冒険の始まり
ファンタジーを生活するお話
中二病な男の子たちです
フリーワンライ 6/24 として書いたものです
ああ、本当にお前らはずるいよ。心底、俺は思うね。
目の前に並び立つあいつらを見て、俺は笑みを作る。それは「俺」に必要な事だから。精一杯、知らないフリして。だって、俺ばっかり引きずられるなんて卑怯だ。
扉を開いてくるのは何度目だろう。「俺」は繰り返す言葉を吐いた。
「これで終わりにしよう」
わかりきった、結果にしたくなくて繰り返したそれをお前らは覚えてる?
わかんないか、俺とは感覚が違うもんな一般人にそれが理解できないように。俺の感覚だって、お前らは知らないよな。
もちろんこれが、偽物だって考えたら俺の方がすげえ馬鹿げたことしてると思うよ。それでも、俺はこちら側だから。お前らが楽しんでる間に俺はここで暮らしていた。
今お前らが開いた扉だって毎日磨いてくれるメイドさんがいてだな。美味しいご飯を用意してくれるシェフもいて……まあ、それはさておき。
こちら側にも生きるものはいるんだ。勝手に悪を決めつけるのは、独善的で視野が狭いのはお前らの悪いとこ。
「当たり前だよ、ラストバトルなんだから」
どうも、軽薄な言葉に聞こえるけどその真剣なまなざしと、いつもの態度を知ってる俺はそれが本気だってわかってる。架空で想像してたそれが今、現実になって楽しいんだよな。お前らはそういうやつだもんな。俺ばっか真面目になって、本当に損な性格してる。
でもさ、お前ら知ってる?
俺だって、お前らと同じ男の子ですよ。正義の味方に憧れちゃうわけで。ここでなら、お前らと一緒になれるって思ったのに。
今回も俺は、お前らと反対側に並ばされて。
「いい加減、平和を手に入れたらどうだよ、勇者様?」
少しぐらい嫉妬と八つ当たりだってしてもかまわないよな。どうせ今の俺は悪の親玉な訳だから。あいつらには演出気合い入ってるな、くらいにしか思われないんだろ。
何度も何度も、何度も繰り返して。俺の目の前から崩れ落ちたはずのあいつらが消えて。ああ、理不尽だ。拳を振り下ろしても、痛みすら残らない。なんて滑稽な存在だ。戦いの疲れだけが綺麗に跡形もない。減ったのは俺の気力くらいか。
ああ、勝ってるのになんて悔しいんだろうな。簡単なこと、俺は、こちらは負けなくちゃいけない存在だから。そりゃ、分かってますよ。だって「勇者様」には誰も勝てませんね。
一息つく間もあるかないか、そして戦いの焼き直し。何度負けようと諦めない。さすがは勇者様だなんて皮肉の一つも言いたくなる。
「お前らにこの世界は渡さない」
武器の先を俺に向けてくる。そろそろ終わりの時間か。結末が見えてるものにあらがう俺もバカみたいだとは思うんだけど。それでも、一応リーダーとして逆転―バグ―を疑ってみる必要はあるかな、なんて。まあ、本当に無駄なあがきだったらしいけど。
そう、勝てなくていい。俺たちはどうせ勝てないのだから。こてんぱんにやられるのが俺たち悪役の運命って奴でして。
それでも、負けなければ勝つことに同じだから。ここじゃないどこかの世界で、お前らのいない俺が「主人公」だった場所で教わったこと。
それを俺は信じておく。それに、お前らはただの主人公なんかじゃなくて「勇者」を気取る英雄な訳ですから。なあ、俺の期待を裏切るなよ。
予定調和の閉幕。俺は倒される。長かった勇者の冒険は幕を下ろす。同じくらい長ったらしいエンドロール……があったかはわからないけど。
「王様的にはめでたし、めでたしって奴?」
「所謂シナリオクリアだな」
荒れまくった部屋の惨状を戻すだけの力を取り戻すのにも少し時間がかかる。
最終的に近接戦になっていた俺らは距離が近くなっていて。魔法の残骸である水に映るそれは確かにいつもの俺たちだった。
本当は遊びで済ませちゃいけないのかもしれないけれど、楽しかったのは間違いなく事実で。四人が並ぶのもいつものことだから。
ここから、進める物語は確実に作られたものじゃないと思うんだ。何を言い出すかわからないのが少しだけ怖いけど。
「ねえ、魔族の人たちはどんなものを作るんだ」
「足りてないものを補い合えば、仲良く出来るよね」
やっぱりそうやって、膝をついた俺に手を出してくるあたり、勇者ってやつは本当に。
俺が考えていたような結末―ハッピーエンド―に持って行っちゃうんだから、ずるい。俺だってそっちに行かせてよ。エンディングの後の世界なら俺だって勇者の仲間になっても変じゃないはずだろう。
まだまだ終わらせないでくれよ。俺だって一緒に冒険がしたいんだ。
閲覧ありがとうございます。
フリーワンライ 使用フレーズ
駆け引き
水溜まり
一度は飲み込んだ感情
人生ゲームのその行方