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 名前が決まると、晩餐会は終了した。

 その中で生前の姿を取り戻し、言葉を発せられるようになった兵士達と会話をしてみたかったが、騎士団は真面目なうえ、疲れ知らずの肉体は与えられた職務を真っ当すると言い、結局晩餐会には参加しなかった。

 ジョニーも晩餐会が終わると見張りに戻り、そのクソ真面目さはヒーを超えていた。 


 片付けが終わると、リリアが風呂に入りたいと言い出し、桶の水にヤカンのお湯を混ぜ、俺たちは水浴びをする事になった。


「では今日の疲れと汚れを落とし、さっぱりしてぐっすり眠り、明日に備えましょう!」


 昼間アレだけの肉体労働をしていたリリアは、とても元気にタオルを巻いた姿で張り切っている。


「それにしても今思ったんだが、お前ら……俺もそうだが、騎士団も見てるのに恥ずかしくないのか?」


 三人ともタオルで体を隠し、その下は全裸だ。塀の中とはいえ、一応屋外である事に変わりは無い。

 俺はさすがに恥ずかしく、ハーフパンツだけは履いていた。


「何を言ってるんですか。リーパーと私達の仲じゃないですか?」


 確かに小さな頃は一緒に風呂に入った。しかしそれは毛も生える前の話で……最後に入ったのは、結構大きくなってからだった。


 カミラルみたいな田舎の村では当たり前だが、王都でもこうなのかと思うと、ジョニーに聞いてみたくなった。


「ジョニー! パトロクロスじゃ、何歳まで一緒に風呂に入るんだ?」

「……そうだな~……兄弟なら十歳くらいだと思うよ、兄さん」


 何故かジョニーは俺のことを兄さんと呼ぶようになった。年齢的には完全に逆だと思うが。

 だが、やはりこの歳で、それも異性同士で裸の付き合いをするのはあり得ないと気付いた。

 もし間違えでも起きれば子供が出来てしまう……そう考えると、民の少ない村や国には都合がいい話である。とくに四人しかいないグリードガーデンには願ったり叶ったりの話だ。

 そう思い、厭らしい目でリリア達を見たのだが、三人とも姉と妹にしか見えず、そんな趣味のない俺は、まぁいいかと思ってしまった。


 リリア達も同じのようで、タオルを巻いているが両手を離しはしゃいでいる。


「さぁリーパー。私にお湯を掛けてください」


 背中を向け屈み込み、俺に指示するリリアに、首筋に桶半分のお湯を掛けた。


「はぁ~。次は頭にも掛けてください」


 気持ち良さそうにするリリアに言われたとおり、今度は頭に残りの湯を全て掛けた。

 リリアは湯があるうちに頭を洗おうと必死に髪をかく。

 俺達の横ではフィリアがヒーにお湯を掛けていて、四つある桶では湯が全然足りない。


「おい。すぐにお湯なくなるぞ? どうすんだ?」


 湯を垂らしながらリリアが桶を見た。


「やっぱりそうですよね?」


 我が王はどうしてこういう計算が出来ないのだろうか。


「仕方ないですね。多少汚れますが、焚き火の中に入れておいた石を入れて、お湯を作りましょう」


 念のため、焚き火に入れておいた石で水を湯に変える作戦だが、井戸から水を汲むのが面倒だ。


「リーパー、全ての桶が空になったら言って下さい。それまでもう一度、私の頭と背中に湯を掛けて下さい」

「この桶で最後だ」


 そう言って、二つ目の桶の湯を頭からゆっくり掛けた。

 気温は高く、濡れた体でも寒くはないのか、先に桶が空になった湯待ちのヒーは、濡れた髪を掻き揚げ水分を飛ばしている。


「はい終わり。全部空になったぞ」


 空の桶をリリアに見せると、並べるよう指示された。

 リリアは両手を合わせ握り、そこから魔法で器用に水を出し桶に溜める。


「お前スゴイな! 井戸いらねぇじゃんか!」

「そうですか? でも飲むとお腹を壊しますよ? 所詮魔法でかき集めて作った水ですからね。さぁ焼け石を入れて下さい」


 石を火鉢で取り出し桶に入れると、ジュワーっと音を立て白い湯気を上げる。しかし煤で湯は汚れてしまった。


「おい。ちょっと汚いけどいいのか?」

「私達の体より綺麗ですよ。さぁ早く掛けてください」


 指で湯加減を確かめたリリアは、多少の汚れなど気にせずおかわりを求める。


 石を取り出し、桶を構えるともう一度確認した。


「本当に良いんだな?」

「もちろん。頭からお願いします」


 逞しく育ったリリアにお湯を掛けると、綺麗な銀髪に黒い煤が付き、余計に汚れている。だがリリアは気にすることなくおかわりを催促する。

 ヒーの方も全く気にする様子も無く、フィリアに湯を掛けてもらっている。本当に逞しい姉妹だ。


 桶六杯掛けるとリリアは満足し、今度は俺に湯を掛けてくれた。


 汗と埃で汚れた体に湯を掛けてもらうと、煤の汚れなど気にならないほど体の疲れを洗い流してくれた。

 その後湯を作るインターバルはあったが、体も温まりべたつきも取れ、とてもさっぱりできた。


 全員がさっぱりするともう一度湯を作り、いつものように水遊びを始め、楽しい時間が始まった。

 その最中、ジョニー以外の騎士団達がチラチラこちらを見ている事に気付いた。

 生前の姿を取り戻した彼らは、フィリアのよく育った体を見ているようで、体を取り戻した分、目線の先がはっきり分かる。


 たしかに濡れたタオルが肌に張り付き、しっかりと体のラインが分かり、リリア達とは違う、大人の、とくに大きな胸は、三百年戦い続けた戦士には堪らないのだろう。

 それを知りながらも見向きもしないジョニーは、騎士としての誇りか、興味が無いのかは分からないが、真剣に任を務めている。


 しばらく遊んでいると、見られている事にリリア達も気付き、手を止めた。


「どうやら私達の、この艶かしい体を見たいようですね」


 お前のことではないと思うが、リリアはチラチラこちらを見る騎士団を見て言った。


「そのようですね。彼らにも少しくらい楽しんでもらいますか?」


 恥ずかしそうにするヒーに比べ、フィリアははっきりと身体のラインが分かる姿を隠そうともせず言う。


「仕方がないですね。これも王の務め、私に任せてください!」


 そう言うとリリアは、全員が見やすい位置に進み、声を掛けた。


「パープル騎士団の皆さん! これは私からの今日だけのサービスです!」


 全員の視線が集まるとリリアはタオルを広げ、全裸を披露した。

 それを見た兵士達は手を合わせ、ありがたやと拝む。

 しかしリリアはすぐに恥ずかしくなったのか、顔を真っ赤にして戻ってきた。


「リリア大丈夫ですか?」


 調子に乗って恥をかいたリリアにヒーが声を掛け、優しく抱きしめ、よしよしと慰めた。

 美しい姉妹愛なのかもしれないが、自業自得だ。


 すると今度は、耳を真っ赤にするリリアを見て責任を感じたのか、フィリアは同じ場所へ行き、「皆さんお疲れ様です! どうぞ公務の励みにして下さい!」と言い、タオルを広げた。


 タオルを広げ、胸を張るフィリアの後姿は、白い羽を広げた鳥のように勇ましく、五秒ほどそのままの姿勢を保つ様は、正に戦士だった。


 するとそれを見ていた三人の兵士が歓喜の唸り声を上げ、昇天しかけているのが見えた。


「フィリア!」


 この事態に、慌ててフィリアを止めた。


「ジョニー! 緊急事態だ! 衛生兵はいないのか!」


 自重自戒を学ぶべき王と、真面目だが姉を甘やかす伯爵。肝の座った破廉恥な子爵に、それに当てられた騎士団とクソ真面目な団長。そしてとくに取り柄も無い、ザ・凡人のひいひいひいひい孫爵。この四人の人間と七名のアンデッドが、グリードガーデン建国の偉人となる……はず。


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