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 翌日の朝。

 目覚めると俺達はリリアに、自宅に戻り療養することを強制し、フィリアとヒーと一緒に帰らせた。

 その間砦には俺だけが滞在する事となり、少し曇る空の下、せっせと畑を耕していた。


「参ったでや!」


 雑草の根っこが砕けず、鍬を放り投げ座った。


「参ったでや? どこの方言だい兄さん?」


 一緒になって剣で草の根を砕いているジョニーが訊く。

 ジョニーは疲れ知らずだから、ずっと自分の剣で突いていられる。


「カミラルの方言だよ。ジョニー達も使わないか?」

「パトロクロスは都会だったからね。上品な言葉が多いんだよ」


 ちょっと田舎者呼ばわりされた気がしたが、この疲労の前では文句を言う気も起きない。


 畑の敷地を確保し、それなりに掘り起こしたが、三百年前の畑は土が良いせいか、雑草の育ちも逞しい。

 今までは、キリアのような新兵が、遊びついでに剣を振り回し草を刈っていたらしいが、掘り起こす事は一切しておらず、そのツケが全部俺に回ってきている。


「それにしても、ジョニー達は物は持てないのに、なんで剣では物を動かせるんだ?」

「さぁ? よく分からない。おそらく騎士の誇りが、剣を使う事だけは忘れないようだ」


 剣を眺めながら騎士の誇りを語るジョニーは、先ほどまでその誇りで畑の土を砕いていた。


 リリアにその理由を聞いたことがあるが、よく分からず、結局ジョニーと同じような事を言っていた。

 そのうえあれからアントノフも昼夜問わず生前の姿をしており、会話も出来るようになっていて、心の強さとか曖昧な理由としか分からず、謎だらけのアンデッドの扱い方がよく分からないままだった。


「なぁ? なんとか物持つこと出来ないのか? ジョニー達が兵士なのは分かっけど、さすがに労力が欲しいわ」


 大金を手に入れ、食べ物の心配は無くなったが、城の片付けに畑仕事だけでもすでに手一杯なのに、天井の修理に見晴らし塔の片付け、そのうえこれから塩の生産とそれを売りに行くなど、やることはまだまだ沢山あり、グリードガーデンは人手不足に陥っている。


「リリア様の人形に入れば手伝うことは可能だよ?」

「それは知ってるよ。でもあの人形じゃまともに雑巾も絞れないだろ? そういうのじゃなくて、畑を耕したり、屋根直したり出来ないのかって聞いてんの?」

「屋根はさすがに無理だよ。あれは専門の大工でも頼まなければ無理だよ」

「それが出来ないから困ってんだよ」


 リリアは、「それではただの家ではないですか! 私達の国は、私達国民が何とかしなくては意味が無いです!」と言い、業者に頼むのを嫌がった。

 気持ちは何となく分かるが、その時点ですでに詰んでいる話だ。


「金あるし、奴隷でも買いに行くか……」

「兄さん、それ本気で言ってるのかい?」


 俺がボソッと言った言葉に、ジョニーが驚いたように聞き返した。


「え? なんか問題でもあるのか?」

「問題も何も、リリア様は納得しないだろ?」

「そうか? 労力を手に入れるには一番手っ取り早いだろ?」


 どこの人間の国でも奴隷を買い、それを労力として使っている。ただ種族や性別により値段が違い、今の財政では、考えず奴隷を買えば底を付いてしまう。


「そういう問題じゃなくて。リリア様の性格上、それは断固として認めないはずじゃないのかい?」

「そうか? 金が減るのは嫌がるけど、召使が増えると思えば喜ぶんじゃないのか?」

「……そうは思えないけど……」


 ジョニーが反対する理由がよく分からない。それでも一応リリア達と金銭面での相談が必要な事は確かだ。


「奴隷は奴隷だろ? パトロクロスじゃ奴隷はいなかったのか?」

「パトロクロスでは禁止されていたよ。だから殿下……アーロ王やルキフェル様は、この地で信頼されていたんだよ」

「どういう事だ? 奴隷がいなきゃ、ほとんどの人が田舎の村みたく、自分で働かなきゃダメじゃん?」


 ジョニーは呆れたような顔でため息をついた。


「兄さんは、奴隷がどうやって奴隷になるのか知ってる?」

「借金とか犯罪者とかだろ?」


 カミラルでは奴隷はいない。そのため俺は奴隷についてよく知らない。ただ貴族のように自分の身の回りのお世話をしてくれたり、金を稼いできてくれる便利な苦労人くらいにしか思っていなかった。


「それはほんの一部だけだよ。大体は攫われたり、襲われた村人だよ」

「そうなの⁉」

「だから皆、足や首に鉄の錠が付けられてるだろ?」


 初耳だった。奴隷は自身で生活が出来ない者や、悪行を働いた者が贖罪として自ら志願するものだと思っていた。

 実際見たことも無く、聞いた話だけで信じていた俺は、鎖に縛られているなど思いもよらず、フィリアのような召使い的存在だと思っていた。しかし、


「……またまた~。本当は自分より強い兵士が来たら困るからそう言ってんだろ?」


 人間がそこまで非道な事をするとは思えず、ジョニーが大げさに言っていると思った。


「キリアとアンソニー、オッドは元奴隷だよ」


 ジョニーは剣を杖のようにして両手を置き、石垣の上にいる彼らを見て言った。


「まさかさ⁉ ……ほんとに?」

「キリア達は別の国で奴隷として扱われていて、奴隷解放を掲げていたアーロ王が攻め落とした国にいたんだ。だからルキフェル地方には差別や弾圧を受けた色んな種族が集まってきて、賑わってたんだよ」


 全くパトロクロスの歴史も、アーロ王についても調べていなかった俺には、勉強になる話だ。


「そうなんだ。でも、なんでルキフェル……様は、アーロ王を認めたんだ?」

「殿……アーロ王は元々ルキフェル様に仕えていた、高魔族の魔道士様だったんだ。でもお優しい性格で、それを知っていて何も出来ない御自身を責め、この地の守りを高め、天族と戦えるだけの戦力を手に入れるとお約束なされて、王位を頂いたんだよ」


 天族とかもう神話の話だが、その時を生きたジョニーが言うのなら間違いはないのだろう。


「だから、アーロ王はセイレーンもそうだけど、人間から嫌われる種族から厚い信頼を得ているんだよ。そもそも、殿下御自身が高魔族だったため差別を受けられ、御辛い人生を歩まれてこられたようで、それが」

「分かった! 分かったから! 俺には一度には覚えきれないから、一旦アーロ王の話はやめて」


 ジョニーがどれだけアーロ王が好きなのかは分かったが、すでにキラキラ目を輝かせ、剣を掲げ熱く語り出すジョニーに引く自分に気付き、止めた。


「じゃあ、ルキフェル様の名前を出したとき、セイレーンがビビったのはなんでだ? あいつら完全にその名前にビビってたよな?」

「それはもちろん、ルキフェル様の偉大さを知っているからさ」


 答えになっていない。だがジョニーは何を当たり前の事を言っているんだ? と言わんばかりに俺の顔を見て、再び目を輝かせた。


「ルキフェル様は、ゼウスと戦い、敗れてしまったハデス様のお忘れ形見で、その力はハデス様に匹敵すると言われていて、とても偉大な御力をお持ちの方だよ。しかしとても穏やかな方で、自らは攻め入る事はなさらなかった。それでもその威光のお陰で攻め入るような愚かな国は無く、沢山の人材がルキフェル様を慕い、敬い、仕えたんだ。中でも、レッドクィーンと呼ばれた大魔道士ノヴァ様は、そのお力と知才を発揮し」

「分かった! それはもう分かったから!」


 これ以上は下手に過去を聞くのは面倒だ。これなら畑を耕していた方がマシだと思い、休憩をやめた。


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