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 あれから五日が経ち、それぞれの砦での生活基準も出来てきた。

 ヒーは店の営業があるためウッドストックと帰り、シェリーを使って連絡があるまで砦には来ない。


 シェリーは代々リリア達の家に仕える使い魔で、ヒーとリリアは呼び出すことができる。


 フィリアは砦の外でもうろつけるようになった騎士団の護衛を付け、泊まったり泊まらなかったりと行き来しており、生活に必要な物や食材などを運んでくれている。


 リリアは責任感なのか意地なのか、頑として帰らず、毎日俺やフィリアの布団に潜り込んできては寂しさに耐えている。


 俺に関しては、一度荷物を取りに戻ったきり、ずっと屋根の無い城で寝泊りしていた。


 城の片付けは、ヒーが持ってきてくれた女の子の人形に騎士団が入り手伝ってくれたため大分片付き、暖炉や調理釜を使えるようになっていた。だが、国としては未だに城の片付けしか出来ていない状態だった。

 それでも騎士団とはかなり仲良くなり、それぞれの顔と名前を覚えるまでになった。


 パープル騎士団副団長のアントノフ。前衛担当のルベルトとコーラン。中衛援護のオッドとアンソニー。そして後方支援のキリア。


 ジョニー意外は昼間は骸骨姿だが、夜になると人の形を纏い、会話も出来た。

 皆気さくで話しやすく、とてもアンデッドには見えないが、食事も睡眠も必要なく、昼夜問わずずっと見張りを続けている。そのお陰で俺たちは安心して生活ができていた。


 三日ほど前からはムキムキマンを操作するため中に入り練習していたが、あの独特の形ではかなり難しいらしく、リリアが新たな操作用の魔方陣を作成中で、それが上手くいけば強力な戦力となり、より強固な守りを作れると張り切っていた。


 ほかにも雑草を刈ったり、女の子の人形に入り、非力ながら自分たちのできる範囲で頑張ってくれている。

 騎士団との信頼関係は徐々に構築されつつあり、砦内の雰囲気はとても良い。


 しかし五日目にして課題が徐々に浮き彫りになってきた。その一つが食糧難だ。

 現在はヒーやフィリアが運んでくる食料で生活できるが、自給自足をするには何一つ出来ていない。

 そのうえ財政的にも苦しく、今はほぼ遊びに近い俺達には僅かな余力しかなく、そのうち食料を仕入れる事が出来なくなる状況になっていた。


 それを含め、今後の政策についての話し合いが行われる事になった。


「それでは第十五? ……十六? ……とにかく会議を始めます!」


 適当過ぎる王には、書記官が必要だとこの頃感じる。


「では先ず、今日の議題です! それは食べ物の確保です! これについて何か良い策はありますか?」

「はい!」


 フィリアが手を上げた。

 今や我が国の政策担当大臣はフィリアだ。


「はいどうぞ!」


 何故か王は手を上げ意見を述べたい者が出ると、喜んで指名する。


「はい。私の考えでは、先ず畑を作り、自給自足を目指すのが一番だと思います」


 それは俺も思っていた。しかし王は城を早く綺麗に片付けたいらしく、ほぼ全ての労力をそれにつぎ込んでいた。

 そのお陰で洗濯物を干す場所や快適な寝床はできたが、今の今になって食糧難にお気づきになられた。


「なるほど。では敷地内の一角に畑を作り、何か育てましょ! しかしそれが育つまでの間はどうしましょうか? これ以上少ない国費を減らすわけにはいきません」


 トイレの芳香剤や、無駄に高いシャンプーに金をつぎ込んでいた王がよく言う。


「では、貿易などを始めてみてはどうですか?」


 フィリアは無駄にらしい言葉を使う。しかし王はそれらしい言葉を聞くと、目を輝かせる。


「貿易ですか! とうとうこの国もそこまで来ましたか!」


 貿易云々より、それに費やす労力も自国で生産する物も無い。


「して、何を貿易品として扱いますか?」

「はい。この辺りには質の良い薬草が多く自生しています。それを使って私が傷薬や風邪薬を作り、それを貿易品として取引するのはどうでしょうか?」

「それは素晴らしい考えです! さすがはフィリア!」


 それはフィリアが、いつも黒い手でやってる事と同じだ。


「でも、何処と取引すんだ?」

「おっとリーパー委員、それは愚問ですよ。フィリア大臣が考えていないとでも? ですよね、フィリア?」


 王はフィリア大臣を高く評価しておられるようで、チッチッチッと舌を鳴らしながら指を左右に振っておられる。……っていうか俺、委員に戻ってるんですけど?


「はい。ここから……いえ、我が国土より南にあるトーンという漁村ではどうかと思います」

「なるほど。それは良い考えです!」


 わざわざ言い直してまで国会を演出し、リリアを喜ばすフィリアに、優しさを感じた。


「トーンでしたら、他の町との交流もほとんどないと思われるので、喜んで受け入れてくれると思いますよ?」


 トーンは孤立した村で、地図で確認する限りカミラル村が一番近い。

 しかしトーンへ行くのには、モンスターが生息する平原を通らなければならないため、カミラルの村人でさえ行く事はなく、たまに来る行商人からしか話を聞いたことが無い秘境村だ。

 話によれば百人ほどの人間とドワーフが共存しており、海で漁をして生活しているらしい。


「それに上手くいけば、セイレーンと口聞きをして貰えるかもしれません。そうすれば、グリードガーデンでも漁をして生活が出来ます」


 海にはセイレーンという人魚の種族が暮らしており、支配している。

 彼らは陸上の種族を嫌い、海に入る者を歌で操り引きずり込む。そのためセフィロトでは海を渡ったり漁をするには、セイレーン王と同盟を結んだ国しか出来ない。 


 グリードガーデンのすぐ裏には海岸があり、それが叶えば、岩場でカニや小さな魚を捕まえて食料が確保できる。しかしその海岸には、朽ちた海賊船を住処にする十五匹ほどのゴブリンの一団がいて、仮に海が使えても、それを解決する必要があった。


「それは夢のある話ですね。もしそうなれば、塩を作って売る事もできますね? そうすればあっという間に全てが解決します!」


 リリアは意外と頭が良いようで、塩を作り売るという眉唾物の提案をした。

 塩はとても高価で、王都などで売ればかなりの儲けを産める。


「さすがはリリア様! それには気付きませんでした! ぜひ塩、トーンとの貿易を始めましょう!」


 お金大好きフィリアは、国の為なのか自分の為なのかは分からないが〝塩〟という言葉に過剰に反応した。


「では早速薬を作る準備を始めましょう! 素材の調達には騎士団に護衛をお願いしましょう!」


 気の早い二人は、閉会宣言もせず飛び出そうとしている。 

 

「待て待て待て。貿易なんてそう簡単にできるのか? それに失敗したときの策も考えないと、また困るぞ?」

「その心配は無用です! これがあります!」


 リリアは銀色のペンダントを胸元から出し、俺に見せた。


「それって、ジョニー達を止めたペンダントか?」

「そうです! リーパーにはこれが何だか分かりますか?」


 ぶら下がるペンダントには、どこかの国の紋章のようなものが見えた。


「どっかの国の、紋章のレプリカだろ?」


 リリアとフィリアは顔を見合わせ、この人は分かってないなという仕草を見せた。


「これは本物のアーロ王族の家紋です。これを見つけたときから、私はこの城を手に入れ、国を建ち上げる事を考えました」

「それ本物なのか? どこで手に入れた?」

「行商人が持っていました。それを私は値切りに値切って手に入れたのですよ!」


 何の自慢なのか、とても誇らしげに胸を張りリリアは言った。

 それを見ていたフィリアは、「おお!」と声を上げ賛美した。


「本当に本物なのか?」

「それはジョニー達を見れば一目瞭然でしょう。彼らが本物と認めたから、今の私達があるのですから」


 確かにそうだ。見せただけでリリアの言葉を信じ、砦を明け渡すぐらいだ。本物かどうかより、本物としての価値はあるのだろう。


「それいくらで買った?」

「八千ゴールドです!」

「八千⁉ それ八千もするのか⁉」

「えぇ。元は二万です」


 それはそれで凄いが、値切ったことを自慢し胸を張るリリアと、それを再び賛美するフィリアは、アホだ。

 というか、それを売ればすぐにでも財政難は解決するのでは?


「でも、それがなんで貿易が成功する理由になるんだ?」


 やれやれと首を横に振り、分かってないなと言いた気なリリアは、その理由を教えてくれた。


「トーンは、アーロ王がセイレーンと同盟を結び開拓した村です。つまり、この紋章があれば、無下に断る事は出来ないはずです!」

「それは昔の話だろ? 第一それ、悪用したらルキフェル様が黙ってないんじゃないのか?」

「私達はルキフェル様のために、再びこの地を豊かなものにしようとしているのですよ? その威光を受けた私達の言葉に、誰が逆らえますか!」


 それを悪用というのでは? と思った。しかし神話に過ぎない神様など、俺には関係ない。あまりにリリア達が横暴な態度を取るようなら、取り上げよう。


「まぁそれならいいけど。後でルキフェル様に怒られないようにだけは気を付けろよ」


 それを聞いてリリアは、ペンダントの紋章を見て、悪いことをした後の子供のように下唇を噛み、考えるように目線を横にずらした。


「大丈夫です! 国が出来たらきちんと挨拶に伺いますので、それまでは大丈夫です!」


 しばらく考えた末の答えがそれだった。完全に後で怒られるパターンだ。


「とにかく、善は急げです! 早速準備に取り掛かりましょう。私とフィリアで薬草の調達に行ってきます。リーパーは畑を作って下さい」

「作って下さいって、どこでもいいのか?」

「お任せします」


 やっと国の政策に取り掛かれるとウキウキして、逸る気持ちに攣られて、王は大臣を連れ、大きな籠を仲良く背負い、野草狩りに出かけられた。

 残された身分の低い孫爵は、スコップと鍬を持ち、敷地の角地に一人せっせと開墾を始めた。

 畑に選んだ土地は、昔は畑だったと言っていた、雑草が根を張る場所にした。


 スコップを差し、深く地中に入れ込むため足で踏むと、ブチブチッという音がし根が切れる。

 掘り返した土を確かめると、長年放置されていたにも関わらず、小石は少なく綺麗な茶色をしていて、僅かに芳しい匂いがした。土質は柔らかく、程よく手の中で解れ、かなり良質なものだと分かった。

 しかし根が多く、目安を付けた範囲を一度掘り起こすだけで、相当疲労した。


 団員達も手伝おうと人形でやって来てくれたが、鍬もまともに振れない彼らは、肩を落として見張りへと戻っていった。


 土を掘り起こし、さらにそれを細かく砕くためスコップと鍬でかき混ぜていると、リリア達が戻り、帰り支度を済ませたフィリアが取ってきた薬草を持ち、騎士団の警護を付け帰って行った。

 結局自宅で調合を行うフィリアの薬は、自国生産とは言えないものだ。


 その後、今晩も二人だけで過ごす事になった俺たちは、仲良く夕食を食べ、水浴びをし、それぞれの布団に入り疲れを取るため眠るが、ホームシックのリリアは、昨日と同じように俺の布団に潜り込んできて、寝苦しい夜を過ごす事になった。

 


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