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 翌日。

 フィリアは一晩掛けて作った薬を持ち、ヒーとウッドストックの引っ張る馬車に乗り戻って来た。

 よほど頑張ったのだろう、欠伸を連発している。


「では、グリードガーデンの繁栄と平和のため、トーンへと出発します!」


 荷台に立ち、見張りに残る騎士団にリリアは声を掛ける。それを受け、騎士団はまるでパレードのように剣を掲げ見送る。

 日が昇ると声が出せない彼らは、必死に盛り上げようと剣や盾で音を出していて、本当に良い奴らだ。


 護衛には、唯一人の形をしているジョニーが付き、俺達はウッドストックの引っ張る荷台に揺られながらトーンを目指す。


 今日も天気は良く、青空が広がり、小鳥達が俺達に付いてくるようにピッピッと鳴いている平原を馬車は進む。

 風も気持ち良く、草木の香りを運んできて、遠くにある森の奥にはキラキラ輝く海が見え、平和そのものだった。ただそれは、荷台の上で、これから暗殺にでも行くようなオーラを出しているジョニーさえいなければの話だ。


 仕事熱心なジョニーは兜を被り、禍々しいオーラを上げながら護衛をし、荷台ではフィリアが仮眠を取り、リリアがそれを邪魔しないように俺が相手をする。


「ドキドキしますね。私達は今、使者なのですよ!」


 お前は王だろ? と思いながらも、遠足を楽しむようなリリアを見て、少しでも上手く行けば良いなと優しい気持ちになった。


 そんな平和な俺達はジョニーのお陰か、モンスターに出くわす事も無く、無事トーンに辿り着く事が出来た。


 村の入り口にウッドストックとジョニーを残し、俺達は早速貿易の交渉へ向かう。 


 村に入ると、緑の多い畑に、木造の民家が並ぶ町の奥に、広い海が広がっていた。


「は~ぁ」


 ヒーがその景色を見て、珍しく声を零した。


「綺麗な村ですね?」

「えぇ。とても良い村です」


 敬語で話す同じ背格好の姉妹の後姿は、とても微笑ましい。


「リリア様、先ずはどうしましょうか?」


 優しいフィリアは、ここでもリリアの考えを優先させる。


「そうですね~…………」


 すぐに村長の家へでも向かえばいいのだが、人見知りをするリリアには結構な覚悟がいるようで、なかなか結論を出さない。

 そんなリリアを手助けするように、ヒーが言う。


「村長を探しましょう。交渉は私がします」


 まさかのヒーの発言にリリアは驚いたようで、えっ! という顔をしたが、姉としての意地があるのだろう、それに反発するように返す。


「そうですね。しかし交渉は私がします!」


 王としての自覚があるリリアは、自ら交渉するとまで言えるほど成長していて、良い影響を与えているようだ。今回の遊びも悪くはないのだろう。


 さっそく予定が決まった俺達は、村長の家を探すため、人がいそうな村の中心を目指し歩き出した。


 漁場があるといえど、それだけでは生活は苦しいのか、村には畑も多く、家畜を飼う家まである。

 村の中心には小さな市場があり、魚や野菜、肉や果物などの食材のほかに、衣服や調理道具などの金物を扱う店まであり、小さな村にしてはとても活力のある事に驚いた。


 俺達はそこで村長の家を尋ね、少し立派な家に住む村長宅を訪れた。


「さぁリリア様。グリードガーデンの歴史に刻む交渉です。どうか、ノックをお願いします」


 ノックを躊躇うリリアに、背中を押すようにフィリアは優しく声を掛ける。


「では、行きますよ」


 村長の家の扉をノックするのは、そんなに仰々しい事なのだろうか? それでもリリアにとっては、心臓バクバクだろう。


 コンコンとノックするが、弱弱しい頼りないノックでは住人は気付かず、一度フッーと息を吐いたリリアは、もう一度ハッキリしたノックをした。

 すると中から女性の声が聞こえ、扉が開いた。


「どちら様ですか?」


 出てきたのは二十代くらいの大人の女性で、かなり若い。


「あっ、あの~。そっ、村長に会いたいのですが……い、いますか?」


 おどおどするリリアを見て、手を差し伸べたくなったが、これも王の務め。しっかりと妹の成長を見守ってやらねばならない。

 それは皆も同じのようで、出来るだけ手助けをしないよう、一歩後ろで成り行きを見守った。


「お名前はなんと言うんですか?」

「あっ、リッ、リリアです。リリア・ブレハートと申します……」


 名前を聞かれハッとして答えるリリアは、すぐにでも手助けしてあげたくなる。しかしフィリアは駄目ですよと言わんばかりに俺達を見て首を振る。意外とスパルタな姉だ。


「リリアさん? ……ちょっと待ってて下さい、今呼んできます。……おじいちゃん!」


 女性は扉を開けたまま家の中に叫び、奥へ消えて行き、しばらくすると戻ってきて、俺達を中へ招き入れてくれた。


 家の中に入ると、リビングのソファーに座り待つよう言われるが、他人の家の匂いというのはどうも落ち着かない。

 言われるままソファーに座ると、寛ぐ間もなく村長が現れ、その姿が見えるとフィリアは立ち上がりお辞儀した。それを見て俺達もすぐに真似、立ち上がりお辞儀をする。全然落ち着かない。

 そして村長の「どうぞお掛け下さい」の声で再びソファーに腰を下ろした。


 腰を下ろすと、最初に声を出したのはフィリアだった。


「私はフィリア・レオンハートと申します。本日は突然の訪問にも関わらず面会頂き、誠にありがとう御座います」


 王都に買い物に出掛ける事もあるさすがのフィリアは、社交辞令を心得ているようで助かった。

 最初に話しやすい切っ掛けを作り、リリアを楽にしてあげようと思っているのだろう。


「ご丁寧な挨拶ありがとう。私は村長のゴードンと言います。よろしく」


 握手を求める仕草はなく、俺達はそれぞれの言葉で同時に挨拶、会釈した。


「それで、今日はどのようなご用件で来られたのかな?」


 ここからはリリアの番だと、フィリアはリリアに耳打ちした。

 それを聞いたリリアは、意を決したように口を開いた。


「じっ、実はですね。今日はこの村で薬を取り扱って頂きたく、お、お願いに来ました」


 少し顔を赤らめて言うリリアは、王として本当に立派に育った。


「薬ですか? どのようなものですか?」

「こちらのいくつかの薬です」


 フィリアは敏腕営業マンのように薬の瓶を机に並べ、そのうちの一つを村長に手渡した。


「これらは私が作った薬です。私はカミラルにある黒の手という魔法雑貨店で、こちらの薬を販売させて頂いています。薬の種類は、こちらが風邪薬、こちらの緑の瓶が傷薬、こちらの黄色い瓶は腹痛止めの薬、こちらは腹下りを止める薬、そして今村長様がお手に持っておられるのが、精力剤となっております。ほかにも作ることが出来ますが、今はこれだけです。私はプリーストを生業としておりまして、これらの薬が効果のあるものだと保証します」


 よくもまぁこんなにもスラスラ言葉が出てくるもんだ。だけどこれって、完全に黒の手の営業ではないのだろうか?


 村長は一つ一つ薬を持ち確認し、瓶を置いた。


「なるほど、分かりました。ただ、これがどれほど効果のあるものかは私には分からんから、村にいるカラガという婆さんに聞いて、それがよければ市場での販売を認めよう。それでいいかね?」


 村長の言葉を聞いてフィリアは、再びリリアに耳打ちをした。

 リリアは考える間もなく即答する。


「お願いします!」


 貿易とは少し違うが、十分な成果を上げられそうだ。


「ただし、売値は婆さんが言う値にしておくれよ」

「はい。問題はありません」


 フィリアはその条件を認めた。しかしこれでは、ただの黒の手の出張販売に過ぎないのでは? と思ったが、これだけ頑張ったリリアに免じて、それは言わないでおこう。


 そのあと村長にカラガという婆さんの家を教えられ、俺達は向かった。

 婆さんはこの村では医者のような存在で、独自の方法で村人の治療をしているらしく、フィリアの薬を見せると快諾してくれた。

 しかし一度使ってみるまでは分からないと、その薬を全部安く買い取られ、そこで信用を得ればこの先も村で買い取ると言われ。、その事にリリアは残念そうにしていた。だが最初はこんなものだと、営業マンのようなことを言うフィリアに諭され、納得したようだった。


 それでも多少の国費が増え、トーンとの交流関係を作ることが出来た俺達は、それを誇りとして帰る事になるはずだったが、フィリアの一番の目的のセイレーンへの口聞きの当てを探し、もうしばらくトーンに留まる事になった。



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