第11話 夜中にて
恵は、そっと自室から足音を忍ばせるように外に出た。
僕も、それに続き、そっと外に出る。
今まで感じなかったが、少し暑い。
恵は少し前でしゃがみこみながら、暗闇の中をゆっくりと左右を確認しつつ進む。
僕も恵の後を、ついていく。
恵は、片手をすっと前に出し、その手になにやら握られている。
・・・。
・・・。
・・・。
銃だ!!
僕は、にわかに信じられなかった。
だって、ここは日本だ!!
いくらなんでも、最近、日本の安全神話が崩壊したといってはいるものの
銃社会ではない日本では、まだまだ銃の普及率は少なく、銃を持っている人はごくわずかである。
また、日本では銃での犯罪よりも、刃物や鈍器などの犯罪の方がはるかに多い。
そういった意味でも、銃というのは日本では馴染みがない。
その中で、目の前の恵が・・・。
今まで、よく遊んできて、今一番身近にいる友達ともいえる恵が・・・。
なんと、銃を持っている。
正直に言って、通常の日本人の常識としてはありえない状況ではないだろうか。
僕は、本当に状況を飲み込む事が、一部さえも出来なかった。
・・・。
だが・・・
よくよく考えてみると僕は、恵の何を知っているのだろう・・・。
知り合ったのは、事故の後で、月日で考えるとそんなに深くない。
しかも、いま思えば、彼女は僕と話すとき、ほとんど仕事の話しかしなかったような気がする。
当直のときどんなことが起こって、だとか、患者さんにお尻を触られたなど
そんな話ばっかりだった。
・・・何かを隠していたのか???
そして、一緒に遊んでいるときにするふと悲しそうな表情も
その時は、僕と遊んでいても面白くないのかななどと思っていたが
今考えると、何やら、面白くないなどの単純な理由ではないような気がする。
あれこれ、考えてみたが、
現実に今、恵は銃を持っている。
また、持ち方などを見ていると使い慣れているような気さえする。
僕は、そういった事実を、弁解のしようもないように見せつけられ
僕は恵の事は何も知らないと、これでもかというぐらいの衝撃で気付かされた。
僕は、これはいいことか悪いことかそれさえも判断する事が出来ないほど頭は混乱していた。
ただ・・・。
恵の事を何も知らないと気付かされ、心の中に何やら、落胆と形容すればいいのか、空虚と形容
すればいいのか、そういった不快な気持がじわじわと広がっていく、それは感じることができた。
またそれと同時に、恵の事を知っていると思い、浮かれていた自分にも腹が立つ。
とにもかくにも、恵は僕の部屋の前で止まった。
「コータの部屋に入りましょ」
恵はそういうと、ドアを静かに開けた。
中に、恵が入る。
続けて僕が入る。
そして、部屋をぐるりと見渡した。
!!!!。
なんだこれは!!!!!
ベッドが散乱している。
だがよくよく見ると、ただ散乱しているというわけではなく、
シーツの中身が出ていることから察するに
なにやら、刃物で何度も刺されたような感じを受ける。
また荷物は、壁に投げ出されたのか、壁側に散らばっている。
僕は、その場に立ちすくんだ。
「コータ、とりあえず必要なものだけ持って」
恵は、そう言って僕に、手持ち用のバッグを胸に押し当てた。
僕は、それをゆっくり、手に取った。
なんだってんだ!!!
まったく理解できねーことばかり、起きやがる!!!
本当にどうなってんだ!!!
そう思っていると、恵が言った。
「時間がないから早くして!!!」
そう言われ、我に帰った僕は、とりあえず服など身の回りのものをカバンに詰めた。
「終わったよ・・・。」
僕は、静かに言った。
「そう・・・。じゃ、行こうか」
恵が言う。
そして、また静かに外に出た。
廊下を体勢を低くし、ゆっくりと階段の方へ進んでいく。
そして、真っ暗な階段を一段一段降りていく。
そのまま、一階におり、
建物の中央の方へ、進んでいく。
ぼうっと騎士の鎧が外の月明かりを受け光っている。
僕は、その騎士に不気味さを覚えながらもその前をゆっくり通り過ぎた。
そして、ひとつのドアの前で恵は足を止めた。
恵は何もためらわずゆっくりとドアを開ける。
・・・。
見たことがある大きな机が真ん中に置いてあった。
食堂だ・・・。
机の周りには、きれいに椅子が並んでいる。
恵は、
「こっちよ・・・」
と言いながら、机を左に見てまっすぐ進んだ。
そして、
暖炉の前でその歩を止めた。
恵が急にとまったので、一瞬、恵にぶつかりそうになった。
「ちょっとまってて。」
恵はそう言うと、周りを見渡し
僕たち以外に誰もいない事を確認すると、
暖炉の木の一本についている突起物を、ぐっと押した。
すると、なんと暖炉の木が音もなく左へスライドし始めた。
それに続き、床も音ひとつなく左へスライドを始めた。
どういう構造になっているんだ・・・。
スライドが止まると中からは、下に続く階段が現れた。
地下室か・・・。
そういえば、浜田財閥の謎のひとつに地下室があったな。
ここがそうか??
中は、真っ暗で全く見えない。
階段だけが、薄く月明かりを反射し浮き上がっている。
その姿はまるで、冥界へと続く階段のように見えた。
少し、僕は、不気味さのため、寒気を感じながら、恵が階段を下りて行ったので
それに続いた。
階段を下りるとそんなに進まないうちに、鉄の扉が見えて来た。
その鉄の扉は、最近に作られたのか、汚れが少ないような気がする。
恵は、その扉の前に立ち止まると
「私よ・・・。あけて」
と言った。
すると鉄の扉が、奥からゆっくりと開き
中から、白井さんが出てきた・・・。