第零話『異世界転生』
俺の名前は、土御門剛。どこにでもいる高校二年生だった。
だった、となぜ過去形かというと端的に言えば俺は今しがた死んだところだ。
原因は階段を歩いてる最中後ろから押されそのまま頭から地面と熱い抱擁を交わした。
そんな死んだはずの男がなぜ生きてるかといえば、現在全く知らない場所にいる。
地平線が見えるほど広く、天井には無数の星々等が輝いている未知の空間。
「なるほど、これが死後の世界という奴か。中々に綺麗じゃないか」
死んだことに未だ実感を感じれず絵空事かのように感想を述べる。
実際こうやって喋れるし、呼吸もしている。更に体温もある。死んだとは到底思えない。
さて、これからどうするか。そんな事を考えてると俺の目の前に白い魔法陣のようなものが展開した。
そこから光りの柱伸びる。無数の光の粒子が集合しじょじょに形を作り上げる。
一言で言えば女神様、というやつだろう。
純白の羽衣に、黄金のような綺麗な髪。海のように青く何処までも吸い込まれてしまいそうな瞳。
人の造形美を凌駕したギリシャの彫刻のような美しさを持っている。
「初めまして、土御門様。私は女神エスティエール。転生を司る女神です」
「……えっと、初めまして。エスティエール様」
鈴の音のように綺麗な声で挨拶され半ば緊張してしまう。
猫背だった背筋をピンと伸ばし無意識に正座をする。
俺の人生においてこの女神様のような美しい女性を見たことがないからだ。
「貴方は17という若い年齢でありながら、お亡くなりになってしまいました」
「……そうですか、貴女に言われると信じざるを得ませんね」
「はい。ですが、貴方のような若い者が死ぬというのは余りにも酷な話」
胸の前で手を祈るように組み、涙を流す。
俺が死んだことで泣いてくれるなんて、なんて優しい女神様なんだ。
「では、次も人間として転生させてくれるんですか?」
「いえ、貴方にはもう一度別世界で新しい人生を歩んでいただきたい」
「別世界で……というと、小説とかでよくある異世界転生というやつですか?」
「はい。貴方はこの世界での数少ない転生資格を持つ人なのです」
「……なるほど」
異世界転生……か。確かに死んだ俺からすればありがたい事この上ない話である。
まだやりたいこともいっぱいあったし、何よりまだ彼女も作ったことがない。
「その転生先は選べるのですか?」
「残念ながら不可能です。貴方が転生できる先は『エルダーロスト』と呼ばれる世界」
「ふむ」
「そこでは科学の代わりに魔法が存在し、人々は魔法使いになるため学校に通っております」
「ほぉ、学校ですか……」
「はい。学生である貴方ならきっと生きやすい世界でしょう」
「……では、その世界に転生させてください」
「おや、決断が早いですね」
「女神様から頂ける第二の人生。無駄には出来ませんからね」
「……なるほど。では、せめてもの祝福を与えましょう」
女神様は俺に向かい手をかざす。すると俺の体が光り始める。
体の中に知らない知識や言葉、更に俺が使える魔法が付与された。
「貴方に授けた祝福は2つ。『異世界知識』これは言うまでもなくエルダーロストの知識です」
「後の1つがこの、魔法ということですか?」
「はい。「多重魔法」と呼ばれる非常に稀有な魔法です」
「通常一つしか展開できない魔法を、5つまで展開できるようになる魔法」
「えぇ、それも全ての属性を使えるというモノになっております」
「いいんですかこんな凄い能力?」
「構いません。魔法というのは才能があっても努力が必要ですから」
「……きっかけを与えるが、精進を忘れるなということですね」
彼女は無言で微笑み、再び俺に手をかざす。すると今度は体がどんどん薄くなっていく。
「そろそろ時間ですので、これで。再び会えることを心待ちにしております」
「えぇ、俺もですよ。エスティエール様。あ、それと」
「なんでしょう?」
「転生した時に降り立つ場所、できれば街から遠くしてください」
「わかりました。……ご武運を。そして貴方に祝福を」
こうして俺の異世界生活の幕が上がった。