天命
* * *
* * *
カルキノスとナルテークスがそろって家に帰ってきたときの、アクシネの喜びようは大変なものだった。
彼女はいつものごとく兄を地面に突き倒して頬ずりしてから、そこらじゅうを跳ねまわって歓声をあげた。
だが、カルキノスは、自分が生きてこの家に戻ったことを、諸手をあげて喜ぶ気にはなれなかった。
「すまない。……疲れてるんだ」
なおも笑顔であれこれと話しかけてくるアクシネをさえぎり、カルキノスは、自分に与えられた部屋に閉じこもった。
ナルテークスのほうはといえば、ほとんど家にも入らず、すぐに兵舎へと戻っていった。
――どんなものなのだろう。
一人で寝台に横たわり、粗末なつくりの天井を見上げていると、ナルテークスが帰っていった兵舎の様子が心に浮かんでくる。
生き延びた戦士たちが、それを互いに喜び合うこともなく、沈んだ顔つきで座っている。
寝床には、いくつもの空きができている。
かつて言葉を交わし、訓練で拳を交えた戦友たちが、今は、もういない――
(ゼノン)
見開いた両目の端から、涙が溢れ出た。
同時に、凄まじい不安が襲ってくる。
それはもはや肉体的な感覚とさえ言えるほどであり、全身を締め付けられるような重圧だった。
カルキノスは横たわったまま、衣の胸元をつかみ、激しい呼吸を繰り返した。
『俺が、スパルタを守る』
何故、あんなことを言ってしまったのだろう。
あの瞬間、自分とは違う何者かが、自分の喉を借りて物を言ったかのようだった。
この自分が、スパルタの将軍として戦う?
そんなこと、できるはずがないのに。
皆と同じ速度で歩くことさえもできない自分が、武装して最前列に立ち、押し寄せてくる敵と戦うことなど、絶対に不可能ではないか。
だが、決して、石打ちから逃れるために出まかせを言ったのではなかった。
むしろあのときは、死の運命を、逃れがたいものとして受けいれる心境にまでなっていたのだ。
それなのに、なぜ――
(ゼノンの名誉を、守るためだ)
彼が悪しざまに言われるのを耳にしたとき、体の奥底に火がついたような気がした。
ゼノンは、命を賭けて自分を守ってくれた。
だから、自分もまた、守らなくてはならない。
ゼノンの名誉を。
ゼノンが命にかえても守ろうとした、このスパルタを。
だが――
(どうやって?)
自分にできることといえば、詩歌を歌うことだけ。
それによって、味方の勇気を鼓舞することはできるだろう。
だが、敵の士気を挫くことまではできない。
せめて、メッセニアを呪う歌を作り、人々のあいだに流すか?
かつて、アテナイで、アポロニオスの鼻を明かしてやったときのように……
いや、駄目だ。
人が、人を呪うならば、それによって相手が悩み苦しみ、怯えなければ意味がない。
状況が完全にメッセニア側に有利なものとなっている今、そんな真似をしたところで、負け犬の遠吠えよと嘲笑われるだけだ。
ならば、どうする。
どうすれば――?
再び、全身に凄まじい重圧を感じた。
カルキノスは涙を流しながら喘ぎ、身をもがいた。
どっと襲ってきた凄まじい疲労感は、あるいは、神々の慈悲であったのかもしれない。
カルキノスは泣きながら目を閉じ、そのまま意識を手放した。
そうして、夢を見た。
自分は、深い穴の底にいて、上を見上げている。
丸く切り取られた空が遠くに見え、そのふちから、大勢の人々がこちらを見下ろしている。
長老たち。
アナクサンドロス王。
老予言者とロバ。
エフェイオス。
少年たち。
グラウコス。
そして、ナルテークス。
彼らは皆、手に大きな石を持っている。
そして、それを次々と投げ落としてくる――
穴の底にいるカルキノスに向かって。
(痛い、痛い、痛い!)
頭をかばった腕にも、顔にも、がんがんと石がぶつかる。
腕が折れる。頭が割れて、血が吹き出す。
体が、重く冷たい石に埋まっていく。
(痛い! やめてくれ! 助けて!)
必死に振り仰いだ視界は血と涙で曇り、その向こうに、穴のふちから見下ろしてくる血塗れの戦士の姿が見えた。
(ゼノン――)
彼は悲しげな顔つきで首を振り、こちらを真っ直ぐに見下ろしたまま、手にした長い槍を振りかぶった。
(助けて!)
稲妻のように投げ下ろされたゼノンの槍が、喉に突き刺さり、体を串刺しにする。
(嫌だ――!)
声もなく両目を見開くと、みすぼらしい天井が見えた。
本当に喉から尻まで串刺しにされたかのように、全身が硬直している。
身動きひとつできない。
では、今の「夢」は現実で、自分は、本当に処刑されてしまったのだろうか――?
「むおん?」
奇妙な声が、聞こえた。
同時、
「ぐえ!」
力加減なしに胸と腹を押さえつけられ、カルキノスは潰れた蛙のような声をあげて足をばたつかせた。
「カルキノス! おきたかあ!」
アクシネだった。
彼女はどうやら今の今まで、カルキノスのみぞおちの上に頭をのせて熟睡していたらしい。
身動きができなかったのはそのせいだ。
カルキノスの胸と腹に遠慮なく両手をついて立ち上がったアクシネは、上機嫌にこちらを見下ろして笑いかけてきた。
「さあ! はやくたべよう! はやく、はやく!」
「食べるって……何を」
「ばんごはんー!」
両手をとられ、あっという間に寝台から上体を引き起こされる。
「きょうのうさぎも、わたしがとった! えらい、えらい! わたしは、とってもえらいなあ!」
「待ってくれ……!」
上半身だけずるずると寝台の外に引っ張りだされながら、カルキノスは必死に言った。
「悪いけど、今は、いい。食欲がないんだ。とても食べられ……うおッ」
ぱっと両手を放されて、カルキノスは前のめりに床に転げ落ちた。
辛うじて両手を突き出し、鼻が折れることだけは防いだが、自分の上体の重さを支え切ることができずに、土の床に頬をぶつけた。
ものすごく痛い。
生理的な涙がふきだした。
思わず怒鳴りつけようとして、そうできなかったのは、憤然と顔をあげた瞬間に目に飛び込んできたアクシネの表情が、見たこともないほど悲しそうだったからだ。
「まってたのに……」
彼女は、今にも泣き出しそうな声で言った。
カルキノスは、慌てた。
アクシネが泣いたら、何だか、ものすごく大変なことになりそうな気がする。
――さらによく考えてみれば、先ほど、アクシネがこちらのみぞおちに頭をのせて眠るなどということをしていたのは、なぜだったのか?
もしかすると、彼女は、ナルテークスとカルキノスの帰りを待っているあいだ、ろくに眠っていなかったのではないか。
兄たちが、無事に戻るかどうか。
もしかすると、重い傷を負うのではないか。命を落とすのではないか。
その不安や焦燥は、あるいは、自ら戦場に立つ男たちと同じくらい大きなものであったかもしれない。
自分自身では戦うことのできないカルキノスが、まさしく感じていたようにだ。
「アクシネ……」
「まってたのに、たべないと、たべないとなあ」
ごめん、とカルキノスが言うよりもはやく、アクシネは目を見開き、子供をおどかすときのように両手をあげて、
「すっごーく、たいへんなことになる」
何やら漠然とした身ぶりをした後、下ろした手を、腿の横でぶらぶらしている斧の柄にそっと置いた。
「分かったよ……」
いろいろな意味で観念し、カルキノスはのそのそと寝台から降りた。
ぐいぐいと引っ張られながら入った居間には、食事の用意がすっかり整えられていた。
アクシネが神妙な顔をして神々への捧げものをすませると、
「よくぞ、お戻りに」
テオンがやってきてパンや副菜を手際よく取り分け、スープを注いでくれた。
食欲がない、と先ほどは言ってみたものの、こうして旨そうな料理を目の前にすると、口と腹とが、ひどくそれらを欲していることに気づく。
カルキノスは、ありがたく食べた。
温かい食事の味が、これほどまでにしみじみと感じられたことはこれまでになかった。
当然のように目の前に置かれた黒スープさえも、その風味が懐かしく、滋養が心身にしみわたるような気がした。
アクシネはといえば、自分の食事に手をつけもせずに、カルキノスが食べる様子を、にこにこしながら見ている。
「何だい? アクシネ」
アクシネがあまりにもまじまじと顔を見つめてくるので、食事に集中できない。
「何だか、楽しそうだけど」
「だって、みんなが、かえってきたからなあ!」
彼女が笑顔で叫んだ言葉に、カルキノスは表情をこわばらせた。
「みんながいきてて、よかったぞお。グラグラーゴロゴローは、げんきだったかあ? いっぱい、あばれてたか?」
グラウコスのことに違いないが、彼女の大胆な言い間違いにふき出すような気持ちには、今はなれない。
「うん……そうだ。でも……」
カルキノスは膝にかかった衣をかたく握りしめ、アクシネの顔を真正面から見た。
「アクシネ。よく、聞いてくれ」
「なに?」
「ゼノンは、戻らなかった」
「なんで?」
打てば響くように訊き返してくるアクシネは、まだ、にこにこしている。
「ゼノンは……死んだんだ」
「しんだ?」
アクシネの顔から、抜け落ちるように笑みが消えて、ぽかんとした表情になった。
「ああ……」
スパルタでは、男が悲嘆や恐怖の感情をあらわにすることは、この上ない恥であるという。
アクシネの前では、決して泣くまいと思っていたのに、涙が滲んできた。
「彼は……ステニュクレロス平野で、勇敢に戦って、死んだ。とても、立派に……」
「しんだ?」
カルキノスの言葉を繰り返しながら、アクシネが立ち上がった。
虚脱したようだったその顔が、急激に歪み、
「いいぃぃやだあああああ!」
彼女は両腕を振り回し、両足で地面を踏み鳴らしながら喚き散らしはじめた。
あまりにも激烈な反応に、カルキノスは絶句した。
アクシネの足が激しく食卓にぶつかり、壺と皿が吹っ飛んで中身が飛び散った。
「しんだ! いなくなっちゃった! ゼノンが、いなくなっちゃった! もうしゃべれない、しゃべれない、もうぜったい、しゃべれないんだあああああ!」
カルキノスが中腰のまま唖然としているうちに、アクシネは土の床に倒れて転げ回り、手の骨が砕けてしまいそうな強さで地面を打ち叩き始めた。
騒ぎを聞きつけた奴隷たち、テオンとアイトーンとグナタイナが部屋に飛び込んできて、あまりの狂態に硬直する。
「いやだああああ!」
アクシネは涙を流しながら身をよじり、喉も裂けんばかりに絶叫した。
「あああああぁ! おとうさんとおかあさんとおんなじだあ! おとうさんもおかあさんも、しゃべれなくなったんだ! いなくなっちゃった、いなくなっちゃった、いなくなっちゃったああああ! いいいぃやだあああああ」
(お父さんと、お母さん!?)
アクシネの口から、ナルテークス以外の家族のことが出るのを初めて聞いた。
だが、今、そんなことはどうでもいい。
「アクシネ!」
カルキノスは、きかない右脚が許す限りの動きで、床を転げ回るアクシネに駆け寄り、その肩を掴んだ。
涙がぼたぼたと零れてアクシネの体の上に落ちたが、それも、今はどうでもよかった。
「いいか……聞け、聞いてくれ! ゼノンは、本当に勇敢だったんだ。みんなに尊敬されて……立派に弔われる。お墓に行けば、また、彼に会える……」
「うそだあッ!」
アクシネが腕を振り回し、カルキノスの手を振り払う。
彼女は、カルキノスを睨みつけた。
「お、お、おはか! おはかなんてなあ! い、い、い、いしが、おいてあるだけだ! ゼノンは、いなくなっちゃった! もうしゃべれない! もう、しゃべれないんだあああああ」
「うん、もう、しゃべれないけど――」
とめどもなく涙を溢れさせながら、カルキノスは、言葉を続けた。
「ゼノンは、いなくなってなんかいないよ」
「うそだ!」
アクシネは頭をかきむしり、両脚を激しくばたつかせた。
「しんだひとは、いなくなるんだ! もう、あえない!」
「心で、また会える」
カルキノスは言った。
「俺……ゼノンのことを、詩に作ったんだ。それを歌えば、ゼノンのことを思い出す。あの顔や、声や、槍さばきのことを。死んだ人のことを思い出すというのは、心で、その人に会うことなんだ。それに――」
話しながら、カルキノスは驚いていた。
言葉が、ひとりでに流れ出てくる。
こことは違う深みから生まれ出でて、暗いなかを浮かび上がり、自分の口を通して、光の当たるところへあらわれ出るもの――
「それに、詩に歌われた人は、決して、死なないんだよ」
「うそだ、ゼノンはしんだ! もう……いなくなっちゃった……」
「確かに、そうだ」
頷いて、カルキノスはもう一度、アクシネの肩に両手を置いた。
「人間の命には、限りがある。誰でも、生まれたら、生きて、死んでゆく。それでも……詩に歌われた者は、永遠に生き続ける。つまり、みんなの心の中に、その人が生き続けるんだ。歌に終わりがなければ、その人の命にも、終わりはない。永遠なんだ……」
無我夢中で言葉を続けるごとに、自分自身の心を分厚く覆っていた雲が不意に切れ、そこから光が射してくるような気がした。
(そうか……)
今までは見えていなかったものが、その光によって、あますところなく照らしだされる。
(それこそが……)
限りある命しか持たぬ人間。
その姿に、心に、生き様に――
みずからの言葉のわざによって、永遠の息吹を吹き込むこと。
それができる者が、詩人なのだ。
それをなすことこそが、詩人の使命なのだ。
目を見開き、だらりと両手を下ろしたカルキノスの前で、アクシネが、不意に立ち上がった。
狂乱状態から一転して、急に静かな顔つきになった彼女は、カルキノスに背を向けると、何も言わずに歩いて部屋を出て行った。
部屋の入り口にかたまっていたテオンたちがあわてて飛び退き、道をあける。
彼らがおろおろと出入りして床を片付けるのにもほとんど注意を払わず、カルキノスは、凝固したように動かなかった。
「みんなの心の中に、その人が生き続ける……歌に終わりがなければ、その人の命にも、終わりはない……」
(輝けるアポロン神は、この俺に、そうせよと……)
床に座りこみ、自分自身の言葉をぶつぶつと繰り返すうちに、自分のなすべきことが分かり始めたような気がする。
だが、それはまだ、漠然とした予感のようなものでしかなかった。
いくら詩人の使命を悟ったところで、それでメッセニアを打ち負かし、スパルタに勝利をもたらすことができるかといえば、それはまた別の話である。
だが、それでも、先ほどの瞬間に心の中に射しこんできた光――
遥かかなたの先までをくっきりと照らし出すようなあの光は、確かに本物だった。
カルキノスは、その光をつかまえ、心の中で握りしめた。
ずいぶんと長いあいだ、そのまま、床に座っていた。
やがて、スープの湯気もまったく立たなくなるころになって、
「さあっ!」
急にどかどかと聞こえてきた足音に、我に返る。
入ってきたのは、アクシネだ。
先ほどの狂乱状態が夢か幻であったかのように、にこやかな顔つきだ。
もしも、床に残されたしみや小さな陶器のかけらがなかったら、先ほどの出来事は夢だったのだと本当に思いこんでしまいそうな変わりようだ。
「はやく、はやく! はやくたべよう!」
アクシネは呆気に取られているカルキノスの両手を掴み、とんでもない膂力で引っ張って立ち上がらせた。
「ばんごはんだー! ばんご……あれ、あれ!? ない!」
「さっき、蹴飛ばしたからですよ」
入口から、そっとテオンが言う。
無事に残っているのは、よりにもよって、黒スープ入りの大きなうつわだけだ。
「けとばしたのか! だれが?」
「アクシネさんです」
「わたし?」
「そうです」
アクシネは不可解そうに首をひねっていたが、すぐにまた笑顔になって、
「じゃあ、くろいスープだけたべる!」
勝手に納得した。
「では、温め直してきますね」
テオンが黒スープを再び火にかけて温め直すあいだ、カルキノスはアクシネに、例の歌を教えてやった。
ゆっくりと、何度も繰り返して教えたのだが、
「さいぜんれつにー、たてとやりを……ふんふふーん、ふふふふーん」
途中から、どうも違う歌になっているようだ。
嬉しそうに体を揺らし、笑顔で鼻歌を歌うアクシネに、カルキノスは、
「もう、悲しくなくなった?」
思わず、そう訊かずにはいられなかった。
アクシネは歌うのをやめ、カルキノスをまっすぐに見返して答えた。
「いくらかなしくても、しんだひとは、もうかえってこない」
そして、カルキノスが何かを言う前に、
「ほまれ、ほまれー! ふーんふんふん」
また違う歌を歌い出し、
「いいなあー、ほまれ! わたしも、しごとがしたい! しごと、しごと!」
黒スープを飲み下そうとしているカルキノスの両肩をつかんで、がくがくと揺さぶる。
いつもそうだが、力加減というものがまったくない。
危うくスープが鼻から出そうになった。
「しごとって……まさか、戦争に出て、戦うつもりかい? それは、無理だ。危ないよ! グラウコスなんて、もう少しで、顔面を刺されそうになったらしい」
アクシネは、ぴたりと動きを止めて、まじまじとカルキノスを見た。
「なにで?」
「え? ……なにで、っていうのは……?」
「ほらあ、こう、かおを、ぶすっと」
人差し指で、目の前の空間を突き、アクシネは首を傾げた。
「ゆびで、かあ?」
「なんでだよ」
思わず脱力しながら、カルキノスは答えた。
「槍でに決まってるじゃないか、戦争なんだから。危ない――」
「なんで?」
アクシネは、まだ不思議そうな様子だ。
「なんで、そいつら、やりなんかもってる?」
「なんでって……それは、戦争、だから?」
「へんだな。とっても、へんだなー!」
アクシネはますます派手な動きで首を傾げながら、大声で言った。
「だれも、そんなやついないぞ?」
「何? それは、どういう……」
「やりなんか、もったらだめなんだぞ。あぶないから!」
「危ない?」
「うん」
うなずくアクシネは、大真面目である。
「スパルタじんじゃなかったら、やりなんか、もったらだめだ。ぶきだから。あぶないんだぞお」
「武器……」
その瞬間、カルキノスは思わず立ち上がっていた。
稲妻に打たれたように、ひとつの閃きが下ったのだ。
「そうかっ!」
叫び、駆け出そうとして、
「ぐえ!」
思い切り首を絞められ、カルキノスは足だけ前進しながらそのまま転倒した。
犯人は、言わずと知れたアクシネだ。
彼女はカルキノスの衣の背中をしっかりと握りしめたまま、引っくり返っている彼に向かって、おごそかに食卓の上を指さした。
「くろいスープ、まだのこってる」