される稀代の神聖魔法の使い手である。


 彼女は今、自分のために建てられた神殿の一室で、ひたすらに奇跡の力を振るい続けている。

 身にまとう純白の聖衣は乱れ切っている。流れるような金色の長髪は、手入れを怠っているのか荒れ放題だ。

 端麗なその顔は苛立ちに歪んでいて、根深い疲れが張り付いていることも加わって殺気じみた迫力をさらしているという、やさぐれ度全開の危ない雰囲気を振りまいていた。

 だいたいの人間が彼女とお近づきになることを敬遠するだろう。


「至高神フォリウムよ! 神聖なる力の担い手を我が前に導きたまえっ!」


 やけっぱち度全開、吐き捨てるような詠唱によって、最高クラスの神聖魔法を発動する。

 神聖魔法“勇者召喚”。世界を破壊する者を討つ力を持つ超越者を喚ぶための奇跡である。

 本来この魔法は、並み以上の力を持つ聖職者数百人がかりでなければ発動しないのだが、エリルの力ならば一人でも余裕だった。


 エリルが手を振るった先の地面に光り輝く魔法陣が描かれて、まばゆい閃光が放たれた。

 強烈な光に眼窩を貫かれる前に、エリルはぎゅっと目を閉じる。


 視界を塗りつぶす神秘の光はすぐに過ぎ去る。エリルはゆっくりと目を開けると、魔法陣があった場所に一人の人間が現れたことを確認した。


 その人間は、浅黒い肌の筋骨たくましい男だった。どこかの未開の地の蛮族なのか、パンツ一丁で装備品は兜とグローブだけという変態スタイルである。

 エリルは男の反応を待つことなく、すかさず新たな神聖魔法“能力目視”を唱える。


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名前:トニー・S・ゲイジ

職業:プロボクサー(ヘビー級)

技能:神の拳

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 奇跡の力によって男の能力を簡単に確認すると、続いて神聖魔法“技能奪取”を唱える。

 男の胸から飛び出してきた光がエリルに吸い込まれると、技能“神の拳”は彼女へと移動した。


「至高神フォリウムよ! 偉大なる勇者にねぎらいを! 祝福とともにあるべき地へと還したまえ!」


 そして速攻で送還魔法を唱えて、彼を元の場所へと送り返した。

 召喚開始からここまでにかかった時間はわずか十秒。被召喚者に反応の暇すら与えない、見事な早業だった。


「至高神フォリウムよ! 神聖なる力の担い手を我が前に導きたまえっ!」


 エリルは間を置くことなく、召喚魔法の詠唱を早口で行って次の勇者を召喚する。

 再び強烈な閃光が通り過ぎると、先ほどとは違う人間が彼女の前に現れた。

 そいつは剣呑かつ濃ゆい目つきの壮年男性だ。まとっている衣服は薄汚れていてみすぼらしく、口元を色あせた布で覆い隠しているのも相まって、まるで盗賊のような雰囲気である。


 彼の行動は早い。混乱した様子でわめき散らしながら、手に持っていた得物をエリルに向ける。

 その得物が持つ筒の先から、軽い炸裂音とともに無数のつぶてが超高速で放たれるが、それらは神聖魔法による防御壁によってあっさりと弾かれた。

 敵対的な者が召喚された場合の対策は万全なのだ。


 エリルは狼狽している男を無視して、さっさと神聖魔法で男の能力を確認する。


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名前:ハシム・イドリース

職業:テロリスト

技能:神の狂気 不屈の意志

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 すべての技能を回収したあと、速やかにお還りいただいた。


「ハア……至高神フォリウムよっ!」


 エリルは間髪入れず再詠唱を行って、また別の勇者を召喚する。

 次に現れたのは、背広姿の小柄な中年男性だった。


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名前:李 朋

職業:不動産コンサルタント

技能:神の魅力

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 もう持っている技能だったので即送還。次。


 エリルは無尽蔵の体力を駆使して神の力を引き出し続ける。次々と勇者を召喚しては、その力を自らのものにしていく。

 これまでに少なくとも千人以上の勇者から能力を獲ってきたのだが、まだ足りない。もっとも重要なものを獲れていない。この程度の力では、目的を遂げることはできないのだ。

 エリルはある方向を睨むと、ぎりりと憎々しげに奥歯を鳴らした。

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