表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/21

 紫色の光りに包まれ、一瞬星空のような世界が見えたと思ったら、先ほど見ていた景色と全く違う大きな扉の前にいた。

 扉の前には二人の警護兵と、十歳ほどの男の子がいた。

 しかしその少年は、黄色い瞳に黒目、灰色の髪に茶褐色の肌をしており、人の形はしているが人間ではないとすぐ分かった。


「ようこそいらっしゃいました。ここからは貴方方三人だけの謁見になりますので、馬と護衛の方はここでお待ち下さい」


 不気味な雰囲気を醸し出す少年はとても礼儀正しく、綺麗なお辞儀をした。


「分かりました」


 それは駄目だと意見しようと、前へ出ようとしたアントノフとキリアを止めるようにヒーは答えた。


「しかしヒー様。この先……」


 それを今度は俺が止めた。


「アントノフ、俺達を信じてくれ。必ずリリアと一緒に戻ってくる。だろ?」


 俺が笑顔で言うと、アントノフは静かに目を閉じ、頷いた。


「お話はまとまったようですね。ではこれより、ルキフェル様の下へ御案内致しますので、ご無礼の無いようお気をつけ下さい」


 その言葉に俺たちが頷くと、少年は扉の前へ行き、警護兵に扉を開くよう命じた。


 この先にルキフェルがいる。それが本物かどうかは分からないが、少なくとも俺達を簡単に殺すことが出来る人物だという確信だけはあった。

 何故俺たちとコンタクトを取りに来たのか、何故リリアが攫われたのか、今はそんな理由はどうでもいい。

 ただリリアを返して欲しい。それ以外に求めるものは何もなかった。


 重々しい扉が開くと、長い赤絨毯が敷かれていて、その長い絨毯の先の少し高くなっている玉座に座る人物の姿が見えた。


 天井は高く、いくつもの太い柱で支えられている王の間は、どこからとも無く差し込む光りで明るいが、広い空間に王とその下に立っているエヴァだと思われる人物の二人だけという寂しさが、とても不気味な雰囲気を醸し出していた。


 少年の後ろに付きルキフェルに近づくと、息をしていない事に気付き、慌てて息をした。

 玉座に近づくにつれ本能的に目線が下がり、絶対に王の顔を見てはいけない気がした。

 そして最後には少年の膝から下しか見ることが出来なくなり、少年が足を止め跪いたときには喉がカラカラになっていた。


 少年が一礼し去ると、壁がなくなったようにルキフェルの威圧の風に晒された。

 そうなると、もう跪く事も喋る事も出来なくなっていた。


「王の御前ぞ! 跪け!」


 エヴァの声だと判ったが、動く事が全く出来ない。

 この威圧感は本物だ、こんな化け物はルキフェル以外存在しない!

 そう怯えていると、ルキフェルが言葉を放った。


「気にするなエヴァ」


 俺たちに対しての言葉ではないにも関らず、声を聞いただけで瞬きする事すら出来なくなった。


「貴様らは、あの女の子供を助けに来たのだろう?」


 何十年も経ったかのような感覚の中、ルキフェルが言った。

 もう生きているか死んでいるのかさえ分からないほどの感覚の中でも、エヴァのときとは違い、その言葉は理解でき、忘れる事は無かった。


 そしてまた何十年間経ったかのような感覚の後、ルキフェルが放った言葉に喜びを憶えた。


「まぁよい。ほら返してやる」


 その言葉だけには反応できた。


 リリアはまだ生きてた! 後は何でもいいから言う事を聞いてここから帰るだけだ!


 と思っていたが、ボンッ、ボンッ、ボンッ、という何かが階段を転がり落ちる音が聞こえ、僅かに顔を上げた目に映った銀色のモノを見て、それに向かい走り出していた。

 まさかと思ったが、先に走り出していたヒーが聞いた事も無い悲鳴を上げたので確信に変わった。


 〝リリアの頭〟


 気付くと、俺とヒーはそれを抱き抱え、叫んでいた。


 綺麗な銀髪が赤く血で染まり、ひんやりとするリリアの顔は眠っているようだった。


 鼻水も涎も気にならないくらい泣いていた。


 いつもは元気に笑っている顔が今は静かに眠っている。そう思うと優しく頬を撫でていた。


 ヒーもリリアの頭を撫で、耳たぶを優しく揉んでいる。


「これも返しておく」


 そう聞こえ、ドサッと何かが落ちてきた音が聞こえ見ると、リリアの体が下着を見せ、だらしない姿で倒れているのが見えた。


 俺はその姿に堪らず声を上げ体に駆け寄り、抱き起こし、リリアが恥ずかしくないように足を閉じ、下着が見えないように直し、すぐに抱きしめた。


 頭の無い体は軽々持ち上がり、柔らかい肌は芯でも凍ったように硬く、流れ出ていた血はベトつき冷たかった。


 何度強く抱きしめ直しても反応は無く、何度リリアの腕で俺を抱きしめるように廻しても、曲がったままの腕は力無くずり落ちた。


「……お前たちはどうする?」


 誰かが何かを言ったような気がした。

 俺はリリアを連れヒーの元へ連れて行き、姉が帰ってきたことを教え、泣いた。


 そこからはどれだけの時間が流れたのか分からないほど泣き続け、リリアが恋しくなり、自分でも何を言っていたか分からない言葉で叫んでいた。


 我に返ったときには自分が何を抱えているのかも忘れ、ルキフェルの顔を見ていた。

 たしかに顔を見ていたが、憶えているのは目だけだった。


 そのとき突然視界が青くなり、何かが後ろで倒れる音が聞こえ、ヒーが叫んだ。

 振り向くとフィリアが倒れていて、青い光りも消えていた。

 俺は何が起きたのか分からず、ただそれを眺めていたが、


〝フィリアが死んだ〟


 とだけ分かり……


 そこから気付いたときにはルキフェルの目を見て、勝手に体が言葉を発していた。


「俺達を帰してくれ」


 砦へという意味なのか、時間をなのか、フィリアをなのか、リリアをなのか。自分で言っていたが意味は分からなかった。 


 それに対してルキフェルは、


「では何を差し出す?」


 と問い、俺はそれに対し、


「五感全て」


 と答えた。


 ただヒーだけは渡さない! その想いだけははっきり自分の意識の中にあった。

 

 そこから先は、この世界ではない、何処かにいた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ