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異世界維新 大魔法使いと呼ばれたサムライ   作者: 真壁真菜
第三章 確立
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旅立ちの前

「どうやってイタストロアを通り抜けるか? 俺の提案は、大道芸人に扮し通り抜ける事だ」


 部屋を移動すると、マリコスは深刻な顔で話しを始める。テーブルには全員が座って、その話に聞き入っていた。


「それなら大人数での移動も怪しまれない」


 直ぐにココが賛同する。


「全部で何人ですか?」


 正面に座るビアンカは、背筋を伸ばし一番に質問した。


「ここにいる人数以外に、ミランダ砦のフォオトナー以下20人、それと確定ではないが後、10人程加わる予定です。総勢は40人くらいになるかと……」


「かなりの人数ですね。その様な人数が必要なのですか?」


 腕組みしたゼクスは、一個小隊に匹敵する人数に首を傾げた。


「万が一、敵に正体がバレた時には、少人数では全滅の恐れもある。これでも少ないくらいだ」


 真剣な顔のマルコスの表情に、一同は敵中突破の難しさと危険性を実感した。少しの間、沈黙が訪れるが違う問題も存在した。


「私は”芸”など出来ない……」


 少し俯いたツヴァイは、小さな声で言った。


「おもな芸としてココの玉乗り、リルの綱渡り、二人は弓で色々な技も見せられる。それと十四郎の試し斬り。その他の者は雑用に当たる」


「私もですか?」


 マルコスの説明に、十四郎はポカンとした。


「聞いたぞ、お前は破城槌を真っ二つに斬ったそうじゃないか」


 嬉しそうなマルコスに、十四郎は苦笑いした。


「私はシルフィーと、何か芸を考えます」


 胸を張るビアンカに、目をテンにしたリズが突っ込む。


「芸って……乗るだけじゃ、駄目なのよ」


「大丈夫、私とシルフィーに任せといて」


 自信タップリのビアンカは笑顔を振りまくが、リズは大きな溜息を付いた。


「それと……」


 急に声を小さくしたマルコスが、ビアンカやリズ、ノインツェーンやリルを交互に見た。


「えっ?」


 明らかに何かお願いと言うマルコスの顔に、リズは嫌な予感に包まれる。


「私に出来るなら、何でもする」


 ノインツェーンは、出番が来たと身を乗り出した。当然、出番の多いリルを横目で睨みながら。


「その……」


 マルコスは明らかに口籠る。リルやノインツェーンの方は見るが、ビアンカやリズには視線を合わせない。


「言って下さい。私に出来るなら、やります」


 凛としたビアンカの言葉に、マルコスは重い口を開いた。


「その……ですね……芸の目玉として、際どい衣装を着て頂いて、ダンスをして頂きたいのですが」


「はぁ?」


 真っ赤になったリズが立ち上がり、マリコスを睨んだ。


「際どいって、どれ位いですか?」


 プロポーションに絶体の自信があるノインツェーンは、自信タップリに立ち上がると更に横目でリルを見た。


「一応、持って来てはいるのですが」


「見せて下さい」


 小さなマルコスの声に、ビアンカは冷静に言った。


_______________________



 テーブルの上に広げられた衣装を男性陣はまともに見れなかったが、ノインツェーンは平気な顔で一番露出が多い衣装を取った。


「それ、殆ど布の部分が無い」


 唖然とするリルに、ノインツェーンは勝ち誇ったみたいに言った。


「あなたは、そのお子様みたいなドレスがいいのでは?」


 確かに幼児体型のリルには他に選択肢はなくて、ノインツェーンを睨みながら手に取った。


 ビアンカは、胸元や腰の辺りのスリットが大きい衣装を選んだ。薄いベールは付いているが、身体の線はモロに出る。仕方なくリズは残った衣装を見る、胸元や腰の辺りは切れ込んではいないが完全に体の線は出そうだった。


「それでは、隣の部屋で試着しましょう」


 一番に席を立つノインツェーンを先頭に嫌々そうなリルやリズが続き、最後のビアンカが部屋を出ようとする時、マルコスはすまなそうに声を掛けた。


「ビアンカ様、その、大道芸の目玉には欠かせないのがダンスでして……」


「分かっています。私も幼い頃、父に連れられて見た事がありますから」


 ビアンカは、そう言うと隣の部屋に向かった。男達は全員が赤面し、十四郎も例外ではなく赤くなった顔を窓際で冷ましていた。


「何? それ……」


 リズはノインツェーンの姿に唖然とした。ほんの少しの布から覗く、やや浅黒い肢体は周囲に妖艶な色香を発散していた。リズだって、そんなにスタイルが悪い訳ではないが、ノインツェーンの前では色艶など無いに等しかった。


 でも、振り返ってみたリルは清楚で愛らしく、何故かリズを安心させた。そんな安心感も束の間、ビアンカを見たリズは衝撃に包まれた。


 スリットから覗く純白の肌。その肌理は絹の様に細かく、形の良い胸や細いウエストにリズは胸を締め付けられた。ノインツェーンとは全く異なる”女”としての魅力は、どう考えてもビアンカの圧勝だった。


 悔しいリズは、お約束のビアンカいじりで溜飲を下げる。


「十四郎様が見たら、喜ぶね」


 効果てき面。全身を真っ赤に染めたビアンカは、その場で固まった。


「そんなんで、踊れるのか?」


 呆れた様なリルの横で、プライドを引き裂かれたノインツェーンも同じ様に固まっていた。


_________________________



 ビアンカは、白いブリンカーを持って満面の笑顔でシルフィーの待つ馬小屋に向かった。


「シルフィー、今度の遠征にはこれを付けてね」


「何なの、それ?」


 シルフィーは首を傾げ、ビアンカの手にある物を見た。


「これはブリンカー、馬術競技とかで使う”マスク”よ。あなたは、有名だから変装しないとね。アルフィンはこっちの青よ」


「私も?」


 アルフィンも、同じ様に首を傾げる。


「十四郎と一緒に行きたいでしょ? あなたは、周囲の国々でも有名だから」


「それを被ったら、十四郎と一緒に行けるの?」


 目を輝かすアルフィンに、ビアンカは笑顔を向けた。


「そうよ。これで誰も気付かないよ。神速のシルフィーと、天馬アルフィンだって事には」


「ビアンアカ殿」


 ふいの十四郎の声にビアンカは赤面した。さっきの衣装の事を考えるだけで、顔からは火が噴き出しそうだった。


「十四郎、これを被ったら一緒に行けるのね!」


 大喜びのアルフィンは、十四郎に抱き付く。そっと首筋を撫ぜた十四郎は、優しく呟いた。その暖かい様子に、シルフィーもなんだか嬉しくなった。


「アルフィン殿、頼りにしてます」


「十四郎……私、シルフィーやアルフィンの言葉が分かるの」


 急に胸が苦しくなったビアンカは、十四郎に駆け寄った。そう言えば、あの後も何も十四郎と話していない、何も報告していない。堰を切ったみたいにビアンカは、真桜の事や小夜や勇之進の事を話した。


 笑顔の十四郎は、ビアンカの話が終わるまで黙って聞いていた。


「そうですか、真桜は元気でしたか……皆さんも……」


 話が一段落すると十四郎は、しんみり呟いた。


「十四郎は帰りたくないのですか?」


 本当はココの奥に仕舞っていたい言葉を、俯いたビアンカは呟く。十四郎の笑顔が、とても寂しそうに見えたから。


「私の帰る場所は……どこなんでしょうね」


 自問するみたいな口調はビアンカの胸に響く、喉の手前まで出かかった”ここ”って言葉を飲み込むと、ビアンカは無理して笑った。


「一緒に探してあげる……」


「はい……」


 十四郎はビアンカの目を真っ直ぐ見ながら、小さく頷いた。


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