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愛するということ

とある恋愛相談のお話


「やあ、ラブちゃん」


 甘い声で、囁いたわけじゃない。少しばかり恋人の愛称に聞こえたからと言って他意は俺にないんだけど。だから、彼女に付けた愛称を、皮肉と捉えられるのはあんまりだ。真剣に考えてつけてるんだから。だって、本当の名前でなくても俺が思いを込めて呼ぶんだから、それが嫌なんて俺も悲しくなっちゃうもん。


「ラテくん、こんにちは。相変わらず、女の子をたぶらかしているの?」


 それを君がいうのは酷いんじゃないか。別に俺がどうとか、比較するつもりはない。俺は女の子の―特に恋する女の子の―味方っていうだけ。だから、勿論彼女だって大切な一人。

 だって、彼女は真剣に愛してるんだから。


「恋する女の子って素敵だと思ってるよ?」


 いたって真剣に俺は言葉を返す。けれど、彼女のこえは少し暗いかな。それを私に言うか、と消えそうな言葉が零れたのを落としたりはしない。


「さて、どこにデートをしに行こうか。もちろん、俺が奢るからさ」

「焼肉でもいいのかな」


 構わないさ、それで気分が晴れるのならね。片目を閉じて指を立てる。彼女は肩を震わせると、耐えきれずに噴き出した。作戦は成功かな。


「まあ、アドバイスをするとしたら、恋人とのデートに焼肉はレベルが高すぎるんじゃないかな?」

「君だけは好きになれないよ」


 そんな風に冗談まじりに笑っていられるのなら、いくらでも対象外のままでいたい。それは俺の紛れもない本心だ。だって、態々俺で悩ませたくなんてないからね。それにさ、


「その分、俺が好きでいるから問題なし」

「君はそういう人よね」


 無駄に入っていた力を抜くように彼女は腕を大きく空へ伸ばす。小さく漏れ聞こえる俺に対する評価は聞こえないフリをするべき?

 まあ、振りぬけない友愛ならば俺だって同じくらいあるけどね。


「そんなに大事ですか、俺って存在は」

「どくしん術の得意な彼女と同じくらいには」


 つまりは、数少ない事情を知っている友人として大切に思ってくれてると。言って、信用されるもんでもないし、そりゃそうか。


「それで、今回はどんなおわりが見えたんだい?」


 俺の所に来たって事は、君も他の女の子と同じでしょ。すてきな恋はいつだって君を苦しめる。鯉っていうのは酸いも甘いもなんていうけど、他の子と比べると特に君は苦くなりやすいからなあ。無理には、聞かない。人に伝わるように言葉を選ぶのだって、大変だから。つまりそれは、考えなければいけないわけで。


「好きになんてならない方がいいのかな」


 そんな言葉を彼女に選ばせてしまうくらいには、彼女は苦しんでしまうのだから。俺には彼女の全てを共感することは出来ない。俺は、彼女と同じことを想うことは出来ないから。

 君が少しばかり夢見がちな事も、知ってる。君が人を好きになり易いのも知っている。だから、君の見える影がその分鮮やかなのかもしれない。今、生きているその瞬間がそれだけ君の中で輝いているって事だろ。


「恋する女の子は綺麗になるんだよ」


 君がなんて呼ばれてるか、知ってるかい。それこそ高嶺の華、だそうだ。告白された数は俺と同じくらいだろう。みんな、みんな付き合えないままだけど。

 その理由は、存外簡単で。彼女が好きになったその子の死ぬ姿が見えてしまうから。


「君を殺してくれるような影がみえたら、付き合うのかい?」

「まさか」


 心中がしたいわけじゃないもの。彼女は肩を竦めた。何が理想なんだろう。まさか、死なない相手が欲しいわけじゃないだろうし。甘い夢を見ていたいのだろう。永遠に幸せに暮らしました、みたいな。


「見える未来がそれしかないなんて、暗すぎない?」


 それは一番の衝撃だから、かもしれないよ。そんな言葉を必要としてないのは分かっているから飲み込む。

 返す言葉なんて無くても、言葉を吐き出すだけである程度は満足する。俺に相談なんて半分は愚痴みたいなもの、少なくとも彼女にとってはそうだろう。


「私たちが生きるのは未来じゃなくて、今なのに」


 幸せな未来が見える、そんな予知を彼女がしたいわけじゃないだろう。先なんて、見えなくていいはずだ。


「こうやって自由に恋愛が出来る今だから、付き合ってみたいのにな」


 終わりなんて、その瞬間にあるものだから彼女がそう感じるだけなんだろう。


「恋したいなあ」


 恋に溺れている君が、俺には可愛く見えるけれど。それは可笑しなことだろうか。きっと、若いままなのはそうやって振り続けているから。だったら、いいよね。

 未来を信じられないから、考えられないから。だから、その一歩を踏み出さないように。どこかの魔法使いが君に呪いをかけているのかもしれない。これは俺の勝手な言い掛かりだから、彼女に伝えたりしないけれど。


「老衰で死ぬ姿が見える彼がきっと現れるよ、君は素敵だからね」


 一番早い方法は、君の見えるそれを伝えられるような恋人が現れること。だったりするけれど、それを教えるほど俺は優しくない。どうやら、変な仲間意識が芽生えているみたいだ。

 焼肉デートは次に繰り越しかな。

17.6/18 フリーワンライ

使用フレーズ

舌で舐めとる恋の味

鏡の中の

未来の形をしたあの子

嘘つきの本音


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