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 ウッドストックのハァハァという息遣いが聞こえるくらい馬車を飛ばし、パトロクロスを守る砦の前までやって来た。


「ヒー様! このまま走り抜けて下さい! 私達が必ず御守りします!」


 アントノフの声にヒーは頷き、速度を落とすことなく砦の中に入った。

 するとすぐに魔物やアンデッドが現れ、馬車に向かい走り出してきた。

 しかしジョニーとアントノフが剣を掲げ、強烈な威圧感を発すると、ピタリと足を止めた。


 一体ジョニー達はどれほどの力を持っているのか分からないが、この俺達を守るような温かいプレッシャーの中では、今は頼もしかった。


 砦を抜けそのまま走り続けると、丘の先に大きな石壁に守られた都市が見えてきた。


「あれがパトロクロスです! 城に辿り着けばあそこからルキフェル城へ転位できる魔方陣があります! 城は道を真っ直ぐ行けば辿り着きますので、このまま走り続けてください!」 


 アントノフがヒーに聞こえるように叫ぶ。

 その横でフィリアは、ウッドストックに体力回復の魔法をかけ続けている。


 荷台は飛び跳ねるほど速度が出ているが、そのお陰で魔物たちは馬車に近づく事が出来ない。

 道を塞ぐように待ち構える魔物も、今のジョニーたちの気迫に押され道を開ける。


 しかし城壁門の前に来ると二人の騎士が待ち受けており、それを見たウッドストックが足を止めてしまった。


「ウッドストック! お願いします!」 


 ヒーが手綱を強く打ち付け乱暴にお願いするが、見た目から完全に怪物クラスの騎士に怖気づいている。


「ヒー様、ここは私に任せてください」


 ジョニーはそう言うと荷台から降り、二人の騎士に近づいた。


「久しぶりだな、ゴウゴ、サルパ! 訳あって今はそこを通してもらいたい!」


 どうやら二人はジョニーの知り合いのようで、武器も構えず近付いて行く。


「ほぉ、随分力を付けたようだな? しかしいくらジョニーの頼みでも、それは無理な話だ」

「俺がどれだけお前らの無理を聞いてきたか忘れたのか?」


 ジョニーが何とか道を開けてもらうよう説得する中、アントノフがコソッとヒーに耳打ちした。  

  

「大変失礼な事を致しますが、私が合図したら、なんとしてもウッドストック様を走らせて下さい」


 分かりましたとヒーは頷き、鞭を構えた。

 それを確認すると、アントノフは一瞬殺気を放った。


 するとジョニーがいきなり斬り掛り、それとほぼ同時にアントノフは、剣の柄でヒーの背中を軽く叩き合図を送った。

 合図を受けたヒーはウッドストックの尻目掛け、今まで絶対しなかった鞭を強く入れた。


 その痛みで驚いたウッドストックは、荷台の俺たちがひっくり返るほどの速度で走り出した。


 ジョニーの剣戟で道が開き、その隙を付いて馬車は駆け抜けた。

 しかし振り返るとジョニーを置き去りにしている事に気付いた。


「ジョッ!」


 俺が飛び乗るよう叫ぼうとすると、アントノフが空かさず手を出し止め、言った。


「声も掛けず自分を置いていく。今のこの状況で、それは騎士にとってはとても喜ばしい事です。私達がリーパー殿達を信じるように、私達の事を信じてもらえますか?」


 何も言えなかった。それはフィリアもヒーも同じだった。


 戦うジョニーの姿がどんどん離れていくのを、黙って見ているしかない。


「前を向きましょう」


 フィリアが言った。

 振り返るともう誰もジョニーを見ていない。


「……あぁ」


 信頼。いやジョニーだからこそ俺は、俺達は前だけを見て進む。そう思うとジョニーと背中を合わせているような感覚がした。


 町に入ると、崩れた石造りの家が並ぶ広い通りを駆け抜けた。

 ここでも多くのアンデッドや魔物が姿を見せたが、まるで普通の住人のように顔を出し、襲うでもなく驚いたようにこちらを見ている。


 そのお陰で難なく通りを走り抜けることができ、城門前に辿り着けた。だがそこからは階段だったため、荷台を捨て、ウッドストックを引っ張りながら城門に向かった。


 城門には当然のように見張りがいたが、アントノフはお構い無しに斬り掛り、城の中に潜入する事に成功した。


「私に続いて下さい! 後ろはキリアが守ります!」


 アントノフはそのままの勢いで城内を強引に進む。

 そして一つの部屋の扉をぶち破り、魔方陣のある部屋へ俺達を案内した。


 部屋の中には紫色の光りを放つ大きな魔方陣と、一人のローブを被った人? がいた。  


「ようこそいらっしゃいました。ここからは私が案内致します。どうぞこちらへ」


 顔が見えないその人物は、女性の声でそう言い、俺たちに魔方陣の中心へ進むよう手で示すが、信用できない。


「ミリアム、どういうことだ?」


 アントノフが聞く。どうやらこちらも知り合いのようだ。


「エヴァ様からの御命令です。貴方方がいらしたら、城へ送るよう仰せつかりました。ですから、安心してお入り下さい」


 そんな言葉は当然信用できないし、従う気も無い。


「分かった。ただし私たちも同伴させてもらう。構わないか?」

「えぇ、もちろん。ではこちらへどうぞ」


 アントノフは剣を納め武装を解除し、嬉しそうに話すミリアムという人物の言葉を受け入れた。

 何故アントノフはその言葉を信用したのかは分からないが、「はいそうですか」と従えるわけが無い。


「私を信じてもらえますか?」


 俺がどういうつもりか聞く前にアントノフに言われ、信用できないと言おうと思ったが、ヒーが答えるように進み出した。


「おいヒー!」


 俺が叫ぶが、それを遮るようにフィリアもヒーを追いかけだした。


「もう私は声を掛けません。ここに残るも進むも、リーパー殿がお決め下さい」


 アントノフの言葉は冷徹なものでは無く、信頼が込められていた。


 どのみちここに残ってもどうしようもないし、何よりリリアを連れ戻す可能性が少しでもあるのなら、進むしかない。


 俺達はアントノフを信じ、魔方陣へ進み、ルキフェル城へと転送された。 



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