第12話 地下室にて・・・
中から、白井さんが出てきた・・・。
部屋の中は、16平米くらいの広さで、壁には、モニターがずらりと並んでいる。
大体、20台くらいあるだろうか。今モニターにうつっているのは、信号が届いておりませんという言葉だけだった。
僕は、なんだこの部屋はと思いながら、真ん中においてある机をみた。
その机は、事務机を四つ長方形になるように合わせたもので
その上には、何やら書類がいろいろ置かれている。
その机には
村木さんが、腕組みをしながら、僕らに背中を向けるような形で、机に腰をかけていた。
「む・・・村木さん???」
そういうと、村木さんは、ゆっくりこちらを向き気さくな笑顔を作り
「おおコータくんか!!」
そう言って、体を机から起こし、こちらに向きなおした。
「大変なことに巻き込まれちゃったね。」
そして僕の肩をポンと叩く。
「説明は恵ちゃんから聞いてよ」
そういって、恵の方をちらりと見た。
僕は、あっけにとられていたが、ゆっくり恵の方へ視線をめぐらした。
その説明は、この無機質な灰色の壁に覆われた部屋で始まった・・・。
「まずはじめに、コータは、諜報活動って知ってる?」
恵が部屋の隅まで行き、ウォーターサーバーから、湯をつぎながら言った。
「諜報活動・・・ってスパイの事?」
僕は、そんな恵の後姿を見ながら言った。
「そう」
恵は、コップを二つ持ちこちらまで歩いてきた。
コップは、持つ取ってがついている部分と、飲み物を入れる部分が分解できる最近のものだ。
取っ手の部分は黒く、飲み物を入れる部分は白い。
そのコップの白い縁に、かき混ぜ棒が添えてある。
中を見ると、はじめに粉をいれていたのだろう、黒く濃いコーヒーになっている。
恵は、それを僕の目の前まで持ってき、その後真ん中にある机に収まっている椅子に座った。
そして、僕にも横の椅子に座るよう促した。
僕もそれにならう。
「今から、20年くらい前かな。当時、世界では、冷戦が終わり徐々に、世界の国々の壁が埋まり始め、グローバル化の兆しを見せ始めていたの。コンピューターの進化や、民主化の運動などにより、今まで社会主義だった国は次々倒れ、または分解され、より良い、民主的な国づくりが始まった。それ自体は、すごく良い事で、国どうしのつまらない諍いなどが終わりを告げ始めていたんだけど・・・」
そういいながら、恵は、コーヒーにミルクを入れ、かき混ぜた。
僕は、そっとコップをもちながら、恵の話に耳を傾けた。
「一方で、今まで、暗躍してきたスパイや、また秘密警察、軍人などは、今までしてきた職を追われ、自分の進むべき道を改めて模索しなければならなくなった。
ある者は探偵になったり、ある者は、テロリズム運動に携わったりと、彼らはそれぞれの道を進んでいっているんだけど、その中で、今までの諜報活動を、基礎にして企業スパイになるものも現れた。
それだけであれば、特に日本自体には、危機を及ぼすようには、見えないんだけど、日本では、スパイを取り締まる法律が整備されていなかったせいで日本でのスパイ活動が活発になったきたの。しだいにスパイ活動は、膨張していき、それはもう完全に戦争と呼べるものになり、それによって日本の国家における重要な情報や、企業の情報が海外に漏れ始めた。それを重く見た日本政府が私たち国防課情報部を作ったの。
私たちは、厳しい訓練や適正検査などをくぐり抜け、海外でも最高クラスのスパイ組織になった。
そして、徹底的にスパイ活動の摘発に力を入れた。」
そこで恵は、コップを口に近づけ一息ついた。
僕は、あっけにとられ、恵が話す内容が突飛すぎたため、どこか別の国の物語のように思えた。
恵はすぐに話を続ける。
「はじめは激化の一途をたどっていた情報戦争も、国防課情報部の活躍によって、沈静化しつつあって利益をめぐる企業や政治家たちの抗争も終息をむかえつつあった。
そこに・・・。
白狼が登場した・・・。」