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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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飛翔

 戦闘態勢を取る十四郎の元に、凄い形相のランスローがやって来て叫んだ。


「今、ここで決闘を申し込む!」


「あの敵船が見えないんですか!」


 割って入ったマルコスの叫びも無視し、ランスローは更に凄い形相で十四郎を睨んだ。


「この戦いが終わってからでも、宜しいですか?」


 十四郎は敵船から目を離さずに、静かな声のまま背中で言った。


「今だと言っている!」


 振り向かない十四郎にランスローは、そのまま斬り掛かった。マルコスの心臓が鷲掴みにされた瞬間! 超速抜刀した十四郎は下方から斬り上げる。微かな金属音が潮風に溶けると、ランスローの剣先が甲板に突き刺さった。


 剣を受けられた感触は無い。まるで自分の剣が、野菜か何かみたいに切り落とされる光景がランスローの網膜に映った。真っ二つに切断された剣は重さを失い、ランスローの腕の中で空回りした。


 冷や汗が滝の様に流れ、振り向いた十四郎は既に刀を仕舞っていた。笑顔なのか、睨んでいるのか曖昧な表情で、ランスローの目に映った十四郎は静かに言った。


「決着は、後ほど……」


 遅れて怒りがランスローを襲い、腹の底から湧き出す震えを抑えられずに叫んだ。


「今、決着を着ける!!」


「いい加減にしろ!!」


 周囲を驚かせる大声でマルコスは叫んだ。一瞬で静寂を引きずり出した後、マルコスは声のトーンを落とした。


「周りを見て下さい、味方の兵は今から死を覚悟した戦いに臨む所なのです。戦う相手が違います。アングリアンの英雄が戦うべきは、あのマカラ兵です」


 マルコスに言われて気付く、迫る敵船には赤い目をした亡者が群がっていた。


「しかし、私の……」


「十四郎は逃げません、今はお待ちなさい。それに、あなたの仕事は姫殿下の護衛でしょう」


 それでも納得がいかないランスローも言葉を途中で遮り、マルコスは低い声で言った。


「どうか、お止め下さい」


 一人のアングリアンの騎士が、ランスローに懇願した。気付くと多くの兵士が不安な眼差しで、ランスローを見詰めていた。沸騰する血は、一気に冷めランスローは小さな声で言った。


「分かった」


 折れた剣を海に投げ捨て、ランスローはラナの元に戻って行った。そして、十四郎は何事も無かったかの様に敵船に視線を向けていた。


「あれ以上ランスローが言い張れば、リルの奴に射ぬかれてたな……」


 大きな溜息の後、何時の間にかマストを降り無表情で弓を構えるリルを見ながら、マルコスは呟いた。


_________________________



 敵船は速力を生かし横に並ぼうとしてくるが、操舵手はクックルの的確な指示の元、必死の操船で距離を保っていた。


 マルコスは弓兵達の指揮をクックルから任されていて、近付いた瞬間に敵兵の心臓を射ぬけと指示を出していた。だが、揺れる船上では放たれた矢が命中する確率は低く、悪戯に矢を消耗するだけだった。


 マルコスを筆頭にココやリルは確実に仕留めてはいたが、如何せん敵兵の数が多かった。当然相手も弓は放って来る、味方の損害の方が遥かに多かった。十四郎やツヴァイ達は先頭に立ち矢を切り落としてはいたが、それも限界があった。


「飛んで来る矢を打ち落とすなど、私には荷が重い! いっそ斬り込みたいくらいです!」


 奮戦するフォトナーはマルコスに笑顔を向けるが、マルコスには笑い返す余裕がなかった。何しろ消耗するのは味方ばかり、確実に命中させる事が出来るのが自分達三人だけでは先が見えていた。


 だが、敵船がかなりの距離に近付いた瞬間に十四郎が跳んだ。その姿は太陽を反射して神々しさも感じさせるが、見ていた全員が凍り付いた。如何に船が波に沈み込んだ反動を利用したとしても、普通に跳べる距離ではなかった。


 しかしそんな常識さえ簡単に覆し、十四郎は音も無く敵船に立った。そして、ゆっくりと刀を抜いた。


「十四郎様!」


 叫んだツヴァイが跳ぼうとするが、直ぐに開く距離に足が出なかった。


「行きたいか?」


 リルが矢を放ちながら聞くと、ツヴァイは即答した。


「当たり前だ!」


「師匠!!」


 リルが、マルコスの背中に怒鳴る。仕方なくマルコスは呟きながら、クックルの元に走った。


「師匠を使い走りにしやがって……」


____________________________



「十四郎が一人で敵船に乗り移った! 一瞬でいい! 船を近付けて下さい!」


「どうするんですか?!」


 マルコスの形相に驚いたクックルが、大声で聞き返した。


「加勢を送ります!」


「分かりました! 次で行きます! 一度だけです、それ以上は無理ですから!」


 返事を貰ったマルコスは駆け戻ると、ツヴァイに叫ぶ。


「一度だけだ! 行くのは誰だ?!」


「私とゼクス、それにノインツェーンです!」


「俺達もだ!」


 ツヴァイの言葉に被せ、ココが叫びリルが頷いた。


「分かった! 死ぬなよ!」


 マルコスが叫び返した途端、船が近付く。最初にリルが飛び出し直ぐにココが続き、ツヴァイ達が後を追った。


「正気か……あそこに乗り込むなんて」


 フォトナーが呟き、他の騎士達も唖然と見送るしか出来なかった。


_________________________



「敵兵、マカラ兵だってさ」


 様子を見に行っていたダニーが、開口一番呟いた。瞬時にビカンカの胸が凍り付き、リズが止める暇もなく船室を飛び出した。


「あなた達は、ここを出ないで!」


 叫んだリズは急いで後を追うが、リズの胸もまた氷に包まれていた。十四郎が眠ったままになったのは、マカラ兵との戦いの後……ビアンカが、どれだけ無茶をするかなど、考えただけでも恐ろしかった。


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